whole Lotta Love

 
 結局、ミラージュが今夜の宿に選んだのは、デュオニソスの高級ホテルではなく、オリンパスのドッグに停泊している巨大な鉄の塊だった。
残っているメンバーはもう寝てしまったのか、フリースペースにも人影はなく静まり返っている。
常夜灯を頼りに、忍び足でミラージュの個室に戻った二人は、真っ先にスーツを脱ぎ捨てて、備え付けの硬いベッドに潜り込んだ。
「せっかくホテルをとったのに」
もぞもぞと収まりの良い場所を探していたオクタンが、薄笑いでミラージュに義足を絡ませる。
硬くつめたい存在感に確かな安堵を覚えながら、ミラージュは、まだほんのりと赤らんでいる頬に柔らかなキスを落とした。
「俺たちにはベッドがひとつありゃ十分だろ。どこに居るかより、誰と居るかのほうが重要なんだ。お前と一緒なら、どこだって極上のインペリアルスイートさ」
「くっさ」
「愛してるぜ、オクタビオ。今までも、これからも」
耳元で囁くミラージュの言葉を、オクタンは笑ってまともに取り合わなかった。
「またそれか? あんまり言い過ぎると、ありがたみってもんがなくなるぜ?」
「いいや、俺はそうは思わないね。だって、それ以外何がある? 俺は何度だって言うぜ、愛してる……オクタビオ」
互いに下着一枚だけの肌を触れ合わせれば、冷たかったシーツがだんだんと温もりを帯びていく。
戸惑ったように揺れるオクタンの瞳を真っ直ぐに見つめながら、ミラージュは真面目な顔で繰り返した。
こぼれてしまうなら、それ以上の愛情を注ぐだけだ。
いつの日か、オクタンの心が、疑うことなく愛でいっぱいになればいい。
そして、過ぎ去った過去を慈しみ、今だけでなく未来を語れるように……。
たとえ、何百万回口にしたとしても、そこに込められた想いが薄れることなどないのだから。
ミラージュは、急に口数の少なくなった恋人を抱きしめて、もう一度、愛の言葉を囁いた。



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