メヌエット
結局、俺たちは負けた。
いや、俺が負けたのか。あの二人に。
俺があいつらに固執したばっかりに、完全回復したオクタビオと、鉄壁の防御で持ちこたえていたジブラルタルの前に、俺の部隊は敗れ去った。
俺はフラフラする頭を押さえて、立ち上がった。
「今回はちょっとばかり冷静さが足りなかったようだね、エリオット」
側にいたホライゾンが俺に手を貸しながらウィンクを投げて寄越し、満足げに微笑む。
「母は強し、とはよく言ったもんだぜ」
「ジブラルタルとオクタンの頑張りのお陰さ」
ホライゾンは弾むような足取りでチームメイトに駆け寄り、俺はその場所を離れて、ブラッドハウンドに詫びと労いを言いに行った。
コースティックの姿はすでにない。
「案ずるな。今日は神々が彼らに微笑んだ、それだけのこと。主神を信じ、努力を怠らなければ次は良い結果になるだろう。あなたに神のご加護を、ミラージュ」
ブラッドハウンドからありがたい天啓を賜り、礼を言って別れた後、ふと辺りを見渡すと、ガーデンの花畑の向こうにオクタビオとホライゾンの姿が見えた。
記念撮影もインタビューも終わり、アリーナに散らばっていたレジェンド達もシップに戻り始めている。
俺は足を止めて、二人の様子を伺った。
ホライゾンは優しい表情で、うなだれているオクタビオに長いこと語りかけ、最後には子どもを抱くようにハグして頭をポンポンと撫でた。
「じゃあね、オクティ。今夜はいっぱい食べてよく眠るんだよ!」
オクタビオは背中を丸め、両腕をだらりと下げたままホライゾンの後ろ姿を見送った。
そして頭の装備を無造作に外して髪をくしゃくしゃと掻きむしったかと思うと、その場所に座り込んじまった。
なにを見ているのか、その目は遥か遠く彼方に囚われたまま、俺にはなぜか、あいつの華奢な背中がいっそう小さく見えて切なくなる。
だが、声を掛ける気にはならなかった。
きっとあいつは今、自分のもやもやした感情と戦ってる、そんな気がしたからだ。
にこやかな顔をして戻ってきたホライゾンが、俺に気付いて肩を叩く。
「あとは頼んだよ」
「ああ、任せとけ」
今度は俺がウィンクを返す番だ。
いっぱい食わせて眠らせるのは俺の仕事だな。けど今は、もうちょっとだけそっとしておくか……。
花びらをまとった風が吹き抜けて、オクタビオの淡い金色の髪を揺らす。
あいつは長いことオリンパスの端っこに座って、空を漂い、ちぎれてははぐれて、またひとつになる雲を眺めていた。
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