Lookin' for


「オクタン?」
突然の聞き慣れた声に振り向くと、入口の扉からミラージュが入って来るところだった。
ミラージュはオクタンの斜め後ろで立ち止まり、頭のてっぺんから義足のつま先までを目で辿った。
「何でお前がここにいるんだ?」
「お前こそ、こんないい店知ってたんなら俺にも教えろよ。一人でコソコソ飲みに来てるなんて知らなかったぜ」
「別にコソコソなんてしてねぇぞ。ここはな、俺がゲームに参加するために、ソラスに出てきた頃から通ってる店なんだ。……お前にはまだ早ぇと思ってな」
「ちぇ、ガキ扱いかよ?」
シックな色合いのシャツとボトムを身に着けたミラージュは、店の薄暗い照明と相まって、いつものおちゃらけた雰囲気とは違う落ち着いた大人の男に見えた。
いつもお飾り程度に額に乗っかっているだけのゴーグルもなく、ウェーブした前髪が目元にうっすらと影を落としている。これなら少しはミステリアスに見えなくもない。
「ま、いいか……」
キャップの上からオクタンの頭をポンと叩いて、ミラージュは彼の右側に腰を落ち着けた。襟元にまとっている香水の香りが、ふわりとオクタンの鼻をくすぐる。
常連だと言うだけあって、マスターは注文も聞かずに氷を割り、ロックグラスに琥珀色の液体を注ぎ始めた。カラン、という乾いた音が耳に小気味良く響く。
目の前のグラスが空になっているのに気付いたマスターに、セニョール? と呼び掛けられ、ミラージュの横顔に見入っていたオクタンははっとして我に返った。
「俺も、同じのをくれ」
「大丈夫かぁ? 大人しくビールにしとけ?」
「うっせぇ、酒なんかみんな一緒さ。酔えればいいんだ」
「はぁ……マスター、こいつに何とか言ってやってくれ。味もろくに分かりもしねぇお子ちゃまに飲ませるような安酒じゃねぇってな」
店主はクスリと笑って、ミラージュと同じ銘柄のスコッチウイスキーのロックを作り、静かにオクタンの前に置いた。
ゴーグルを外し、視線を合わせて乾杯する。
その酒はオクタンの好みの味ではなかったが、余計なことを言われるのもシャクなので、何も言わずに飲み下した。
喉がちりちりと焼けて、ビールの爽やかな口当たりが恋しくなったのは内緒だ。
束の間の沈黙が、二人の間に流れた。
ミラージュが珍しく黙り込んでいるのを見て、オクタンはどうにも居心地が悪く、落ち着かない気分になった。
「……おい、俺は邪魔か?」
「いきなりなんだ? そんな事ねぇぞ」
「なんか黙ってるからよ……」
「悪い悪い、ちょっと考え事をな」
ミラージュの言葉に安堵すると同時に、オクタンはその考え事の中身が何なのかを知りたかった。

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