Lookin' for


試合後、飲みに行かないかというオクタンからの誘いを、ミラージュはあっさりと断った。
いつもなら二つ返事でオーケーし、何が食べたいかだのどこへ行きたいかだの、それとも俺の手料理を食うか? などと言って、まるで女の子とデートするときみたいに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるというのに。
当てが外れたオクタンは、帰り際にミラージュが端末を片手に誰かと話しているのを見て、ふと足を止めた。
そういえば、試合前にも誰かと電話をしていた。そして、不自然なくらいに自分の名前を繰り返していた事を思い出した。
「……ああ、シーズンが終わったら必ず帰るよ。今は無理だ。……色々と、その……スケジュールが詰まってて……」
聞くともなしに耳に入ってきたミラージュの声には、いつもの流れるような軽妙さはなく、なにか言い訳がましい響きがあった。
それ以上聞いてはいけないような気がして、オクタンは足早に出口へと向かった。胸がもやもやする。
もしかして、故郷に恋人でも残してきたのだろうか? でも、ミラージュはそんな事は何ひとつ言っていなかった。いつも女には不自由していないといった素振りは見せるものの、具体的な話は一切聞いた事がない。
――本当は大してモテねえんじゃねぇか? 自分でそう思ってるだけで……。
オクタンが疑うのも無理はない。現にミラージュは、ファンの間で行われたレジェンドの人気ランキングでも、レイスやオクタンよりもずっと下の順位だった。
なぜだ? と彼は憤慨していたが、ライフラインは「あんたにはミステリアスなところがないのよね」と、その理由を冷静に分析した。
ライフライン曰く、ブラッドハウンドやオクタンにはマスクの下に隠された素顔が、レイスには謎めいたクールな雰囲気がある。だが、良くも悪くもミラージュは単純すぎるというのだ。
「見た目はいいのになんか残念、ってタイプね」
ずけずけと言い放つライフラインに、案の定ミラージュは
「俺のどこが残念なんだ? 言っとくがな、俺は巷じゃMr.パーフェクトって呼ばれてるんだぜ?」
と、非常に分かりやすく食って掛かった。
「どこの巷なんだか」
レイスが鼻で笑い、ブラッドハウンドは「落ち着くのだ、同志よ。これも主神が定められた運命」などと訓示を垂れている。
そこがいいのにな、とオクタンは思った。
ミラージュは自分が何を言っても素直に反応してくれる。深読みする必要がない。打てば響くと言ったらいいのか、一緒にいてとても楽に呼吸できる空気感が好きだった。
何も考えていないように見えて、幼い頃から無意識に父親の顔色を伺い、周りの大人たちの裏と表を見てきたオクタンにとって、彼は警戒することなく自然と心を許せる存在になりつつあった。

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