Lookin' for


その日のミラージュはどこかいつもと違っていた。
その違和感が何なのか、オクタンにもはっきりとは分からない。
ゲーム中の言動も特別変わったところはなく、ダウンした味方を助けたときの恩着せがましいセリフも、キルを取ったときの飄々とした物言いも相変わらずだ。
なのに、オクタンには隣で身を潜めているミラージュの横顔が、目の前に広がるフィールドではなく、何か別のものに囚われているような気がした。
「ミラージュ」
そう声を掛けてから、何を聞くべきなのか何も考えていない自分に気付く。
ミラージュはオクタンの顔を見て二、三度首を振り、
「まだだ。ギリギリまでここで粘るぜ」
と、人差し指を唇に当てた。
「俺らは人数的に不利だからな。動くのはリングが来てからでも遅くねぇ」
「お、おう……」
そのつもりはないのにミラージュに諌められた形のオクタンは、とりあえず頷き相槌を打った。冷静に戦況を見ているあたり、心ここにあらずという訳でもないらしい。
 ——俺の気のせいか……。
こっちを見たまま、よしよしと微笑むミラージュにつられて、オクタンもマスクとゴーグルの下で曖昧に笑った。
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