Lookin' for


「あれ、今日はミラージュと一緒に帰らないの?」
シップから降りると、パスファインダーに声を掛けられた。彼は最近、オクタンが一人でいると、必ずと言っていいほどミラージュはどうしたのかと聞いてくる。
俺らもコンビとして定着してきたのか? と、満更でもない気分だが、別にべたべたしているつもりもない。
「俺だっていつもいつもミラージュと一緒なわけじゃないぜ。あいつは……何だか電話してたな。デートの約束でもあるんじゃねぇか?」
「たぶんそれは彼のお母さんだよ。ミラージュは母親思いだからね。試合の前やなんかによく電話をしているみたいだよ。心配なんじゃないかな、お母さんのこと」
「……心配? なんかあんのか?」
「あっ、何でもないよ。こっちのことさ」
パスファインダーは抑揚のない声で、取って付けたように言った。訝しげに眉をひそめたオクタンに、胸のモニターがランプのマークを光らせる。
「そうだ、いい事を教えてあげるよ。ソラスシティの裏通りにミラージュのお気に入りの店があるんだけど、君は知ってる? 運が良ければそこで彼に会えるかもね」
「……さっき誘ったけど断られたんだよ」
「だったら尚更だ。行くか行かないかは君の自由だけど」
意味深なパスの言葉に首をひねりながら、さっきのミラージュの後ろ姿を思い出し、オクタンは走り出そうとしていた足を止めた。
一人で静かにグラスを傾けているミラージュなど想像もつかない。いつも誰かを捕まえてはお喋りに忙しく、レジェンド達と飲みに行ったときだって、皆の酒の減り具合に気を配りながら場を盛り上げ、持ち前のショーマンシップを発揮していた。
「賑やかなのが好きなんだ、俺は家族が多かったからな」と笑っていたミラージュが、カウンターで背中を丸め、ぼんやりと溜息をついている……。
勝手な想像だと分かっていても、何となく嫌だなと、オクタンは思った。

3/7ページ
スキ