幸せの在処


次の日のゲームの後に、俺らはインテリアショップに寄ってソファーカバーを買った。
オクタビオが選んだのはマスタード色のキルト生地、俺が選んだのはスモーキーグリーンのフレンチリネンだ。
無意識にお互いのカラーを選んじゃうあたり、俺たち愛し合ってるって感じがするだろ?(最初あいつは派手なバナナの柄がいいって言ってたが、部屋の雰囲気にそぐわないので俺が反対した。)
ついでにデートがてら、店の中をぶらぶらして回る。マスク姿のオクタビオとイケメンの俺は目立つので、何人かの客は俺らに気付いているようだったが、群がってサインを求めてくるような事はしなかった。
地元の奴らはレジェンドが街に出没するのに慣れているからなのか、わりと放っておいてくれるのがありがたい。
食器棚だのルームライトだの、いい感じのインテリアに目移りしていると、大きな布張りの座り心地の良さそうなソファーが目に留まった。
老舗のブランドらしく落ち着いたブルーグレーの色合いと、シンプルで上品な雰囲気のそれは、うちのリビングによく似合いそうだ。
ふたりで抱き合っても、はみ出したり転げ落ちたりする心配もない。
オクタビオが横から「いいな、これ」と言って、ぼすんと体を埋めた。
「な? 俺もそう思ってたとこだ」
奴の隣に腰を下ろすと、固すぎず柔らかすぎず、思った通り座り心地が絶妙だった。
表の生地もしっとりとすべすべしていて、思わず頬擦りしたくなるくらい気持ちがいい。
家のリビングで、オクタビオとここに座っている所を想像して頬が緩む。
「……なぁ、これ……欲しくない?」
「お前、ちゃんと値札を見たか?」
オクタビオが足元のプライスカードを指差した。
確かに結構なお値段だ。今家にあるソファーとは桁がひとつ違う。
だがオクタビオにとっては、そんなに驚くような値段じゃねぇばすだ。
「大企業の御曹司が値段を気にするのか?」
俺がからかうと、オクタビオはマスクの下で口を尖らせた。
「うるせぇ、俺は庶民派なんだよ。それにお前はいつも言うだろ? 買う前にちゃんと値段を見ろってな」
「俺の言いつけをちゃんと守ってんのか。いい子だな、オクティ。確かに安くはねぇが、その分大事に使えばいいさ。その価値はある」
よしよしと頭を撫でられたオクタビオは、何か言いたげな顔だ。子供扱いすんなってんだろ? 知ってる、わざとだ。
「何かお手伝いいたしましょうか?」
向こうから俺たちの様子を伺っていた店員が、ニコニコと愛想のいい笑顔を浮かべて近づいてくるのを見て、俺はすでに頭の中でそいつとの値引き交渉をシミュレートしていた。
だが、オクタビオは俺の腕を取って引っ張り起こすと、
「捕まると面倒くせぇから帰ろうぜ」
と、出口に向かって歩き出した。
「え? 帰るのか? 俺は結構その気なんだが……」
「あのソファーはまだ使えるだろ? カバーだってもう買っちまった」
「けど、お前も気に入ったんだろ?」
「まあな。座った感じもいいし、あんくらいデカけりゃベッドの代わりにもなるしな。こないだアレの最中に落っこちて、頭を打ったばっかだしよ……」
オクタビオはきまり悪そうにわしゃわしゃと頭を掻いた。
色の抜け始めた髪は、白と金と黄緑の入り雑じったような、不思議なまだら模様になっている。
「でも俺はあれでいいよ」
「そうかぁ……?お前がそう言うんなら、まぁいいけどよ……」
「花買って飯食って帰ろうぜ?」
急にソファーの話から興味を失ったように、オクタビオは俺の手を引っ張った。
わずかな未練を残しつつ店を出て、花屋でマリーゴールドの花束を母さん宛に送り、オクタビオのリクエストで中華料理を食った後、その日は大人しく家に帰ることにした。

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