Apex Twin


その日、俺が最初に手にした武器はオルタネーターだった。
ピストルをちょっとだけでかくしたような、ツインバレルのサブマシンガン。
俺はお前のことが結構好きだぜ、チカ。
オルタネーターはいい子だ。
俺の言うことを素直に聞いてくれる。
暴れたりヘソを曲げたりしねぇし、過去には最強を誇った時期だってあったのに、それを自慢したりもしねぇ。
けどよ、お前なんでディスラプターと別れちまったんだ?お似合いだったのに。
RE-45と二股かけられてたってのはマジだったのか。
それで結局、両方とも捨てて行方知れずになっちまうなんて、あいつはとんだクソ野郎だな。
よし、決めた。
今日は最初に出会ったお前と、最後まで添い遂げてやるぜ。
かわいい犬の絵が付いた、捜索と救助のスキンでお洒落してやるからな。ガルバナイザーの方がお好みか?
チャームは俺とお揃いの興奮剤にしよう。
そんでもって、早いとこお前の相棒を探さねぇとな。
浮気の心配なら無用だ。
俺は二人同時に愛せるほど器用じゃねぇし。
これでも、いつだって一途なんだぜ?

「何をぶつぶつ言ってるのかしら? ショップを開いたわよ、べべ」
ローバのやつが、わざわざポルトガル語で話しかけてきた。
立派なケツをぷりぷりさせて、自慢の6インチだか6メートルだかのヒールで、キャットウォークを決めている。
もう一人のメンバーはバンガロールだ。
この二人は仲が悪いと思ってたが、どうやらそうでもないらしい。
俺様を仲間はずれにして、時々何やら囁きあってはクスクスと笑っている。
あんた、試合中に私情を挟むなとかなんとか言ってなかったか?
と思ったが、まぁいい。
レジェンドの女どもは、みんなリオレイア並に気が強ぇから、迂闊なことを言おうもんなら100倍になって返ってくるからな。
ここは大人しくしておくに限るぜ。
俺はローバに「オブリガード」って礼を言って、ショップを覗いた。
ずらりと並んだアイテムの中から、G7だの301カービンだのが妖しく誘惑してくるが、俺の心は揺らがねぇ。
その隣で、慎ましく控えめにアピールしているオルタネーター2号を手に取って、優しく愛撫する。
こいつなら文句ねぇだろ?
「ちょっと、オクティ。オルタネーター2丁持ちとか正気なの? 真面目にやりなさいよ」
俺の武器を見たローバがダメ出しをしてくるが、知ったことか。
「俺様は大真面目だぜ。拡張ライトマガジンがあったら教えてくれ。もちろん、ふたり分な」
「あら、まるで人みたいな言い方をするのね。ちょっと素敵かも。だけど、それじゃ接近戦でしか役に立たないじゃない。あたしがせっかくショップを開いてあげたのに」
鼻にかかったローバの話し方は、まるでトルコアイスみたいに甘くてねっとりしている。
「後ろは任せるぜ、アミーガ。それに、あんたなら俺に追い付けるだろ? そのブレスレットでさ」
「あたしはアナタみたいに、せかせか走り回るのは嫌いなのよ。メイクも髪も乱れちゃうでしょ?できるだけスマートに、美しく戦うのがモットーなの。ねぇ、アニータ? どう思う?」
ローバは赤いメイクに縁取られた目を半開きにして、バンガロールに流し目を送った。
バンガがふん、と鼻を鳴らす。
「私は勝ち方に興味はないわ。結果がすべてよ。それで勝てる自信があるなら、好きにすればいい。その代わり、負けたら今日はあんたに奢ってもらうわよ、いい? シルバ」
「イエスだぜ、アミーガ。俺様が負けるはずねぇからな」
「アニータがそう言うなら、付き合ってあげてもいいわ。でも、万が一負けたとしても、ミラージュのバーなんてしけた所じゃ嫌よ。もっとお洒落でインテリジェンスのあるお店にしてちょうだい」
ローバのやつ、ミラージュの店に散々世話になったことを、もう忘れちまってるらしい。ひでぇ言い草だ。
確かにインテリジェンスなんてもんはねぇけど、料理はうまいし、いい酒だって揃ってるんだぜ?
「じゃあ、勝ったらあんたの奢りで祝杯といこうぜ、ローバ。インテリジェンスさんとやらの店に、俺を連れてってくれよ」
「ドレスコードを守ってくれるんならね」
ローバは、ケツからコンパクトを取り出して、うっとりと自分を眺めながら言った。
そこにバンガの鋭い声が飛んでくる。
「敵、発見! お喋りはそこまでよ」

