Lookin' for


結局、先に酔い潰れたのはミラージュの方だった。
自動運転システムに助けられ、何度か来たことがある彼の家にたどり着くと、オクタンは運転席からへべれけの男を引っ張り出し、苦労してベッドまで運んだ。
キッチンやリビングは知っているものの、ベッドルームに入るのは初めてで少し緊張する。
落ち着いた内装に、二人で寝ても十分余裕がありそうな特大のベッドに敷かれたシーツは、几帳面な性格のミラージュらしく皺ひとつなく綺麗に整えられていた。
そこに半分眠っているミラージュの体を横たえて、オクタンもふかふかのベッドに登ってみる。自分の部屋の簡素なベッドとはまるで違う極上の感触に、思わず飛び跳ねてみたくなる気持ちを抑えられなかった。
「……なんだか、揺れてるぞ、オク……」
波打つベッドの上で、ミラージュの手が庇うようにオクタンの腕を掴み、そのまま力なく垂れ下がっていった。
しばらく様子を見ていたが、濃いまつ毛に縁取られたまぶたはそれっきり開くことなく、ミラージュは今度こそ本当に眠ってしまったようだった。
オクタンは足元で静かな寝息を立てている髭面の男の、ふっくらと柔らかそうな唇をふにふにと押した。
感触を楽しむように輪郭を指で辿り、問いかける。
「……ミラージュ、エリオット……ウィット、本当のお前はどこにいる? 隠れてねぇで姿を見せろよ……」
ベッドの上であぐらをかき、耳を澄ましてみても当然答えはない。このまま隣に潜り込んで眠っても、きっと何事もないまま朝を迎えるのだろう。
それを物足りなく思うこの気持ちは、とっくに友人という枠からはみ出している。
「ふぁーあ……ヤベェな」
大きなあくびをひとつして、オクタンはミラージュの隣に寝転がった。向かい合って顔を近付け、閉じたまぶたの上を走る傷跡を飽きずに眺めた。
ベッドにはたやすく入れても、ミラージュの心の奥に触れることは叶わないのだ。今はまだ……。
こんなに気安くて気楽で、そのくせ胸が苦しくなるような場所は他にない。
それでも、ミラージュとなら大丈夫、なぜかそんな気がした。
焦らなくても、特別なことをしなくてもいい。
種をまいてゆっくり育てていくような、芽吹いて花開く日を楽しみに待つような。そんな付き合い方も悪くないと思える、不思議な気持ちだった。
「……またな」
頬に触れて、名残惜しく手を離す。
生まれて初めて胸の内に宿るもどかしい想いと愛しさを抱えながら、オクタンはそっとベッドを抜け出して、火照った肌に心地いい夜気の中へと駆け出していった。


7/7ページ
スキ