幸せの在処


俺の中のわずかな未練は、思った以上に長く心に居座っていた。
買ってきたソファーカバーの具合がイマイチなのも理由のひとつだ。
なにせちょっと動くとすぐにずれちまうんだ。ずれないカバーってパッケージに書いてあったのに、詐欺だろ。
オクタビオは全く気にしていないみたいだが、几帳面な俺はそれがどうも気にくわない。
この分じゃ、カバーと一緒にまたあいつが転げ落ちるのも時間の問題だぜ……。
オクタビオは相変わらず、例のソファーから義足をはみ出させて携帯ゲームをやっている。
その様子をキッチンからちらりと見やり、俺はデコイと一緒に考えを巡らせた。

これはきっと、あのソファーが買ってくれと言ってるに違いねぇぜ、エリオット。
オクタビオは古いのでいいなんて言ってたけど、なぁに、実際に来てみたら気も変わるさ。
なんたってあの肌触りと座り心地だ。思い出すだけでうっとりしちまうだろ?
あいつだって気に入ったって言ってたんだ。
ここは一発サプライズのチャンスだぜ、エリオット。可愛いオクティを喜ばせてやれよ……?

俺の心はあっけなく決まった。
善は急げとばかりに、俺はオクタビオが風呂に入ったのを見計らってこの間のショップのサイトを開き、お目当てのソファーを注文していた。実を言うと、まだ売れてないかどうか毎日チェックしてたんだ。
「なにニヤニヤしてんだ?」
バスルームから出てきたオクタビオが、俺を見て首を傾げる。風呂上がりの火照った頬が、つやつやとピンク色に光って艶かしかった。
「いや、なんでも。お前はいつ見てもかわいいなって……」
「お?やるか?俺はいつでも準備オッケーだぜ」
別に俺は何も言ってねぇが、オクタビオが軽いノリで片手に卑猥なサインを作ったのを見て、座っていたソファーの上をポンポンと叩いて催促する。
「そこ?」
「そうさ、今日はそんな気分なんだ」
「いいけど……落っことすなよ?」
慎重にソファーに片膝を乗せてきたオクタビオを背もたれの側に押し付けて、落ちないように抱きしめた。
案の定、二人分の重みでカバーが下にずり落ちてきやがる。
ここで落下のスリルを味わいながらセックスするのもこれが最後かもな?
俺は、新しいソファーを見て驚くオクタビオを想像しながら、瑞々しい香りをまとった首筋のホクロに唇を押し当てた。

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