バンバンブー


ミラージュことエリオット・ウイットは、APEXゲームの人気レジェンドだ。
特に女性からの人気は絶大で、ミラージュはいつも黄色い声援に囲まれていた。
端正な顔立ちに鍛えられた体、いつでも綺麗にカットされた髪とヒゲ。
彼のレジェンドというより、俳優のような容姿と軽妙な振る舞いは、多くの女性たちを魅了した。
望めばその中の誰とでもベッドを共にできたし、誕生日でもないのに、毎週山ほどプレゼントが届くのが当たり前だった。
目立ちたがりでナルシスト気質のミラージュにとって、APEXゲームはうってつけの自己アピールの場所であり、自慢のホログラムを披露する場所なのだ。毎回ゲームの日が待ち遠しくてしかたない。
そんな彼は今、あることに頭を悩ませていた。
同じレジェンドであるオクタンの存在だ。
興奮剤の使いすぎで倒れたオクタンを、寄り道しながら家まで送っていったのは昨夜のこと。
そしてついさっき、ミラージュの元にオクタンからメールが届いた。
簡潔なお礼とお詫びのあとに「またデートしようぜ<3」と書かれている。
ミラージュは、しばらくそのメールを見てにやけていた。
心の隅ではヤバいと感じている。
引き返す気ならならまだ間に合う。
でも、あの妙に人懐こい笑顔と、無防備な寝顔を思い出す度にときめいてしまう気持ちは、どうにも誤魔化しようがない。
吊り橋効果ってやつなのか、とも思ってみた。
危険な場所で一緒に過ごした相手を好きになりやすい傾向が云々、という有名な理論だ。
実際、APEXゲームの最初のトレーラーをレイスと一緒に撮影し、その後のオープニングゲームで奇しくも同じ部隊になったミラージュは、その試合で劇的にチャンピオンになったことも相まって、レイスの事を好きになりかけた。
レイスも同じだったらしい。
ミラージュから誘って食事にも行った。
だが、二人の仲がそれ以上進展することはなかった。
そして、何度目かのデートのときレイスが言ったのだ。
「あなたのことを好きなような気がしてたけど、冷静に考えたらそうでもないということが分かったわ」
「ああ、偶然だな。俺もだ」
「いい判断ね」
「バッチリだ」
それ以来、ミラージュとレイスは友達や恋人とはまた違った、妙な親しさと距離をもつ間柄になった。
今回もあれと同じなのではないだろうか?
……いや違う、とミラージュは思った。錯覚なんかじゃねぇ。
ミラージュが以前から、オクタンを好ましく思っていたのは事実だ。
だが、オクタンの素顔を知って、彼の体温を背中で感じた今は、それがもっとリアルな欲望として胸を焦がしていた。
俺はあいつが欲しい。

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