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招待状を受け取ったクリス。彼はこの招待状に妙な違和感を覚える。差出人が書いていない、中身も地図だけ、誰かどういう目的でこれを彼に送り付けたのか。そんな考えてもわからない事が頭の中を駆け巡る。
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ならば、と、彼は自らの足でそれを確かめるべく、地図の示す場所へと訪れる事にした。
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中世ヨーロッパ時代に建てられたかのような外観を持つ、美しくもどこか狂気を感じさせる「屋敷」
色褪せた外壁、無数もの丁寧に並べられた窓。凡そ人が使われているようには感じられない。
何故ここを…?晴れない疑念は屋敷を見て更に深まる事になった。 -
クリス
ここが招待状に載っていた屋敷か…随分とまぁ…。
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再度招待状に目を落とすが、地図が指し示す場所はここで間違いはない。
周囲を見渡し、中へ入ろうと扉を探す。
程なくして見つけた大きく閉ざされた扉。
不自然なまでに綺麗に改修されており、明らかにここだけ人の手が加えられていたようだ。 -
クリス
…不自然だな…それにこの扉…とても人の手で開けられるようなものではない。
どこかに開ける為の何かがあるのだろうか。 -
辺りを見渡してみるも、それらしきものは一向に見当たらない。
いっそ窓から入ってしまおうか、と考えたその時だった。 -
クリス
扉が勝手に…? ふむ…なるほどこいつぁ…何かあるな…。
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目の前の扉が静かに音をたてながら開かれる。これから先何が起きるのか想像もつかない中、ゆっくりと誘うかのように、それは彼を歓迎している。
招待状をしまい込むと、万一の為にと持ってきている護身用装備を今一度確認した。 -
クリス
さぁて、何が飛び出してくるやら。幽霊か? ゾンビか? ふふ、くだらないな…。
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異様な光景に身体が縛られ、動きが鈍くなる。
扉の向こうから感じる得体のしれないもの。何かがある。
だが、その何かを知る事は今は出来なかった。
用心するに越したことはない。彼は精神を研ぎ澄ませ、見えない扉の先へと足を進めるのだった。 -
クリス
暗いな…。
-
ポケットからマッチを取り出し、壁にこすりつけて起こした火を、
携帯用のランタンに丁寧に灯した。 -
クリス
広いな…しかしどこもかしこも埃だらけだ。
本当に使われていたと思われるのはやはりさっきの扉位か…。
しかし…ここに招待した人物はいるのか? 人の気配は今の所感じないが…。 -
考えながら、慎重に屋敷の中を調べていく。
-
クリス
絵画…? この屋敷の人間だろうか。綺麗な髪をしている。そして恐ろしい位に優しい微笑み。この屋敷には似つかわしくない位だが、今がそう見えるだけだろうか。
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クリス
腕に抱いているのは…子供…?
ふむ…これは…名前か…? Cindy…シンディ…? -
絵画の下に取り付けられていたプレートをよく見ると薄っすらと名前のようなものが彫られていた。
それ以外の文字はプレートが削れており、読み取ることはできなかった。
そういうしているうちに、背後から物音がした。 -
クリス
誰だ!
-
咄嗟に振り向き、音がした方を睨みつける。ランタンをゆっくりと動かし、全神経を研ぎ澄ませ、辺りを警戒する。
恐ろしい程に静まり返っている屋敷の中では、自分の心臓の鼓動ですら邪魔になるほどだった。 -
クリス
今の音はなんだ。何かが落ちた? いや、何かを蹴飛ばしたような軽い音だ…これだけ静かな屋敷だ、聴こえない方が無理というもの。
もし誰かいるとするなら俺と同じように招待状を貰った人間か、この屋敷の住人か、送り付けてきた本人か…。 -
考えても答えは出ない。と、そこまで考えた頃、睨みつけていた所から何かがゆっくりと姿を現した。
-
???
すまない、驚かせてしまったようだ。
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クリス
あんたは?
