たからもの

オクタンが再び目を覚ました時、ミラージュの姿はなく、代わりにライフラインが足の包帯を取り替えていた。
「良かった、出血は止まったみたいだね。あたしの手に負えなかったら、知り合いのドクターを呼ぼうかと思ってたけど、大丈夫そうだわ」
「そのドクターってのは、ちゃんとした医者なんだろうな?」
「え……えっと、まあ腕は確かよ」
「モグリかよ……? そうだと思ったぜ、JAJAJA」
ライフラインに軽口を叩きながら、オクタンは辺りを見回して、ミラージュの姿を探した。
「ミラージュなら、宝探しに出掛けたわよ。早いとこ終わらせるんだって言って、何だかちょっと怖かった……」
「……そうか」
「お前さんがケガしたことがショックだったんだろう。恋人のあんな姿を見たら、誰だってそうなるさ」
ボックス席の向こう側で、オクタンの義足の修理をしていたジブラルタルが、神妙な顔つきで言った。
足の痛みは昨日よりずいぶんと和らいでいた。
「迷惑かけて悪かったな、アミーゴ」
オクタンは、自分の為におそらく不休で作業を続けてくれているであろう二人に、素直に礼を言った。
「いいってことよ、ブラザー」
「あっ、そうだ! あんた、お腹減ってない? 何か食べられそう?」
ライフラインが思い出したように、カウンターの方に駆けて行った。
空腹なような気もするが、正直今は何も食べたくはなかった。ミラージュのことが心配だ。
「あんたが目を覚ましたら食べられるようにって、出掛ける前にミラージュが作ってってくれたのよ。栄養たっぷりの、エリオット特製スープだってさ。うちらの分もあるよ、ジブ」
「おお、そりゃありがたい」
ライフラインが三人分のスープを運んで来たが、オクタンは胸が一杯で食べられそうになかった。
ミラージュは、どこまでも優しい。
ふたりは滅多にケンカをすることはないが、たまにすれ違って、背中合わせに眠ったとしても、次の朝には必ず朝食を作って待っていてくれるのだ。
それを思い出しながら、何とかひと口だけ流し込んだスープは、いつも自分の腹と心を満たしてくれる、ミラージュの味がした。
早く帰ってこいよ、エリオット。
ハート型に切られた人参を見つめながら、オクタンはスプーンを握りしめた。
そのうちに、他のレジェンドたちも、ちらほらと店に集まってきた。
ローバが姿を見せたのは驚きだったが、誰も何も言わなかった。
それぞれが自分の作業に没頭し、何もすることができないオクタンは、またシートに寝かされる羽目になった。
クリプトのドローンがレヴナントにハッキングされ、ワットソンを襲うという事件が起きたのは、それからしばらくたってからの事だ。
皆が疑心暗鬼になり、クリプトに疑惑の目を向ける中、パスファインダーとレイスと共に、新たなピースを手にしたミラージュが戻ってくる。
「何かあったのか?」

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