さよならプレデター


シーズンも終盤になり、レジェンドたちは最後の追い込みに入っていた。
いきなりなんの話かというと、ランクマッチの話だ。
APEXゲームには1チーム3人で行われる通常マッチの他にデュオ、イベント、エキシビション、オールスター、日本シリーズなど様々なカテゴリーがあるが、レジェンド達が最も重要視しているのがランクマッチである。
ランクはブロンズから始まりシルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、マスターを経て、最高ランクのAPEXプレデターに到達した者こそが、真のレジェンドであると認められる。
当然、プレデターになれば貰える賞金の額も跳ね上がり、特別なジャンプの軌道をドヤ顔で他人に見せびらかすことだってできるのだ。
今シーズンも早々とプレデターのバッジを手に入れたレイス以外のレジェンドは、少しでもランクポイントを稼ごうと、残り少ないゲームに闘志を燃やしていた。
だが、燃やしてない者も若干いた。
「おい、オクタビオ。お前あとどんくらいでプレデターだ?」
「ハハッ、それを俺に聞くのかよアミーゴ」
ミラージュの問いかけに、オクタンは気の抜けたような声で答えた。
「2800ポイントだ」
「マジかよ?そりゃ、かわいそうに。今シーズンもお前はプレデターには行けねぇな……」
ミラージュは大袈裟に両手を広げて、慰めるようにオクタンを抱きしめた。
「俺もだけどな……」
ミラージュとオクタンは、今シーズンの途中に訳あって長期欠場したので、まだダイヤランクに留まっていた。
一般人ならダイヤは誉められるべき立派な成績だが、レジェンドともなれば話が違ってくる。
「あんたたち、まだダイヤなの? ぷぷっ、ついてなかったわね~」
プレデターまであと少し、マスターランクのライフラインから煽られても文句は言えなかった。
「どうすんだよ? いまだにダイヤで燻ってんのは俺らだけだぜ? 新入りのランパートですらマスターだってのに……」
「仕方ねぇだろ? お前が拐われたり、それを助けたりしてて、ゲームどころじゃなかったんだ。プレデターなんかいつでもなれるさ。そんな事より、俺はお前の方が大事だぜ、オクタビオ」
「エリオット……(トゥンク)」
オクタンがマスクを引っ張り下ろし、目を閉じて唇を突き出しているミラージュに顔を近づけようとすると、G7スカウトの銃声と共に弾丸が二人を引き裂いた。
「何をやってんのよ、あんたたち?」
鬼のような顔をしたバンガロールが、地べたに座って抱き合っているミラージュとオクタンを見下ろしていた。
「なにをやってんのかって、聞いてるのよ」
バンガロールは、ミラージュのこめかみにバレルスタビライザーレベル4を突き付け、ぐりぐりと押し付けた。
「すっ、すまねぇバンガロール。ちょっとふざけてただけなんだ、許してくれ」
ミラージュが両手を挙げ、情けない声で許しを乞う。
「そうだぜ。どうしてもやるってんなら、エリオットからやってくれ、お姫様」
オクタンはミラージュを押し退けてパッと立ち上がり、バンガロールに向かってウンウンと頷いた。
バンガロールは呆れたようなため息をついて銃を下ろし、腰に手を当てて説教を始めた。
「いい? あんたたちはもう絶望的だけど、私はこのゲームに勝てば、文句なしにプレデターに昇格できるのよ。こんなとこで、落ちこぼれどもの巻き添えを食うのはまっぴらだわ」
こんな所というのは沼沢のことだ。
案の定リングから遠く、敵もいないため、キルポイントを稼ぐこともできない。
「こんなとことはなんだ? 沼沢と俺に謝れ!」
オクタンが飛び上がって憤慨した。
ジャンプマスターとして、ここを降下地点に選んだのは彼だった。
「は? あんた死にたいの?」
オクタンをジロリと睨んだバンガロールの目が、遠方からかすかに聞こえた銃声に向かって動いた。
「敵! 行くわよ!」
戦闘の匂いを嗅ぎ付けたバンガロールは、二人に顎でしゃくって合図すると、ハイドロダムの方に向かって走りだした。
「一人で行っちまったよ、あの人」
オクタンが、独特のがに股で走る彼女の後ろ姿を見送りながら言った。
「しょうがねぇ、俺らも行くか」
ミラージュがよっこらしょと立ち上がり、オクタンを促したが、オクタンは両手をぶらぶらさせて立ったままだ。
「俺、まだ武器持ってねぇ」
「奇遇だな、俺もだ」
「どうする?」
「屈伸して敵意がないことを示せばあるいは……」
「俺がゆいいつ着てる、進化シールドレベル1を脱げば分かってくれるんじゃねえか……?」
「だが、待てよ? 屈伸は逆に煽りとも取られかねねぇ。少なくともDBDでは絶対にキラーにやっちゃダメなやつだ」
「あれはやられると心底ムカつくからな…」
顔を見合わせて不毛な作戦を立てる二人に、バンガロールからの通信が入った。

「ダウンしたわ、救助をお願い!」

自分をかたどったトロフィーと、バタフライナイフを握りしめ、ミラージュとオクタンは走り出した。
たとえこの先に何が待っていようと、俺たちは一緒だ。
「愛してるぜ、オクタビオ!」
「俺もだぜ、エリオット!」

俺たちの戦いはこれからだ!




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