ウィット家の人々


「行方不明になったとき、一番上の兄貴はお前と同じくらいの年だった。なのに、いつの間にか俺は、あいつらの年を追い越して、おっさんなんて言われるようになっちまったんだな」
鼻の奥がツンとなって、俺の中の泣き虫エリオットが、今さら顔を出しそうになる。
繋いだままのオクタビオの手のぬくもりを、どこか切なく感じながら、俺は兄貴たちが生きて過ごすはずだった年月を思った。
あいつらにだって、あったはずなんだ。
季節ごとに変わる景色を眺め、こうやって恋人と手を繋いだり、家族と笑いあったりして過ごす幸せな未来が。
運が悪かったって言えばそれまでさ。
誰のせいってわけでもない。
けどそれだけじゃ、どうしたってやりきれねぇだろ……。
久しく思い出すことのなかった感情が溢れてきて、何も言うことができなくなった俺は、両手で顔を覆った。
「エリオット」
心配そうなオクタビオの声がして、震えている俺の手に触れ、優しく引き剥がす。
目があったとたん、俺の顔はくしゃりと歪んだ。
オクタビオを引き寄せてきつく抱き締め、今度こそ俺は本当に泣いていた。
「急いで大人になんかならなくていい。人生なんて、あっという間だ。俺だって大人なんかじゃねえさ。こうやって、お前の前で泣いちまったりするような、甘ったれたガキなんだ。だから……お願いだ、オクタビオ。お前は、あいつらが生きられなかった時間を誰よりも幸せに生きて、俺に見せてくれ」
みっともない泣き顔を見られないように、俺はオクタビオの顔を肩に押し付け、腕に力を込めた。
俺に埋もれたままコートの背中をぎゅっと握りしめたオクタビオは、俺の耳元で一言、
「聞こえたぜ」
とだけ答え、俺が泣き止むのを辛抱強くじっと待っていた。


空には灰色の雲がかかり、空気はいっそう冷たくなっていた。
長い抱擁を解いたオクタビオが、はっとしたように呟く。
「雪だ」
涙でぐずぐずになった顔を上げると、いつもの年よりずいぶん早い初雪が、湿った空からはらはらと舞い落ちていた。
「見ろよ、エリ、雪だぜ!」
オクタビオが弾けるように嬉しげな声を出して、俺の回りを跳ね回る。
両手のひらと舌を出して、その白く冷たい結晶を受け止めようとする仕草はまるで子供みたいで、さっきまで自分を抱き締めていた男とのギャップに、俺はまた泣きながら笑っちまった。
「あんたらの弟は泣き虫で困るぜ。俺がずっと側に居てやんなきゃダメみてぇだ」
オクタビオは空に目を向けてそう言った。
この雪はもしかしたら、あいつらから俺たちへの、気の効いた贈り物なのかもな。
俺は、オクタビオの睫毛の上に乗っかった雪にそっと息を吹き掛けて吹き飛ばし、しかめっ面の瞼にキスを落とした。
「……ありがとな、オクタビオ」
「いいんだよ」
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