寄り道


「俺は腹が減ったぜ、親父。あそこでなんか食っていかねえか?」
惑星ガイアでの視察を終えたオクタンとトーレス・シルバは、スオタモにあるシンジケートの支部を後にして、帰りの車を待っているところだった。
オクタンの指差した先にあるのは、アウトランズ全体にチェーン店を持つ有名なハンバーガーショップだ。
「家まで待てないのか? まったく困った奴だな」
「いいだろ? どうせこの後は、何も予定はなかったはずだ」
トーレスの返事を待つまでもなく、オクタンは店の中へと突き進み、ちゃっかりカウンターに並んでいる。
「私が言うのはそういうところだぞ、分かっているのか? オクタビオ」
「ああ、分かってるって、親父。それより、あんたは何にする? チーズバーガーか? それともトリプルビッグバーガーなんてどうだ? パテが三枚も入ってるんだぜ。もちろんチーズもな!」
トーレスは、渋々といった様子でオクタンの横に並び、面倒くさそうに答えた。
「私はコーヒーだけでいい。ただし、カフェインレスにしてくれ」
「マジでそれだけかよ?」
「昼食は昼に食べた。夕食にはまだ早い。よって、今は食事する必要がない」
「そういうもんか? 飯なんか、腹が減ったら食うもんだと思ってたけど」
「いいから早く注文しろ。後ろの人達に迷惑だろう」
トーレスにたしなめられたオクタンは、慌ててレジに向き直り、トリプルビッグバーガーと特大のフレンチフライ、そしてカフインレスのコーヒーを二つ注文した。
トーレスはその間に、窓際のカウンター席の方に歩いて行った。彼の後ろに張り付くように護衛が一人、窓ガラスの向こうでは、通行人に紛れたシンジケート部隊が抜かりなく目を光らせている。
「ぎょうぎょうしいことで……」
オクタンは呆れ顔でつぶやいた。そういう自分の後ろにも、秘書であるフェンが無言で立っている。
「あんたもなんか食うか?」
「いえ結構です。職務中ですから」
「そりゃ残念だな」
一分と待たずにトレイに乗せられた注文の品を受け取り、オクタンは、丸椅子に腰掛けて待っているトーレスのもとへと運んだ。
こんな場所で並んで座るのは初めてだ。
胸の奥がこそばゆいような、居心地が悪いような、変な感じがする。
「食べ終わったらすぐに行くぞ」
「Si」
オクタンは乱暴に包み紙をむしると、気が付いたようにコーヒーの入ったカップをトーレスに差し出した。
トーレスはそれを受け取り、大口を開けてハンバーガーにかぶりつく息子の姿を物珍しそうに眺めていた。
「……うまいか?」
口の中をいっぱいにして、オクタンが小刻みに頷く。
「私にはケチャップの味しかせんのだがな。ドゥアルドもジャンクフードが好きだったが……」
言いかけた言葉が、苦いものを飲み込むように途切れる。失った息子を思い出したくないのか、オクタンを思いやっての事なのかは、彼にしかわからない。
「いいね。もっと聞かせてくれよ、親父の話」
オクタンは目を細め、続きを促した。
微笑んだ唇の隙間から覗く前歯が、わずかに欠けている。
「あいつはお前と同じで、歯医者が嫌いな子供だったよ……」
トーレスはそれだけ語ると、後はただ黙ってコーヒーを飲みながら窓の外を見つめていた。




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