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ショーン
私はショーンだ。私一人だと思っていた所に君をみかけたもので、隠れて様子を伺っていた。すまない。驚かせるつもりはなかった。
-
全く動じる事もなく、自身の非礼を詫びるショーンと名乗る男。
背が高く、整えられたその出で立ちは、執事、という言葉が似合うだろうか。 -
クリス
俺はクリス。差出人のない招待状を受け取り、気になってこの屋敷まで来たってわけだ。まぁ、現状手掛かりは何もなし。
しいていうならこの絵画の女の名前がシンディ、というくらいか。まぁこれも定かではないがな。 -
緊張を解き、煙草に火をつけ、ショーンに経緯を話した。
-
ショーン
おや? そうだったのか。奇遇だね。私も招待状が送られてきてね。ああ、ええっと、これなんだが同じものだろうか。
-
ショーンが差し出した招待状はクリスに送られてきたものと同一のものであった。差出人は書いておらず、屋敷の場所を記した地図、そして招待状には赤い封蝋が施されており、何かの模様が刻まれている。そこまでもが一致しているところを確認する。
-
クリス
俺に送られてきたものと同じだな。とするとだ、他にも招待された人間がここに来る可能性はあるか、何人だか知らないが。一体誰が何の目的でこんなものを…?
-
クリスの疑問には私もわからない、とでもいいたげな表情で返事をするショーン。
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ショーン
それはそうとクリスが来る前に少し屋敷内を調べていたのだが、いくつか小綺麗に整頓された部屋を見つけた。
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ショーン
因みに各部屋にはご丁寧にもネームが刻まれている。ざっと見た所だと…9人分はあるかと思うが、まだあるのかは分からない。
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クリス
ふむ…そこに俺の名前はあったか?
-
ショーン
あぁ、君の名前も確かにあったな。他に私が確認した名前だと…ジェシカ、サンドラ、フェイ、フランク…後はまだ見ていない。
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クリス
なるほど、少なくともその4人はこの屋敷に既にいるかこれから来るか、のどちらかというわけだ。まぁとはいっても、この招待状明らかに変だからな…来ないという可能性もなくはない。
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ショーンは頷き、一先ず調べた部屋へとクリスを案内することにした。
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クリス
ふむ…これは確かに不自然なまでに綺麗にされているな。ベッド…それから冷蔵庫、テレビ…机…クローゼット、か。
冷蔵庫の中には飲み物が入っているな。水と…これはなんだ? -
???
それは毒薬さ
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クリスの疑問に答えるように二人の背後から声がする。
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ショーン
失礼、君は何方かな?
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フランク
私はフランク。ここにきて部屋を見つけた際に私も君たちと同じように部屋を調べていてね。
冷蔵庫にあった2本、両方を試しにそこらにいたネズミに与えてみたが、1本は何も起きなかった。が、もう1本はネズミがもがきだしてそのまま死んでしまった。即効性の高い毒薬なんだろうな。飲めば死ぬぞ。 -
その答えにクリスは言葉を失った。それはショーンも同じだった。
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クリス
そ、そうか…分かった。ありがとう。俺はクリス、それからショーンだ。
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3人は自己紹介を済ませ、経緯を語り、情報を共有する事にした。
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フランク
なるほど。とするとまだこの屋敷には誰かが来るという事か。
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ショーン
分からないな。ただ分かる事とするなら、どうみても異常だという事位か。子供の遊びにしては少々可愛げがない。
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クリス
そうだなぁ、まぁ考えていても仕方ない。各部屋に電気が通っているとなると、屋敷全体の電源もどこかにあるかもしれない手分けして探してみよう。
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その提案に賛同し、各々が屋敷を探索していく。小一時間ほど経った時、フランクが電源らしきものを見つけ、三人が集合した時にその電源を入れた。屋敷全体は明るく灯され、それでいてどことなく暗く、必要なもの以外は一切何も与えられていなかったその屋敷を見渡し、どこか冷たさを感じた。
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クリス
本当に何もないな。部屋以外は特に手入れされた様子はない。なんなんだろうな。
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???
