ヘイルストーム


激戦区に降りるのかと思いきや、ヴァルキリーが選んだ降下エリアは、航路から遠く外れたマップ北端の製錬所だった。
「うーん、やっぱ空って最高!」
自慢のジェットをふかし、気持ち良さそうに風を切る彼女とは対照的に、俺たちは静かなもんだった。いつもなら、降下中にエモートではしゃいでいるはずのオクタビオも、今日に限っては淡々と地上を目指している。
気分は重かったが、いつまでもそんな事を言っちゃいられねぇ。俺は気持ちを切り替えて、着地の体勢に入った。
ヴァルキリーと共有のHUD上に、俺らの部隊の他にひとチーム降りたことを示すアイコンが点滅している。どうやら単独で物資を総取りって訳にもいかないようだ。
降下先の建物の中で、俺ははぐれた敵部隊の一人と早々にかち合った。
武器がピストルだけってのは心許ないが、見たところ名無しの新兵らしい。味方を待つまでもねぇ、サクッと片付けて格の違いを見せつけてやるか……。
俺はフェイクで走らせたデコイと反対側から攻撃を仕掛けた。
だが、新兵なら十中八九引っかかるはずのデコイには目もくれず、そいつは的確に俺だけを狙って削ってきやがった。
それもそのはずだ。対角線上にいるはずのデコイがどこにも見当たらねぇんだからな。
撃たれたのか? いや、そんなはずは……。
俺は軽くパニックになり、アルティメットで敵の裏をかこうと回り込んだ。
ショットガンが火を吹き、目の前が揺らぐ。
一瞬何が起こったのか理解できず、体が地面に崩れ落ちてから自分がダウンした事を知った。
あろうことか俺は、デコイとのリンクを切ったままだった。やる気スイッチを押そうが、召喚呪文を唱えようが、デコイ達は現れるはずもなく、俺は間抜け面で一人、パーティライフを楽しんでたってわけだ。迂闊さを悔やんでも時すでに遅く、シールドすら持っていなかった俺はあっさりとキルされ、何もできなくなった。
意識はあるのに体は死んでいるという、何とも気持ちの悪い状態だ。しかもシーズン初めのリセットのせいで、このままリスポーンされなかったら俺はこの世から消滅するかもしれない。
死んだらどうなるのか……長年不思議に思ってた謎が、いよいよ解ける日が来たってことなのか?
嬉しげに俺にとどめを刺したあいつは、エリオット・ウィットを葬り去った男として、大々的にニュースに取り上げられるだろう。
少し離れた場所で銃声が聞こえる。
どうやらオクタビオとヴァルキリーは、数的不利を強いられて手こずっているらしい。
無情にも時間は刻々と過ぎていく。焦りと恐怖が、じわじわと俺を包囲していった。
俺はまだ死ねないんだ。俺が死んだら母さんはどうなる? 俺の店は? 何より、お前とあんな風に別れたままだなんて悲しすぎる……オクタビオ。
「待ってろ、エリ! 絶対助けてやるから!」
インカムからオクタビオが叫ぶ声がする。
「クッソ、邪魔すんな! 俺を行かせろ! あいつんとこへ!」
激しい銃撃戦の合間から聞こえてくる声に、俺の胸はじんと熱くなった。
目の端に映る緑色の残像は、あいつが俺の為に身を削って戦っている証にほかならない。
なのに、俺はこんなところで一体何をやってるんだ? あいつの隣で肩を並べて戦うのが、俺のすべき事だろ?
動かない体がもどかしい。どうせ死ぬんなら、せめてあいつの盾になって死にたい……。
しばらくすると銃声は止み、オクタビオが立て続けに興奮剤を突き刺しながら走ってくるのが見えた。
ああ……やめろ、オク……。俺のためにそんなに必死にならなくてもいいんだ。まだ大丈夫だ、俺はまだ生きてる。だから、頼むから……もっとゆっくり走ってくれ……。
「オクタン! バナーを! 私はビーコンに先回りしてる!」
「よっしゃ、頼んだぜ!」
息も絶え絶えに激走してきたオクタビオが、俺を抱き起こし、腕のバナーを回収する。
ビーコンで待ち構えていたヴァルキリーにリスポーンされるまでの間、俺の体は確かにオクタビオに抱きしめられていた。

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