shot.8 なくしたもの

「いや~すまんかったなァ、堪忍したってや~ブレイヴく~ん!」
「へっ、こんぐれー痛くもカユくもねーっての!」

 我に返り、落ち着きを取り戻したレックスはブレイヴに平謝りした。彼は強がったが、その頬はほんのり赤くなり、腫れぼったくなっている。…勿論、その後ブレイヴがレックスに一発やり返したのは言うまでも無い。

 やっと静かになったかと思えばあっという間に騒がしくなり、喧嘩をしたり、陽気に肩を組んだりするふたりの姿がタイガにとっては煩わしく、妙に不愉快に感じた。


「…っていうかさ。君達、僕についてこないでくれるかな。君達の目的なんて微塵も興味ないけど、進むなら僕とは違う方向に行ってくれよ。」
「Ah?かてェこと言うなよ、ダチだろ?」
「君と友達になった覚えはないんだけど。」
「まあまあ、ここで会ったのも何かの縁やて。仲ようしよや!タイガ!」

 不快感を露わにしたタイガの眼差しを物ともせず、レックスは半ば強引に彼と肩を組んだ。すると傍にいたブレイヴも便乗して、反対側から同じようにタイガの肩に手を回した。左右から圧迫されタイガは四面楚歌だ、と絶望的な気持ちになった。 

「…これだからDQNは…滅びればいいのに。」

 歯を見せて笑うふたりに吐き捨てるように、タイガは不満を漏らした。しかし有り余るほどポジティブなふたりには、まるで聞こえていないようだ。それが余計にタイガの心を憂鬱にさせた。

「つーか、おめェは何でこんなとこにいンだよ。」
「君に教える必要ある?いいや、無いね。」
「だッーー!だからおめェってヤツはよォ~~!」
「わかったで、あんさんもブレイヴとおんなしで、ドジ踏んで穴に落ちたクチやろ?」
「一緒にしないでくれる?…僕はここの地形をわかってて、わざと、必要だから穴に落ちたんだ。彼とは違うね。」
「はーん。」
「………。」

 相手にせず無視を決め込んでいたタイガだったが、明らかに自分を馬鹿にしたレックスの凝視が腹立たしく感じて、反射的に動いていた。ムキになるだけ無駄だと頭ではわかっているが、自分より頭が悪いと見下している相手に馬鹿にされるのは、彼のプライドが許さなかったのだろう。
 タイガは両肩に乗るふたりの手を振り払い、背負っていたギターケースを下ろすと、中から[Pオカルト倶楽部]と書かれた雑誌を乱雑に引っ張り出してきた。

「ブレイヴくんと同列にされるのは癪だからね。」

 と、前置きをして。親切心では無く、あくまでも自分の名誉のために説明してやるのだと、タイガはくどいまでに強調した。

 雑誌の表紙には[死と再生]、[魂の帰還]などという怪しげな見出しとともに、【古代の城特集】の文字が大きく一面に載っていた。雑誌のタイトル通り、超次元的で摩訶不思議、科学だけでは証明できない所謂、霊的なことについて書かれているのだろうということが窺えた。

「…僕はこの目で確かめたいんだ。古代イッシュで本当に死者蘇生なんてものが存在したのか。死んだ生き物の魂はどこへ行くのか。…そもそも魂なんてものは存在するのかってね。死から見つめる生への渇望…。古代の城を探れば何か感じ取れるものがあるかもしれない、そう思って僕はここへ来たんだ。……わかるかい?これは僕の本能的な欲求。動かずにはいられない、知らずにはいられない。必死に生きようと足掻く生き物の謎。僕の心を蝕んでいく疑問を解消する為に、僕はここにいるんだよ。」

 雑誌を突きつけながら熱弁を奮ったタイガだったが、案の定、ふたりのドラゴンはあんぐりと口を開き、この上なく間抜けな面をしていた。


「……えーと、つまり…古代の城に調べ物しにきたっちゅうわけか?」

 ブレイヴはそもそもタイガの発した言葉が殆ど聞き取れていなかったようだが、レックスの方は断片的に拾い上げた言葉からパズルを組み立てるように推察した。これにはタイガも少し驚いたようで、へえ、と感心したような声を零した。

「まあ、端的に言えばそうだね。君、脳筋の割には意外と理解力あるんだ。あはは。」
「そうそう、俺意外と頭ええねん……って、やかましいわ!」

 レックスの華麗なノリツッコミが炸裂したが、これでもタイガにしてはまだ賞賛している方だった。
 いまいちピンと来ていないブレイヴは疑問を強めるばかりだった。だが、ふたりの間ではそれとなく通じ合ったような雰囲気が流れており、自分だけわからないまま置いていかれたような感じに、悔しくなった彼は咄嗟に声を上げた。

「おお、オレ様だって、わかってたぜ!!あれだ、熱いSOUIを探しにきたンだろ!?」
「……は?」

 勿論、知ったかぶりである。タイガの冷たい視線はもっともだ。発言している本人ですら意味が理解できていないのだから。ただ、タイガが熱く語っていたという印象と、辛うじて入ってきた魂というワード、レックスの答えを真似したものが混ぜ合わさって、支離滅裂な言葉が出てきてしまったのだ。

「アレだろ?熱いSOUIってことは~やっぱオレ様に会いたかったンだろ???はじめからそういえよタイガ~!おめェってホント、素直じゃねェヤツ!」
「死ね。」
「WHY!?」
「…うん、そら、そうなるわ。」

 こればかりはレックスも、タイガの反応に頷きながら理解を示した。
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