すべて世はこともなし
「オクタビオ、眠っちまったのか?」
問い掛けに返事はない。
俺の肩に顔を埋めるようにして背中に腕を回し、義足を足に絡め、まるで絶対に離さないとでもいうようにぴったりくっついているオクタビオは、口には出さないが相当寂しかったようだ。
そうだろう、そうだろう。
なんせ、二週間も俺と離れてたんだからな。
俺も寂しかったぜ。
その空白期間を埋めるように、今夜は燃えた。
思い出すだけでまたムラムラしちまいそうだが、オクタビオの満たされたような安らかな寝顔を見たら、このまま抱き合って眠るのも悪くねぇなと思う。
少し肉の落ちた体と、痩けた頬が軟禁生活の辛さを物語っている。
これからまたいっぱい食わせねぇとな。
「……ごめんな」
酔ってたとはいえ、多勢に無勢だったとはいえ、こいつを守れなかったのは事実だ。
お前に守ってもらわなくても、ってお前は言うんだろうが、それでも俺はお前を守りたいと思ってる。
すうすうと寝息をたてる鼻のてっぺんから始まって、頬、まぶた、額、顔のあちこちにある小さなホクロをキスで辿っていく。
時々うるさそうに眉を寄せるオクタビオは、それでも目を覚まさない。
最後に唇を重ねると、無意識に唇を食み
「んー……お前は元気だな……、まだ寝ねぇのか……」
と、夢の中から話し掛けてくる。
「ほら、もう寝ようぜ、な……?」
オクタビオは寝ぼけながら俺の背中を抱きしめて、赤ん坊をあやすように叩いた。
裸のままの下半身が触れあって、お互いの陰毛がさわさわとくすぐってぇ。
そんなことすら愛しく感じる、暖かいベッドと腕の中で、俺はオクタビオのつむじにキスして目を閉じた。
「おやすみ」
明日は何をしようか?
シャワーを浴びたらまずシーツを洗濯して、軽く朝食をとったら街へ出よう。
無くしたキーケースを買い直して、ついでにお揃いの指輪も欲しいけど、それはお前の細くなった指が元に戻ったらな。
最近できた話題のレストランで昼飯を食ったら、シアターで恋愛映画でも見て、俺はきっと、途中で寝ちまったお前に文句を言うんだろう。
マーケットに寄ってから早めに家に帰れば、晩飯はポークチョップと極上のワインで決まりだ。
気分は上々、すべて世はこともなし。
ふたり揃った俺たちに敵はない。
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