お前さん方、人狼という言葉は知っておるかな?
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3人の後ろから男性の声が聞こえる。3人は驚き振り返る。
いつからいたのか、どこから来たのか? それすらも分からないまま、その男はこちらを見ては不敵な笑みを浮かべている。
脳裏に描かれたのは”差出人”という言葉。 -
クリス
いや…聞いたことはないな…。
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男はそうだろう、といった顔で"人狼"について語り始める。
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老人
人狼…本来は吹雪や天災等で行き場を失い、遭難した人々がある屋敷に集まるという話でな。そこに集まった人々を「人の姿に化けた狼」が夜に一人ずつ食っちまうって話だ。
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男は笑いを交えながらも人狼について話していく。
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ショーン
ふむ、なかなかに評価しがたいお伽話だな。今まで生きてきてそんな話は聞いたことも見た事もない。
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ショーンの言葉にそうだろう、とまた笑みをこぼし、話を続けていく。
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老人
ハッハッハ! そりゃそうだろう! 人狼に全員食われちまうんだ、知ってる人間なんかおりゃせんよ。だがワシは本当に人狼がおると思うとる。この招待状からは獣の匂いがプンプンするからなぁ? ハッハッハ!
ワシはこういう狂気じみた話が好きでな。もう年老いて来る日も来る日も死を待つばかりの退屈な日々だったが、ここにきてワシは胸を躍らせた。 -
名も知らぬ男は悠々と語る。そこには狂気はなく、ただ純粋に、本当に”それ”を求めていたかのような表情と声。そこには嘘偽りを感じ取ることはできない。
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フランク
じいさん、その話に信憑性はあるのか? ここにいる全員がそれを知らない。そしてあんたもだ。あんただって実在するかどうかは分からないんだろう? なのになぜそこまでして信用している? この屋敷に招待されたのだって、例えばそれを知っていた人間がゲームのようにここへ招いて私たちをコマにしている可能性だってある。
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男の態度に腹を立てたのか苛立ちを隠せず、声を張り上げるフランク。それを見かねたクリスがフランクを制止した。
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クリス
何を言っても無駄だろうフランク。今言ってただろ? このじいさんは実在するかどうかも分からない人狼、とやらに興味があるだけさ。
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そういってクリスは新しい煙草に手を伸ばし、火を灯した。
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ショーン
この方の話の内容の真偽については今は置いておくとしよう。仮に"実在する"という事であるなら、私たちは毎夜一人ずつ死んでいく、そういう事になるな。仮に実在しなかったとしても、フランクの言った通り、そのウワサ話をゲームに見立てた愉快犯の可能性も十分にありうる話だ。
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クリス
…なるほどな。とするならこの屋敷からさっさと出て行った方が得策だろうな。まぁ俺はもう少し調べてみようと思うが。
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クリスの考えには皆同意していたが、居残るという事もまた、誰も何も言わないが同じ考えであった。
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老人
お前さんたちも招待状を貰ったのだろう? 言わなくてもわかる。これはゲームかもしれんが、仮に本物の人狼だったとするなら、腹をすかせた為にここに呼び込み、腹ごしらえをするつもりかもしれんなぁ?
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クリス
…こいつ、狂ってやがるな…年老いちまうとこうなっちまうのかねえ? やだやだ、歳だけは取りたくないもんだね。
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同感だ、とショーンとフランクは顔を見合わせて頷いた。
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老人
おやおや、そうこう言ってる間に他の招かれざるお客様がいらっしゃったようじゃぞ。
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名も知らぬ男がそういうと、3人が来た扉の方から何やら声が聞えてきた。そしてそこに混じる足跡も、一つや二つではなかった。
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???
この招待状って一体なんなんですかね…というか僕はなんでここに来ちゃったんだろう。来なければよかったなぁ…。
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???
何情けない事を言ってんの! あんたも男ならドーンと構えなさいよドーンと。
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???