ローバのショップと千里眼のおかげで、俺の双子のオルタネーターには、最高級のアタッチメントが揃った。
バンガロールの的確な索敵とカバーもあって、俺は軽快に敵を倒してキルを重ねていく。
どうだ、オルタ? 楽しいだろ? 俺たち最高だな!
残る部隊はいよいよ二つだ。
様子を見に行っていたバンガロールが戻ってきて、俺たちに作戦を伝える。
「私とローバでジブラルタルをやるわ。あんたは、ミラージュとコースティックをどっかに連れてってちょうだい」
「俺は囮かよ?」
「彼とデートさせてあげるって言ってるのよ。ありがたく思いなさい?」
ローバが意味深な眼差しで、きれいに手入れされたネイル付きの人差し指を俺に向けた。ゴーグルを着けてなかったら、目ン玉を抉り取られそうだ。
「厄介な科学者のおっさんがくっ付いてるんだが? 保護者付きのデートなんて勘弁だぜ」
「ダウンしなきゃそれでいいわ。とにかく、時間を稼いで。あの岩の塊みたいな男を始末したら、すぐに援護する」
鬼軍曹の顔になったバンガロールが、鋭い目付きで先を睨んだ。
こりゃ有無を言わせねぇ雰囲気だ。
「分かったよ」
やれやれ。ミラージュはともかく、コースティックの相手なんか、誰が好き好んでやりてぇもんか。あの腐った毒ガスの匂いときたら!
リングのカウントダウンが終わり、敵の部隊が移動を開始する。
「今よ」
俺はバンガロールとローバに向かって軽く頷き、スティムを刺して走り出した。
頼むぜ、オルタネーター。
バンガロールが挨拶がわりの爆撃で足並みを乱し、俺がジブラルタルと他の二人を分断する。
案の定、建物に籠ったコースティックはガスを撒き散らしやがったが、俺の双子の片割れにはデジスコが付いてるんだぜ。
「おい、おっさん!ちったあ、俺のことも気遣ってくれ。なんも見えねぇぞ!」
ミラージュは、ガスに邪魔されて俺を見失ってるらしい。
盛大にむせながらも、何とかコースティックをダウンさせ、俺は速攻でガスの充満した建物から逃げ出した。
キルは取れなかったが、これで少しは時間を稼げたか?
ミラージュがコースティックを起こさないことを祈りながら、屋根に登って回復を使う。
向こうでジブラルタルの空爆の音が聞こえた。
あいつは……どこだ?
そう思ったそばから、建物から飛び出してきたのはミラージュのデコイだった。
反対側の岩影から、でかい声がする。
「おい、オクタビオ! そこに居るんだろ?」
自分から居場所をバラすなんて、愚かとしか言いようがねぇが、あいつはそういう奴だ。
ちゃっかりグレネードを投げるのも忘れちゃいねぇ。
俺は屋根から飛び降りて、あいつの前に体を晒した。
「会いたかったぜぇ~」
ミラージュは、まるで歌うように頭でリズムを取りながら、俺に狙いを定める。
「何だよそのエイムは。ふざけてんのか?」
俺は興奮剤で加速して、ミラージュの放つLスターの弾丸をかわしながら懐に飛び込んだ。
何発か肩の辺りを掠めたが、ほんのかすり傷だ。
ミラージュはオーバーヒートしたLスターを捨てて、ウィングマンに乗り換えた。
馬鹿の一つ覚えみたいに、ウィングマンさえ持ってりゃカッコいいと思ってる、そんなお前が大好きだぜ、エリオット。

タタタタタ!

俺のオルタネーターが、小気味良い音を立ててミラージュの体力を削っていく。
あいつのウィングマンは、どうやら俺の頭がお嫌いのようで、放たれた弾丸はことごとく空に吸い込まれていった。
「ちゃんと狙えよ! JAJAJA!」
「クソ、チョロチョロすんな……」
ミラージュが遮蔽物に入ってリロードする。
その隙に、もう片方のオルタに持ち替えた俺は、ジャンプパッドでミラージュの後ろに回り込んだ。
察したミラージュは、咄嗟にデコイエスケープを使ったが、俺にはどれが本物のあいつかなんて、すぐに分かっちまうのさ。
はい、一丁あがり。
……と思ったら、ジブを片付けたエルマナたちが、息の合った援護射撃で呆気なくミラージュを倒していた。

『APEXのチャンピオンとなりました』

力なく横たわったミラージュが、目を瞑ったまま眉間に皺を寄せている。
「いつまで寝てんだ? はやく起きろよ。ローバがインテリジェンスの店に連れてってくれるってよ。お前も一緒に行こうぜ」
「はぁ? 何だそりゃ……」
怠そうに片目だけ開けて俺を見たミラージュに、両手に持ったオルタネーターを自慢するように突き付けてみせる。
「オルタネーター2丁とは、お前も酔狂な奴だな」
「イカしてるだろ?」
俺はミラージュの側にしゃがみこんだ。
弱ってるこいつが、何だか色っぽくてキスしたかったが、中継ドローンが回りをうろうろしているので我慢だ。
「そろそろ記念撮影の時間よ、ベイビー」
「良くやったわ、シルバ」
笑顔のローバとバンガロールもやって来て、俺の後ろからミラージュの顔を覗き込んだ。
「なるほど、今日のお前は両手に花だったってわけか」
ミラージュはそう言ってゆっくり起き上がると、双子のオルタネーターのかわいい鼻先を、いたずらっぽく指で弾いた。
俺の顔を見てふっと笑う。
俺は我慢できなくなって、マスクのままミラージュにキスした。
「あらまぁ……羨ましいこと。ねぇ? アニータ?」
「お楽しみは後よ、シルバ。それから、……ローバもね」
バンガロールは、俺をミラージュから引っぺがし、なぜか急に顔を赤くして大人しくなったローバと、三人で仲良くカメラに収まった。
もちろん、オルタネーターも一緒にな。

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