オクタビオ・シルバの肖像


取材場所に現れたオクタンは、いつものように黒いパイロットキャップにマスクとゴーグルを装備し、カラフルなジャージの上下という、ラフな出で立ちだった。
「これまでとは違う、あなたの真実の姿を見せてもらいたい、というのが今日の取材の目的です」
「へ? そりゃまた大げさなことで……俺の華麗な恋愛遍歴とやらは、どこへ行っちまったんだ?」
「主旨が変わったんですよ」
オクタンは戸惑ったような素振りを見せ、ちょっと気味悪そうに俺を見た。
彼の表情は分からないが、きっとそうだったんだろう。初対面の雑誌記者に、いきなり「真実を見せてくれ」などと真顔で言われたのだから。
「あなたがその仮面の下で、いつも笑ってるとは限らないでしょう? 俺はそれが見たい」
「……変な奴だな、あんた」
先に撮影を済ませると伝え、こちらの用意した衣装に着替えてもらう。
オクタンは控室を使わず、その場で服を脱ぎだした。
「面倒くせぇからここでいいだろ?」
もうすでに上半身裸になっている彼に呆れながら、スタイリストとカメラマンにセッティングを急がせる。
引き締まった身体と長い腕、身長こそさほど高くはないが、いかにも短距離走者然とした体型は写真映えしそうだった。猫背気味なのは少々いただけないが……。
用意した衣装はすべてモノトーンのものだ。
オクタンは、辛気臭いと不満げだったが、俺がスタイリストに頼んでそうしてもらった。
服の中で体が遊んでいるような、長くゆとりのある黒い上着を素肌に纏い、フードを深く被った彼は、まるで機械じかけの死神のようだ。首元に浮かび上がった鎖骨が美しい。
できれば頭の装備を取ってくれないかと頼んだが、「悪いな、一応、謎の素顔が俺のウリなんで」と、軽く一蹴されてしまった。
カメラの前に立ったオクタンは、リラックスした様子で気さくにこちらの要求に応えてくれたが、どう煽っても透かしても、やはり最後まで素顔を見せてはくれなかった。
彼の素顔を知らない訳ではない。
だが、俺は実際に見てみたかったのだ。
彼の目を、不遜な唇を。

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