その通りだ、フェイ。お前も男だろう? そこまでいうなら最初から来なければよかったじゃないか。今になって怖気づいたってもう既に帰り道はないんだからな、覚悟を決めろよ。
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色んな声が入り混じり、声の主たちは現れた。
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???
あら、先客がいたの? これはこれはご機嫌麗しゅう。
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クリス
あー…なんだ、修学旅行じゃないんだぜ…これは…。
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???
修学旅行? はは、こんな悪趣味な修学旅行、あってたまるかって話だよ。
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ショーン
…失礼、名前をうかがってもよろしいかな?
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ショーンの言葉に全員が取り敢えず、といった形で自己紹介を始めた。
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ジェシカ
私はジェシカよ。因みに他の人たちは偶然船に乗り合わせてたの。でもその船も面白くってね。私たち以外の乗客がいなくてね。でも大きな船だったし、なんというか貸し切り?とても満喫出来たわ。
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サンドラ
私はサンドラ。ジェシカお姉様とはある屋敷のメイドをしております。今回招待状が届いたという事で私はお姉様の付き添い、という形ではありますが、一応私の名前も書かれていたのでついてきた、という所です。
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フェイ
ぼ、僕はフェイ。同じく招待状を貰ったんだけど、なんというか…ほんの出来心だったんだけど…屋敷が近づくにつれて怖くなっちゃって…正直今スグにでも帰りたいって気持ちはある…。
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マイク
俺はマイク。まぁ特に語る事もない、宜しく頼む。
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スーザン
あたしはスーザン。毎日毎日退屈でさー、そんなときにこんなもん貰うもんだからついつい好奇心でここまできたってわけ。
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ジェイ
ジェイだ。私はこの招待状にキナ臭さを感じつつも、研究者としての血がここへ来るようにと導いていた気がしてな。まぁ早い話が好奇心、スーザンと似たようなものだ。
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フランク
私はフランク。まぁ私も似たようなものだが、さて、これで9人か?
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ショーン
私はショーン、ジェシカとサンドラ、フェイについては部屋にネームが刻まれていたので知っている。よろしく頼む。
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クリス
俺はクリス。探偵をやっているんだが、今回の招待状の件で、まぁ大体はジェイと同じ理由か。一応調べておこうと思ってな。
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老人
ハッハッハ! これで役者は揃った!さぁて、今夜は誰が死んでいくのやら、楽しみ楽しみ。
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ジェシカ
…このおじさんは何なの? 下品なこと。
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クリス
ああ…そのじいさんなら今回の件は"人狼"の仕業だ! って面白がってる変態だよ。
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サンドラ
…人狼?
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フェイ
人狼!? き、聞いたことある! 確か夜な夜な屋敷に集まった人を一人ずつ食い殺していくとか…でも見た目は完全に人だから本当に誰が人狼なのかは分からないんだって…単なるウワサだと思っていたけれど…もしかして本当に?
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フランク
…ばかばかしい、そんなことがあるわけがない。あるとするならそれに乗っ取った精神がイカレちまったじいさんみたいな人間がしてることだろうよ。
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マイク
まぁ真偽はともかくとして、どうすんだこれから。因みに船に乗ってきたとはいったが既に船は引き返しているしここからはもう戻れないぞ。一応辺りは見渡してきたが"何も乗り物はなかった"からな。
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マイクの言葉に3人は驚いた。
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フランク
…ちょっとまて、それはなにか? 私たちがここへ来るためにのってきた船も全部ないってことか?
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ショーン
…いよいよ逃げ場がなくなったわけですね。まぁもとより帰るつもりはなかったが…。
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フェイ
因みになんだけど、人狼の話についてはまだ続きがあって…。
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スーザン
続き? どんなの?
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フェイ
うん、人狼がいる屋敷って実は特別なもので、そもそも屋敷に迷い込む人間は"正真正銘の人間"に他ならないんだ…。ただ…。
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クリス
…ただ?
