shot.10 嵐の前の

「チェッ、オレ様達の分も残しとけっつーの。」
「ホンマやで。俺らやったらビシッと敵をやっつけたったのに。」

 グルートとグラ、そしてジェトがアンヌの追手と一戦交えたことを後から知ったブレイヴとレックスは、揃って口を尖らせた。バトル好きな彼ららしい反応だったが、狙われたアンヌの胸中は複雑だった。


(ラインハルト…ではないし…、けれど、“私の帰りを待っている”って……。私が、知っているひとなのかしら…。)

 黒スーツの男はそう口にしていた。待っているという点で真っ先に思い浮かぶのは、父のレンブラントだ。しかしそれならばそう言えばいいものを何故、ボスなどと回りくどい言い方をするのだろうか。シャルロワ家を守る役目を担っているリヒト達が出てこないのも違和感がある。グルートはシャルロワ家の財産目当てで誘拐しようとしている者の仕業だと推察していたがーー男の言葉が気がかりで、アンヌは納得できなかった。


(もしかして……お父様のお知り合い…?)

 長年幽閉されていたアンヌが知っている者は殆どいないが一方的に知られている可能性はある。アンヌはその人物が父の知り合いで、頼まれて、私を連れ戻そうとしている?と考えた。


(まさか……。)

 はっと忘れかけていたことが一瞬、アンヌの脳裏に過った。嫌な予感が心を満たし、それを払拭しようと首を横に振った。


 それらの条件にすんなりと当てはまる存在に気がついたが、…彼女はそれを認めてしまうのが恐ろしかったのだ。


 ……婚約者。

 いいや、そんなはずはないと言い聞かせて、彼女は考えるのを止めーーやはり、グルートの推察が正しいのだろうと思考を押し込めるように上書きした。

◇◆◇◆◇


 旅立つ前にアンヌには寄る所があった。タイガが運ばれたヒウンシティのポケモンセンター だ。以前はタイガの体調が優れず、見舞いは控えたが、ジョーイさんからの電話で、生活に支障がないぐらいには動けるようになったと聞き、一言挨拶をしに行こうということになった。

 活躍できず、悔しがっていたブレイヴが今度こそと言わんばかりにアンヌに付き添ってくれた。尤も彼は追手が来ることを待ちわびているようだったが。レックスも同じ理由で来ようとしていたのだが、グラに仕事を言いつけられ、叶わなかったようだ。(おまけにソフィアの監視付きだったので余計に抜け出せなかった。)
 グルートとジェトも側で見守ってくれていて、アンヌが申し訳なくなるぐらい充分な護衛をしてもらっていた。

「みんな、ごめんなさい。気を遣わせてしまって…。」
「気にすることない……ボクがアンヌを…守りたいだけだから……。」
「おっ、COOLなこと言うじゃねーかジェト。そうだぜ、例え悪いヤツが来てもオレ様達がブッ倒すからNO PROBLEM!」

「…ふたりともありがとう、とっても頼もしいわ。」

 アンヌが微笑むとブレイヴとジェトの表情も柔らかくなった。…仲間の優しさに触れているとアンヌの脳裏に過った不安も一時だが、忘れることができた。

 遠目で彼女を見ていたグルートは彼女の表情の陰りを感じ取っていた。…無理をして笑顔を作っているのが目に見えてわかる。
 やはり先の追手のことが堪えているのだろう。得体の知れない相手に身を狙われているのだから無理もない。

 俺に出来るのはーー彼女を付け狙い、立ちはだかる敵を倒すことだけ。
 異変に気付けるよう、グルートはこれまで以上に警戒し、周囲に意識を向けた。
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