メヌエット


その日、オリンパスで初めてチャンピオンになった俺は上機嫌だった。
ゲームで大活躍したのは言うまでもねぇが、同じチームだったホライゾンが、やたらと俺を褒めまくったせいもある。
彼女は俺が何かする度に「よくやったね、エリオット」「その調子だよ、エリオット」なーんて言ってくれるんだ。
あの人にエリオットと呼ばれるのは何だか嬉しい。
もっと褒められたいとか、いいところを見せたいとか、自然とそういう気分になる。
すっかり絆された俺は、ホライゾンがソラスシティに来る際のホスト役を買って出ることにした。
彼女の仮の住まいはプサマテにあるが、キングスキャニオンでのゲーム期間中はホテル代を節約するため、シップに泊まっているのだという。
「ずっとシップに籠りっきりじゃ退屈だろ? 良かったら俺の店に飲みに来ないか? ミラージュ特製のオリジナルカクテルでもご馳走するぜ。ちょっと前までは、こいつのガラクタがそこら中を占領してたんだが、やっと片付いて綺麗になったからな」
俺がホライゾンを誘っている横で、同じ部隊だったランパートは鼻の頭に皺を寄せて、相変わらずチューインガムを噛んでいた。
「お前、また堆肥を送られたいのか、ウィット? まあいいけどね。シンジケート相手の訴訟が片付けば、プサマテにいい場所を貰えそうだし、あんなショボい店とはこっちからオサラバさ」
「その前にたまってるツケを払っていけよ?」
「そんくらい慰謝料としてチャラにしてくれよ。あたしの精神的苦痛はそんなもんじゃ癒えないけど、友達のよしみでまけといてやるからさ」
ランパートは、俺が荷物をロケットに乗せてぶっ飛ばしたことを、まだ根に持ってやがる。
「慰謝料とはまた物騒な話だね。エリオットはこの子に何か悪さをしたのかい?」
「その言い方はやめてくれ、母さ……あ、いや、ソマーズ博士」
俺の口から無意識に出ちまった言葉を、ランパートは聞き逃さなかった。
「ちょっと今の聞いたか? 母さんだってさ! 何だよ、お前ホライゾンのことママだと思ってんのか? ギャハハハ! こりゃ傑作だ! みんなぁ……」
俺は大声でわめくランパートの口を慌てて後ろから塞いだ。
「いや、気にしないでくれソマーズ博士。今のは何て言うか、その……、言葉のあやってやつだ。俺は別にあんたのことを母さんだなんて、そんな失礼なことは思っちゃいねぇ」
「いいんだよ」
ホライゾンは愉快そうに笑った。
「あたしから見りゃ、レジェンドのみんなだって子供みたいなもんさ。なんせあたしの実年齢は、100歳を越えちゃってるんだからね。子供っていうより、孫って言ってもおかしくないくらいだよ」
「そんな、あなたはまだお若いですよ、ソマーズ博士……ってぇ!」
俺の手にランパートが噛みついて、憎たらしげに舌を出しながら逃げていった。
クソ……、絶対さっきのことを言いふらすつもりだ。じゃなけりゃ、口止め料を要求してくるに違いねぇ。
「あんたらは仲がいいねぇ。見てて面白いよ」
ホライゾンがいかにもって顔で俺を見たが、ランパートのことを変に誤解されるのは好ましくねぇ。俺はきっぱりと言った。
「あいつは生意気な妹みたいなもんさ。俺にはれっきとした恋人がいる」
「へぇ、まあそうだろうね。あんたみたいないい男は、女の方が放っとかないだろうさ」
ホライゾンにそう言われて満更でもねぇ気分になったが、残念ながら相手は女じゃねぇんだ。
俺がオクタビオの事を話し始めると、彼女は意外そうな顔をしていたが、やがて大いに納得したように頷いた。
「オクタンはとっても元気が良くて、あたしも好きさ。それに、見かけによらず頭がいい。彼を見てると、ニュートの事を思い出すよ。あの子もやんちゃで、追いかけるのが大変だった……」
母親の顔になったホライゾンは、少し寂しげに遠い目をした。

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