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フェイ
屋敷の最初の晩、自らの体に著しい変化が起こり、自身にある能力が宿るとされている…つまり現段階ではここにいる皆は人間だけど、夜を迎えたら…誰かが人狼になったり、誰かが別の能力を持ったりするとか…まぁこれもウワサ話程度なんだけどね…。
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ショーン
…だとするならじいさんの言っていることとは少し食い違ってくるな…本来は人狼がここへ迷ってきた人々を食っていくという話だったが…。
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ジェイ
それについては私が話そう。
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マイク
何か知ってるのか?
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ジェイ
どれもこれもウワサどまりの代物ではあるが、人狼に関する文献はいくつか読んだことがある。フェイの言っていた事が一番有力な説であるとも見ているな。で、その他の文献については、そもそも人狼とは生霊のようなもので、屋敷に来た人間に憑りつき、人間の姿を借りて肉体と魂を同時に手に入れると、そういうことらしい。
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フランク
オカルトじみてきたな。で、それなら例えば最後に残った人間、えっと人狼だったか、そいつはどうなるっていうんだ?
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ジェイ
これも諸説あるが、一番目にするのは、最後に残った人狼は憑りついた人間から離れ、姿を消し、屋敷にとどまる。そしてとり憑かれていた人間はその時の記憶がないまま気づいたら自分のいた場所に戻ってきている、とかそんな感じらしい。当然街からは行方不明者として出ているから事情聴取は受けるんだが誰も何も覚えていないの一点張りだそうで何の情報もないんだとか。
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クリス
ふー…なるほどね、大体全体が見えてきたか。にしてもここまで情報がないのによくもまぁそんなに色々と創作が詰め込まれたもんだな。誰だよ最初にそんなもん考えた奴は。
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クリスの言葉にはここにいる全員が納得してしまっている。これだけの情報があったにも関わらず、何一つとしてそれを決定づけるものがない。
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フェイ
…とある文献には続きがあって、これは本当に表沙汰になっていない上にウワサにしては陳腐過ぎるという事で話題にもなっていないんだけど、人狼以外にも能力があるっていうのはさっきもいったよね?
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クリス
ん? ああそうだな。
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フェイ
その中でも人狼が誰か分かる占い師、死んだ人間が狼だったかどうかわかる霊媒師、それから、人狼の襲撃から誰かを護る事が出来る狩人、それから、破壊的な衝動は芽生えないけれど、自身が人狼側の人間である事を意識してしまう狂人…これらの能力がそれぞれ誰かに備わっていくという事らしい。
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ジェシカ
面白そうね。でも仮にそれが本当だったとして、自分が一体どの能力を持ったのかなんてわからないんじゃない?
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ジェイ
その点については、何かが語り掛けてくるらしい、という話もある。夢で会話をするようなイメージとも言われている。これについては行方不明者だった一人がぼんやりと告げたという話もあるから、あながちフェイが読んだという文献も嘘ではないのかもしれんな
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マイク
なるほどね。まぁその真偽についても夜になればわかるって事だろう。
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老人
ハッハッハ! 素晴らしい! 人狼についてそこまで情報が集まるとは! おおよそワシが知っている内容とほぼ相違はないようだ
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クリス
…まだいたのかこのじいさん…びっくりするからやめてほしいぜ…まったく。ていうか知ってたのかよ。なにもんだ? あんた。
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サンドラ
それはそうとネームがあったといってましたが、部屋があると言う解釈で宜しいのでしょうか?
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サンドラの問いかけにショーンが答える。そうして一先ずすべての情報を共有した一同は、各々の部屋へ行き、夜まで退屈な時間を過ごすのだった。
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老人
さて、今夜はどうなるのか楽しみじゃの…人狼、生きていたら一目見たいもんだ。
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~~【午前0時】~~
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クリス
ぐっ…!?
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ひときわ大きな胸の鼓動にクリスは胸を押さえ倒れこんだ。
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クリス
なんだ…これは…体が熱い…はぁはぁ…くそっ! 一体なんだっていうんだこれは!
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???
