shot.10 嵐の前の
4番道路から続くジョインアベニューは商店が立ち並ぶゲートになっており、アンヌはあちらこちらに目移りしながらウインドウショッピングを楽しんだ。花屋の店先に並ぶ花を愛でたり、道具屋では初めて見る進化の石に興味津々だった。
だが、ゲートを抜けた先にはそれ以上の感動と、驚きが待っていた。
街中の電飾がキラキラと派手に発光し、リズミカルな音楽が流れている。遊園地、スタジアム、ミュージカルホールなどが建ち並ぶこのライモンシティは街全体が娯楽施設のようだった。
「とっても煌びやかな街ね…。」
誰もが顔を緩ませ、楽しそうな顔をして通り過ぎていく。明るく、嬉々とした雰囲気に感化され、アンヌも無性に愉快な気持ちになった。
「うおおっ!!スッゲーー!これがライモンか!STADIUMにTHEME PARK!めちゃくちゃ楽しそーじゃねェか!」
ブレイヴも興奮した様子ではしゃぎ回り、子供のように目を輝かせる。テレビでしか見たことがなかった景色が目の前に広がっていて、逸る気持ちを抑えられないようだ。
「おい!ジェト、オレ様が今の遊びをLECTUREしてやるぜっ!」
「え、えっ……?ボクはアンヌと……うわあっ!」
ブレイヴは近場にいたジェトの手を掴み、有無を言わさず、彼をジェットコースターがある遊園地の方へとずるずると引き連れていった。…レクチャーとは建前で、恐らく自分が遊びたいだけなのだろうが。
アンヌは道連れになってしまったジェトと、心を躍らせるブレイヴの背を苦笑しながら見送る。
(…あれ?…もしかして…。)
ブレイヴとジェトがいなくなり、辺りがしんとしてから彼女は気が付いた。
ちらりと視線を横に動かすと、グルートの赤い瞳と目が合う。アンヌはどきっとして、慌てて視線を逸らして俯いた。…彼が嫌いなわけではないのに、どうして避けるような態度を取ってしまったのか、自分でもよくわからなかった。
(グルートと…ふたりきり…?)
最初はふたりだけの旅だったので、彼とそうなるのは珍しいことではなかったがーー。ふと意識し始めると、アンヌの胸の鼓動は速くなり、かっと体が熱を帯びた。
◇◆◇◆◇
ブレイヴ達に倣い、アンヌとグルートも遊園地のエリアに向かった。家族連れもちらほら見えるが、多く見えたのは体を寄せ、甘え合うカップル達の姿だ。アンヌは目のやり場に困りながら、忙しなく視線を泳がせていた。
(私達もあんな風に見られているのかしら…。)
一度意識し始めると駄目だった。アンヌは益々グルートの顔が直視出来なくなる。呼吸の仕方も忘れてしまいそうだ。場所が変わっただけで、こうも緊張してしまうものなのだろうか。
落ち着こうとして、彼女はグルートから自然と距離をとっていた。
…だが、横から手が伸びてきて、ぐっと力強く腕を掴まれ、引き寄せられる。
「阿呆。ちょろちょろすると迷子になるって、いつも言ってんだろ。」
「っ!」
至近距離に迫るグルートの顔に、アンヌは心臓が止まりそうになった。彼に謝りながら、彼女は慌てて後退した。しかし、その手をがっしりと握られ、最早アンヌに逃げ場はなかった。
「それに、いつまたあいつらが現れるかわからねぇしな。」
「そ、そうね……。」
先の件もあり、グルートは気を巡らせてくれているのだろう。彼に他意はない。…それに少しがっかりしたような気分になっているのは何故なのだろうか。
辺りにいるカップルのような指を絡めるような手の繋ぎ方ではなく、ただグルートに手を鷲掴みされているだけの状態。彼の手の中でどうしていいわからないアンヌの手が、固まったままじわりと湿り気を帯びた。
それから互いに黙り込んでしまい、沈黙が続いた。周囲が賑やかなだけに、ふたりの様子はぽつんと浮いている。
普段ならはしゃぎ回っていそうなものだが、静かな彼女にグルートの調子も狂う。いや、それだけなら先の件があって、落ち込んでいるのだろうとまだ納得ができる。
…彼女は先程から自分と目すら合わせようとしないのだ。一歩進めば、彼女はふらふらと距離を取ろうとする。この手をつかんでいなければ何処かへ行ってしまいそうだった。
(…気に障るようなことしたか…?)
