Only One King Ⅱ
12月に入ったというのに、相変わらずソラスの太陽は真上にあった。
さすがに真夏ほどではないものの、日中は半袖で過ごせるくらい暖かい。
ミラージュは、今年もクリスマスイベントのプロデュースやアナウンスを任されていたが、それがなかったら、もうすぐクリスマスということを忘れそうだ。
ベッドに入る前のひととき、ミラージュとオクタンは、今年のクリスマス休暇をどう過ごすかを話し合っていた。
人使いの荒い運営にしては珍しく嬉しい計らいで、クリスマスの週にゲームの予定はない。
「休みになったら、すぐエンジェルシティに行くだろ? きっとあっちは大雪だろうな。お前のママに何をプレゼントするか決めたか? あったけぇ膝掛けとかか? イブリンは何色が好きかな?」
楽しげに予定を立てるオクタンを微笑ましく見つめながら、ミラージュは去年のクリスマスを思い出していた。
去年は初めてふたりで過ごすクリスマスとあって、気合いを入れて準備した。
手作りのケーキ、七面鳥の丸焼き、色とりどりのオードブル、高価なシャンパン……。
だが、それらは大して消費されることなく、ふたりは早々にベッドで抱き合っていたのだった。
ミラージュはその熱いクリスマス・イブの夜を思い出し、うっとりとなった。
あの夜、オクタビオは初めて俺の……。
「おい、聞いてんのか!?」
オクタンが、ミラージュのピンク色の回想を突き破るように大きな声を出した。
「おっ、なんだ? 聞いてるぞ」
「嘘つけ。だらしねぇ顔してたぞ」
「ん? そうか?……いや、去年のクリスマスの事を思い出してな……。あんときのお前、すげぇ可愛かったよなぁ? 俺の事をまだ、ミラージュなんて呼んでてさ、生意気だったけど初々しさもあり……おまけに超エロくって……」
「今はそうじゃねぇってのか?」
ミラージュは、不満げに尖らせたオクタンの唇に、チュッと音を立ててキスした。
「そんなわけねぇだろ……、いつだってお前は可愛いさ……」
さらに深く口付けようとして抱き寄せると、オクタンがミラージュのぽってりした下唇に人差し指をめり込ませてそれを制止する。
「楽しい思い出に浸ってるとこ悪いけどよ、今年はお前がそうなるんだからな?」
オクタンの腹に手を突っ込んでいたミラージュの動きが、はたと止まった。
「今なんて?」
「今年はお前が下だって言ってんの」
「……よく聞こえないな」
「だから、他にプレゼントは要らないぜ。俺がお前の、お前が俺のプレゼントだ」
ミラージュは考え込んだ。
すでに彼は何度もオクタンにトップを譲っていたし、改めてクリスマスプレゼントにねだるほど特別な価値があるとは思えない。
自分を欲してくれるのは嬉しい気もするが、やはりミラージュはオクタンを抱くほうが好きだった。
それでも迫られれば、何やかんやと許してしまうのは、自分の快感の為ではなく、オスとして欲望のままに感じているオクタンの顔を見たいからに他ならない。
「なぁ、他のものにしねぇか? 俺を、その……だ、抱きてぇとか……今さらだろ。初めてじゃあるまいし、わざわざクリスマスの夜にだな……」
ミラージュは顔を赤くして口ごもった。
「ただやるだけじゃねぇ、お前がちゃんといくとこが見たいんだよ」
いつの間にかオクタンが上になり、ミラージュの耳元で悪魔のように囁きかける。
「なぁ? 俺と一緒に飛ぼうぜ? 相棒……」
魅惑的な笑みがすぐ目の前にある。
ミラージュの頭の中は、ぐらぐらと揺れた。
今はまだ知らない、新しい快楽をこいつに与えられちまったら、俺は一体どうなるんだ?
知りたいような、知りたくないような……。
「なんなら、これから予行練習してもいいんだぜ?」
「いや、いい……大丈夫だ。俺は本番で力を発揮するタイプなんだ……」
オクタンは、細い腕に似合わない豪力でミラージュの腕を押さえつけ、ソファーに沈めた。
本気で抵抗すれば、オクタンを組み敷いて封じ込めるなど容易かったが、今のミラージュにその力はなかった。
翻弄され、奪われる。追いかけては、奪い返す。
王冠を巡る攻防は、クリスマスに持ち越された。
ひとつだけ言えるのは、この戦いに敗者はいないということだ。
今年もきっと、幸せなクリスマスになる。
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