クリス…聞こえていますか? クリス…。
-
人の気配はない。だが、どこからか声が聴こえ、クリスの名を呼んでいる。
-
クリス
誰だ……俺を呼ぶ声は…っはぁ…!くそっ…満足に動けやしねえ…はぁ…はぁ…。
-
???
貴方は選ばれました、この屋敷に居る人物の一人を、貴方の頭の中でイメージしなさい。
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クリス
イメージ…? はぁ…はぁ…くっ…お前は誰だ…! 俺になにを…いや、まてよ…確かフェイが言っていたな…能力が宿る…? なら俺は何かしらの能力を持つことになるってことか…?
-
???
クリス、イメージしなさい、さあ。
-
クリス
はぁ…はぁ…くっ……。
-
クリスは最初に出会ったショーンを頭の中で描いた。
-
???
彼は人狼ではありません。良いですね? 貴方はこれから毎晩、声が聞えたら誰か一人をイメージするのです。そうすれば貴方にその人物が人狼なのかそうでないのか、それを助言しましょう。
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クリス
ん…体が嘘のように軽くなった…なんだったんだ今のは…それに助言…? こうして俺は人狼を探していくって事か?
-
???
そう。ただし、助言できるのは「人狼なのかそうでないのか」だけ。狂人は人狼ではないから助言としては人狼ではないという事になる。
-
クリス
なるほど…つまり、人狼は分かるが意識的に人狼の味方だと感じている能力…だったか?そいつについては分からないって事だな。
-
???
そう捉えて貰っても構わない、そして毎晩一人ずつ人狼に殺され、人狼の数があなた方人間と同じ数になった時…あなた方は一人残らず殺されてしまう事をお忘れなく。
-
声の気配が消えた。クリスはその後何度も呼び掛けるが、全く反応がなくなってしまう。
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クリス
ふむ…フェイの言っていたことは本当だったという事か…? しかしショーンか…人狼ではないって事だし、しかしあの声の主を信用してもいいものだろうか…? ん…!?
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クリスは再びショーンを思い描くと、くっきりと頭の中で人狼ではないという事が脳に伝達されていく。
-
クリス
なるほどな…これがつまり…"占い師"ってやつか…これは残り8人も全員何かしら能力を身に着けるのか…? そもそも内訳が分からないぞ…人狼の数が、なんていってたが人狼が仮に5人いたらもうすべてがおわるわけだが…いや、待て、そもそも人狼を見つけたとして仮にそいつをどうやって始末すればいいんだ…?
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クリスは酷く疲れながらもすべてを理解しようとした。ベッドに体を倒すと、泥のように意識を奪われていった。
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~~【男の部屋】~~
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老人
あぁ、人狼よ…もし居るのなら私の目の前に出てきて一目その顔を見せて欲しい…このおいぼれの最期の頼みだ…どうせ人生長くもない。死ぬ前にせめて…。
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???
……ウゥウ…。
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声に驚き、その身を声の方へと向けた…そこにいたのは…。
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老人
おぉ…ウワサは本当だった…お前さんが人狼かい? おや? 二人いるようだが? まぁこの際構わない。この後ワシはお前さんたちに殺されて終わってしまうんだろう?
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人狼 -A-
……。
-
老人
喋れないのか喋らないのか、まぁこの際どちらでも構わん。
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人狼 -A-
……。
-
老人
ハッハッハ! いいぞお! 何も語らず、実にミステリアス!!!! これがワシの求めていたもの! さぁ! ワシを喰ろうて己の糧にするが良い! ハッハッハ! ワシにもう心残りはない!!!!!
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人狼 -A-
……!
-
刹那、人狼の鋭い爪が男の喉を引き裂いた。男は断末魔を上げる間もなく、同時に首がもげ、部屋に男の首が荒々しく落ちる。人狼は男を食い散らかしていく。辺りに血が飛散する。赤く、美しいその色は、首のない人間だったモノを染め上げていく。
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そして翌日、朝。一人の悲鳴から、閉ざされた小さな世界の中で非日常が始まっていくのだった。
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