ヘイルストーム
ゲームの神のいたずらか、はたまたブラッドハウンドの主神の思し召しか、開幕ゲームのメンバーは、俺とオクタビオ、そして新レジェンドのヴァルキリーの三人になった。
チーム編成の画面に「OCTANE」の文字を見た俺は、思わず少し離れた場所でモニターを見つめていたオクタビオに目をやった。
だが、あいつが俺を見ることはなかった。
「よろしくな、ミラージュ」
代わりに声を掛けてきたのは、新入りのヴァルキリーだった。カイリ・イマハラってのが本名だ。
彼女は、かつてブリスクが率いていたAPEXプレデターズのパイロット、バイパーの娘だって話だが、それを知って驚いていたのは、俺よりもドロズおじさん達の方だった。
彼らは空挺部隊6-4のメンバーとしてフロンティア戦争に参加し、ジャック・クーパーの乗ったBTと、バイパーの操るノーススターの死闘を目の当たりにしたんだから、当然っちゃ当然かもしれない。
「バイパーの遺産か。思えば奴だって一人の人間だったんだよなぁ」と、デイビスはしみじみとした口調で言った。
銀色の髪をショートカットにして、ぴっちりしたフライトスーツに身を包んだ彼女は、見た目も話し方もボーイッシュでサバサバした印象だった。
「ジャンプマスターは私でいいかな?」
「別にいいが、あんたはまだマップを良く知らねぇだろ? 大丈夫か?」
「空のことは任せな。どこにでも寸分の狂いなく真っ先に着地してやるさ。あー楽しみ!早く降りてローバと戦いたいな」
ヴァルキリーは、きりりと切れ上がった奥二重のまぶたを更に細くして大きく伸びをした。
「ローバ? そりゃまた……なんで……」
「ひと目見て気に入っちゃったんだよね、彼女のこと。同じチームになれたらいいなって思ってたんだけど、まぁしょうがない。あんたらで我慢しとくよ」
なんとも失礼な言い草だが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
名指しされたアイテムの女王は、そんなことも露知らず愛用の杖にもたれ掛かり、バンガロールに流し目を送っている。
元IMCのエリート兵と、伝説のパイロットの忘れ形見の戦いか? こりゃまた激しくなりそうだぜ。
だが俺に他人の心配をしてる余裕はなかった。
持ち場に付くようアナウンスに指示され、向こうからノロノロとオクタビオがやって来る。
ヴァルキリーがニヤリと笑って俺らを冷やかした。
「ほら、彼氏のお出ましだ」
「それはこないだまでの話だぜ。今は赤の他人だ」
さっきの事もあってか、オクタビオは冷たく言い放った。自業自得とはいえ、その言葉が俺の胸にぐさりと突き刺さる。
もうちょいマイルドに言ってくれてもいいんじゃねぇか? 訳あって少し距離を置いてるとかなんとか、それっぽい事をよ……。
「えー!? マジで? ミラージュとオクタンっていえば、APEXゲームでも有名な仲良しカップルだったじゃん。いつの間に別れちゃったの?」
ヴァルキリーは目を丸くして、無邪気に大きな声を出した。周りの連中が一斉に俺らの方に目を向ける。それを気にする風もなく、オクタビオは「そういうことだ」と、無愛想に言った。
「あ、いや……なんか、その、ごめん」
「いいさ、俺らのことはゲームにはこれっぽっちも関係ねぇことだ。そうだろ、ミラージュ?」
俺は黙っていた。簡単には認めたくない、答えないことが俺のささやかな抵抗だった。
「口もききたくねぇってか? ……戦況報告くらいはちゃんと頼むぜ」
「見くびるなよ、俺だってレジェンドだ」
「あーあー、余計なこと言って悪かったって。揉めるのは後にしよう、ね? これからヴァルクちゃんが優雅なフライトにご案内するからさ!」