フィジカル・ディスタンス
「どうだ?満足したか?」
食後にリビングでくつろぎながら、ミラージュが俺の隣で笑っている。
ゲームでモヤモヤをぶっ飛ばすことはできなかったが、ミラージュの用意した酒も肉も文句なしに美味かったので、俺はすぐにいい気分になっていった。
ふざけてじゃれ合いながら、時々意味深に絡み合う視線が俺をドキドキさせる。
でも、そんな幸せな時間はあっという間に過ぎちまって、結局今日も俺は酒に浸った頭で、あいつの匂いのする毛布と一緒にソファーにとり残された。
釈然としねぇまま、俺の思考はぐるぐる回り出す。
ミラージュは俺の誘いを断らない。
腹が減ったって言えば何か作ってくれるし、酒が飲みたいって言えば家に招いてくれる。
仲間と飲んでる最中でも、俺が呼べば迎えにだって来てくれる。
だったら、その無駄に広いベッドに俺を入れてくれたっていいはずだろ?
他でもないこの俺がそう思ったんだからな。
すべすべのシーツの間に挟まってお前の隣で眠ったら、きっと幸せな夢が見れるに違いない。
酔いに任せていささか強引にそう決めつけた俺は、ソファーを抜け出して、ミラージュの寝ているベッドに潜り込んだ。
思った通りふかふかでいい匂いがする。
背中を向けていたミラージュが俺の気配に気付いたのか、顔だけこっちに振り向いてぎょっとした顔になった。
「なっ……、お前勝手に入ってくんなよ」
「やっぱお前のベッド、寝心地さいこうだな」
「当たり前だ、高かったからな。けど、お前と一緒に寝るために買ったんじゃねぇぞ。俺は……」
ぶつくさ言いながら、ミラージュは俺の方に体を向けた。
「どうせ他に寝るやついねぇんだろ?」
俺がそう言うと、枕に頭を預けて少し困ったように俺を見る。
その顔、すげぇ好きだぜ。
今すぐにでも抱きついて舐め回してやりてぇ。
俺は手を伸ばしかける。
でもきっと、この微妙な綱渡りみたいな関係は、ちょっとバランスを崩せばあっけなく壊れちまうんだろう。
落ちたその先が天国か地獄か。
俺にはまだ、はっきりさせる勇気がねえ。
今日もお前の優しさに甘えて、何も考えてないふりをする。
お前に触りたいって思ってることも、触られたいって思ってることも全部、傍若無人なオクタンが隠してくれるのさ。
俺はずるいか?
でも、お前だって同じだろ?
だからもうちょっとだけ、このままでいようぜ。
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