あからさまに避けられている。だが、いくら記憶を辿っても思い当たる節がない。せいぜい、子供扱いに腹を立てたというぐらいだろうが、…それも今更なことのように思われる。
「あっ……。」
そんな折、アンヌが久々に声を上げた。何だと彼女が向けている視線をなぞると、大きな観覧車が目の前にあった。
「とても大きな籠が回っているけれど…あれ…落ちたりしないのかしら…?」
彼女は観覧車を初めて見たのだろう。目を丸くさせ、驚いたような顔をする。その中に人が乗っていく姿を見て、益々困惑していた。いつもよりは控え目だが、グルートは彼女がそれに興味を示していることを感じ取っていた。
「乗ってみるか?」
「えっ?……う、うん…。」
ぎこちなくだがアンヌは頷く。彼女が誘いに乗ってくれたことにグルートは内心、安堵していた。
だが、ゲートを抜けた先にはそれ以上の感動と、驚きが待っていた。
街中の電飾がキラキラと派手に発光し、リズミカルな音楽が流れている。遊園地、スタジアム、ミュージカルホールなどが建ち並ぶこのライモンシティは街全体が娯楽施設のようだった。
「とっても煌びやかな街ね…。」
誰もが顔を緩ませ、楽しそうな顔をして通り過ぎていく。明るく、嬉々とした雰囲気に感化され、アンヌも無性に愉快な気持ちになった。
「うおおっ!!スッゲーー!これがライモンか!STADIUMにTHEME PARK!めちゃくちゃ楽しそーじゃねェか!」
ブレイヴも興奮した様子ではしゃぎ回り、子供のように目を輝かせる。テレビでしか見たことがなかった景色が目の前に広がっていて、逸る気持ちを抑えられないようだ。
「おい!ジェト、オレ様が今の遊びをLECTUREしてやるぜっ!」
「え、えっ……?ボクはアンヌと……うわあっ!」
ブレイヴは近場にいたジェトの手を掴み、有無を言わさず、彼をジェットコースターがある遊園地の方へとずるずると引き連れていった。…レクチャーとは建前で、恐らく自分が遊びたいだけなのだろうが。
アンヌは道連れになってしまったジェトと、心を躍らせるブレイヴの背を苦笑しながら見送る。
(…あれ?…もしかして…。)
ブレイヴとジェトがいなくなり、辺りがしんとしてから彼女は気が付いた。
ちらりと視線を横に動かすと、グルートの赤い瞳と目が合う。アンヌはどきっとして、慌てて視線を逸らして俯いた。…彼が嫌いなわけではないのに、どうして避けるような態度を取ってしまったのか、自分でもよくわからなかった。
(グルートと…ふたりきり…?)
最初はふたりだけの旅だったので、彼とそうなるのは珍しいことではなかったがーー。ふと意識し始めると、アンヌの胸の鼓動は速くなり、かっと体が熱を帯びた。
ブレイヴ達に倣い、アンヌとグルートも遊園地のエリアに向かった。家族連れもちらほら見えるが、多く見えたのは体を寄せ、甘え合うカップル達の姿だ。アンヌは目のやり場に困りながら、忙しなく視線を泳がせていた。
(私達もあんな風に見られているのかしら…。)
一度意識し始めると駄目だった。アンヌは益々グルートの顔が直視出来なくなる。呼吸の仕方も忘れてしまいそうだ。場所が変わっただけで、こうも緊張してしまうものなのだろうか。
落ち着こうとして、彼女はグルートから自然と距離をとっていた。
…だが、横から手が伸びてきて、ぐっと力強く腕を掴まれ、引き寄せられる。
「阿呆。ちょろちょろすると迷子になるって、いつも言ってんだろ。」
「っ!」
至近距離に迫るグルートの顔に、アンヌは心臓が止まりそうになった。彼に謝りながら、彼女は慌てて後退した。しかし、その手をがっしりと握られ、最早アンヌに逃げ場はなかった。
「それに、いつまたあいつらが現れるかわからねぇしな。」
「そ、そうね……。」
先の件もあり、グルートは気を巡らせてくれているのだろう。彼に他意はない。…それに少しがっかりしたような気分になっているのは何故なのだろうか。
辺りにいるカップルのような指を絡めるような手の繋ぎ方ではなく、ただグルートに手を鷲掴みされているだけの状態。彼の手の中でどうしていいわからないアンヌの手が、固まったままじわりと湿り気を帯びた。
それから互いに黙り込んでしまい、沈黙が続いた。周囲が賑やかなだけに、ふたりの様子はぽつんと浮いている。
普段ならはしゃぎ回っていそうなものだが、静かな彼女にグルートの調子も狂う。いや、それだけなら先の件があって、落ち込んでいるのだろうとまだ納得ができる。
…彼女は先程から自分と目すら合わせようとしないのだ。一歩進めば、彼女はふらふらと距離を取ろうとする。この手をつかんでいなければ何処かへ行ってしまいそうだった。
(…気に障るようなことしたか…?)
あからさまに避けられている。だが、いくら記憶を辿っても思い当たる節がない。せいぜい、子供扱いに腹を立てたというぐらいだろうが、…それも今更なことのように思われる。
「あっ……。」
そんな折、アンヌが久々に声を上げた。何だと彼女が向けている視線をなぞると、大きな観覧車が目の前にあった。
「とても大きな籠が回っているけれど…あれ…落ちたりしないのかしら…?」
彼女は観覧車を初めて見たのだろう。目を丸くさせ、驚いたような顔をする。その中に人が乗っていく姿を見て、益々困惑していた。いつもよりは控え目だが、グルートは彼女がそれに興味を示していることを感じ取っていた。
「乗ってみるか?」
「えっ?……う、うん…。」
ぎこちなくだがアンヌは頷く。彼女が誘いに乗ってくれたことにグルートは内心、安堵していた。