ミラオクリワト


シーズン7開幕前夜。
重力を操るという新メンバー、ホライゾンを加え、総勢15名となったレジェンド達は、プサマテの上空に浮かぶ浮遊都市オリンパスに意気揚々と乗り込んだ。
ソラスとタロスの往復と違い、オリンパスへはワープ航路を使っての長旅となるため、ゲームの前日に到着し、翌日のゲームに備えるといった日程になっている。
ランパートの家財道具一式をシップに載せるという失態を犯したミラージュは、オリンパスに着いてからも、彼女からその事を執拗に責められて辟易していた。
パラダイスラウンジで一ヶ月間の飲み放題という賄賂を差し出し、やっと釈放された彼は、シップの中でオクタンの姿を探した。
途中、何やら頭に大きなカーラーを巻いて憮然とした表情のレイスとすれ違ったが、レイスはミラージュが「サザエさ……」と言い終わる前に鋭い目でそれを制し、足早に通りすぎていった。
ミラージュはそのまま自室には行かず、オクタンの部屋を訪ねた。
「オクティ? 俺だ、お前のエリィが来てやったぜ?」
少しの間の後、自動で開いた扉の向こうには、フードを深く被ったジャージ姿のオクタンが、ベッドの上で胡座をかいていた。
「お前どこ行ってたんだよ? 探したんだぜ?部屋にもいねぇし」
「悪い悪い、ちょっとランパートに捕まっちまってな……」
ミラージュは、ベッドに鎮座するオクタンのシルエットが、不自然な形をしているのに気付いて首を傾げた。いつも薄着の彼にしては、やけに着ぶくれしているのだ。
「何をそんなに着込んでるんだ?」
オクタンはにやりと口角を上げ、
「お前にいいもの見せてやるよ」
とミラージュの腕を取った。
「脱がせてみな」
いきなりのお誘いに、ミラージュはうっ、と言葉を詰まらせた。
「おい、待て。明日は朝からゲームがあるんだぞ? しかも大事な開幕戦だ。そんな事をやってる場合じゃ……いや、そりゃあ俺だってしたいのは山々だが……」
「なぁ、脱がせて? エリ」
オクタンは上目遣いにミラージュを見つめ、可愛らしく小首を傾げてみせた。
「急に可愛い子ぶってもムダだぞ……」
「JAJAJA 、いいから早くしろよ」
ミラージュは誘われるまま、オクタンのジャージのフードを外した。
そこに現れたのは、金色ではなく暗く青色に波打つ髪。普段好き勝手に飛びはねている毛先は丁寧に後ろに撫で付けられ、後頭部にその名残を残しているだけだった。
ミラージュはまじまじとオクタンを見つめ、艶々したその髪に触れてみる。
「こりゃ驚いたな。染めたのか?」
「そうだぜ。シップに乗るなり、レイスと一緒にサロンに連れていかれてよ。結構時間がかかっちまった。ま、その間ずっと寝てたんだけどな」
人懐こい笑顔は相変わらずだが、青いオールバックのオクタンからは、整髪料と大人の男の匂いがした。
「いいね、似合ってるぜ」
ミラージュはそう言ってオクタンに唇を重ねたが、何だか知らない男とキスしているみたいで変な感じだった。相手は本人だというのに、ほのかに後ろめたさを感じるのは何故なのか?
オクタンはミラージュの手を、首元まで閉まっているジャージのジップに導いた。
ミラージュがゆっくりとファスナーを下ろし、ジャージを脱がせていくと、肌にぴったりと貼り付いたラバー製の濃紺のスキンが露になった。
右の脇腹の部分が斜めに露出していていやらしい。
「どうだ? イケてるだろ? お前に最初に見せたかったんだ」
「お前は腹を出さなきゃ気がすまねぇのか?」
ミラージュはオクタンの脇腹をコチョコチョとくすぐって冷やかしたが、内心有頂天になっていた。
俺に最初に見せたいだなんて、健気な事を言う。最初どころか、ずっと他の奴らには見せたくねぇな。
俺が独り占めしたい……。
「お揃いのゴーグルとマスクもあるんだぜ?」
オクタンは得意気に、金の装飾が施された新しいゴーグルとマスクを装着した。
だが、それはゴーグルというよりも目隠しのようで、彼らしい茶目っ気のあるペイントがされてはいたが、ミラージュをいけない気分にさせるには十分だった。
「オクタビオ……!」
ミラージュはオクタンをベッドに押し倒し、口元のマスクを押し退けて荒々しく口付けた。
息をつく間もなく、重なり合う唇の深さと角度が変わるたび、綺麗に整えられていた青い髪がシーツの上に散らばって乱れていく。
「……は……っ、えらく激しいな、エリオット……。そんなにこのスキンが気に入ったのか?」
目隠しの下……これはもう、ミラージュにとってはゴーグルではなくプレイ用の目隠しだ。オクタンから見えていようがいまいが関係ない。淡く色づきてらてらと光る唇が、ますますミラージュを興奮させた。
俺は変態か? でも、このスキンのオクタビオはひどく狩野……カノウ……そうだ、官能的だ。
ミラージュの手が脇のスリットから中に潜り込もうとして、かろうじて残っていた理性の欠片がそれを押しとどめた。
何シーズンか前に、オクタンが開幕キルされた時の事を思い出したのだ。
ミラージュは苦しげに息を吐いて首を振った。
「俺はもうあんな思いをするのは嫌だ……」
「エリオット……?」
「オクタビオ、今日はもう寝ろ。俺も部屋に戻る」
オクタンは慌ててゴーグルを外して「ここまで来てそりゃねぇだろ」と、ミラージュの腕を捕まえた。
乱れ髪と熱視線、汗ばんだ手のひら。
いやだめだ。ここでおっぱじめたら、俺は朝までこいつを離さないだろう。
「おやすみ、また明日」
名残惜しそうなキスを残して、ミラージュは逃げるように部屋を出ていってしまった。
ベッドの上に残されたオクタンは、ボサボサになった頭を掻いて
「寝ろって言われてもな……どうすんだよ、これ」
と、すっかり茹であがった顔でぼやいた。

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