フィジカル・ディスタンス


久しぶりにミラージュと別々に過ごした休日のあと、俺は待ちきれない思いでゲームに向かった。
思いっきり走って飛んで撃ちまくって、このモヤモヤをぶっ飛ばしてぇ。
シップの中で会ったミラージュの態度はいつも通りで、「言うのをすっかり忘れてたが、あの店の支払いをしたのは俺だからな? 後できっちり返せよ」と、ご丁寧に領収書までよこしやがった。
「ツーショットだのサインだのせがまれて、断るのが大変だったぜ」
こいつのニヤけた顔を見ていたら、ほっとしたようなムカつくような、ぐちゃぐちゃした気分になってきて、俺はマスクの下で密かに舌を出した。
ミラージュと一緒に過ごすようになってから、単純に言葉では言い表せない気持ちばかりが増えて、今まで喜怒哀楽だけで生きてきたような俺は、ただそれを持て余すばかりだ。
ひとつだけはっきり言えるのは、目の前に立って俺を見つめている、胡散臭い髭面のこの男のことが、どうしようもなく好きだってこと。
行き場のない気持ちを乗せたドロップシップが、アリーナの上空に到着し、チーム分けが発表される。
今日の俺とミラージュは、どうやら敵同士のようだ。
「絶対負けねぇからな」
「おう、いつでも相手してやるぜ。このミラージュ様がな」
そう言って別れた俺らだったが、降下後すぐに、スラムレイクで再会することになった。
初動でミラージュのチームを含む複数の部隊と被った俺ら三人は、まともな武器もないまま散り散りになり、最初にパスがやられ、次にワットソンがやられ、残った俺は、スラムレイクのボロっちい長屋の中でミラージュに出くわした。
俺の武器はLスターのみ。しかも弾が入ってねぇときた。
やけくそになって殴りかかったが、ショットガンを手にした奴に敵うはずもなく、あっけなく返り討ちにあった。
「残念だったなぁ」
ダウンした俺に歩み寄ってきたミラージュが、勝ち誇ったような笑みを浮かべて見下ろしてくる。
「キルポイントありがとな。お礼に、晩飯でもどうだ? 美味しいお酒とお肉があるぜ?」
こんな時に晩飯のお誘いかよ……。
観念した俺が頷くと、ミラージュは真面目な顔になってピースキーパーを構え、ひとつ息を吸い込んでから引き金を引いた。

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