shot.5 博物館へ行こう
レックスは奥の駐車場から自分のバイクを引き連れ、シッポウ博物館の正面入り口前でアンヌ達と合流した。
「うおッ、なんだそのバイク!?」
「どや、カッコエエやろ?名付けて“オノノEX”や!」
レックスの傍らにあるバイクを見てブレイヴが驚きを露わにする。全体を派手な金と黒で塗装して、アッパーカウルは彼を象徴するオノノクスの顔になっていた。頬のあたりから伸びている斧のような鋭利な部分、長い尻尾まで再現されている。彼はこれらをすべて自分でカスタマイズして作り上げたらしい。ここまでくると彼の自己主張の強さも一種の才能だと思わされた。
だがブレイヴは感心するのもそこそこに、今度は不満げに口を尖らせた。
「そこはクリムガンにしとけっつーの!SENSEねェな!」
「はァ?なんでオノノクスがクリムガンに乗らなあかんねや!おかしいやろ!」
「そりゃクリムガンの方がCOOLだからに決まってンだろ!」
「なんやとォ~~!」
ブレイヴの自己主張の強さも、相変わらずレックスに負けずとも劣らない。闘争心剥き出しの彼らはバチバチと眼光を飛ばし、睨み合う。――が、レックスは背後から漂うグルートの無言の圧力に気づいて、さっと身を退いた。さすがの彼も先輩であるグルートには敵わないらしい。ざまあみろと言わんばかりにレックスに向かって舌を出し、煽るブレイヴだったが、反省する気のない彼はグルートに重い拳骨を食らわされ、暫く悶絶することになった。
ドドドド…という低い音が響く。ヘルメットを装着し、ソフィアを後ろに乗せた後、レックスはグルートに向かって一礼した。
「ヒウンについたら会社に来たってください。親父も喜ばはりますよって。」
「…はっ、どうだかな。追い返されそうな予感しかしねぇよ、俺は。」
「兄貴やったら大歓迎、間違いナシですわ!……た、たぶん。」
弱気に笑うレックスを見て、グルートは呆れつつも、その瞳に懐かしさを宿しながら小さく口元を弛めた。「気が向いたらな。」という彼らしいぶっきらぼうな返事も付け加えて。
アンヌもソフィアの傍に寄り、両手で固く握手した。温かな体温を感じ合い、ふたりは別れを惜しんだ。
「またね、アンヌちゃん。今度会うときはもっとたくさんお話ししようね。」
「ええ、ソフィア。楽しみにしているわ。」
「…ふふっ。やっぱりアンヌちゃんって不思議。」
「どうして?」
徐に言葉を溢すソフィアにアンヌは首を傾げた。ソフィアは頭の中のイメージを展開させるように天を仰ぐ。アンヌにじっと寄り添うように掌に込める力を強めた。
「温かいのに寂しい感じがするの。どこか寒さに震えるような……。」
「!」
ソフィアの言葉にアンヌは胸がざわめくのを感じた。
自由を求めた結果とはいえ、家を捨て屋敷を飛び出したアンヌには少なからず後ろめたい気持ちもあった。ソフィアはアンヌの事情を知らない、偶然の一致だ。しかし、シャルロワ家、縁談、この先のこと――アンヌは奥底に眠っていた不安をソフィアに見透かされ、言い当てられてしまったような気になった。
「ううん。だからこそ、ね。」
揺れるアンヌの心の内も感じ取ったのか、彼女はどこか納得したように相槌を打った。
「寒さを知っているからこそ、君は優しい温もりを持っているんだね。」
今まで伏していた瞼をソフィアは、初めてアンヌの前で開いた。ヘルメットのシールド越しでもはっきりとわかる、光を失った深い黒の色。その目の焦点はアンヌを見ているようでどこか虚ろにも見えた。
アンヌははっと目覚めるように、彼女を見つめていた。凍り付いた冷たい心を解かしてくれるような、ソフィアの柔らかな太陽の微笑み。すると段々アンヌの心も晴れていくようで、つられて頬を緩めた。
「そのお話もまた今度。」と言い残し、ソフィアはアンヌからゆっくりと手を離した。
エンジン音を響かせ、発車する彼らのバイクを見送る。小さくなっていく彼らの背を目で追いながら、アンヌは自分の道を信じるように強く頷いた。
「うおッ、なんだそのバイク!?」
「どや、カッコエエやろ?名付けて“オノノEX”や!」
レックスの傍らにあるバイクを見てブレイヴが驚きを露わにする。全体を派手な金と黒で塗装して、アッパーカウルは彼を象徴するオノノクスの顔になっていた。頬のあたりから伸びている斧のような鋭利な部分、長い尻尾まで再現されている。彼はこれらをすべて自分でカスタマイズして作り上げたらしい。ここまでくると彼の自己主張の強さも一種の才能だと思わされた。
だがブレイヴは感心するのもそこそこに、今度は不満げに口を尖らせた。
「そこはクリムガンにしとけっつーの!SENSEねェな!」
「はァ?なんでオノノクスがクリムガンに乗らなあかんねや!おかしいやろ!」
「そりゃクリムガンの方がCOOLだからに決まってンだろ!」
「なんやとォ~~!」
ブレイヴの自己主張の強さも、相変わらずレックスに負けずとも劣らない。闘争心剥き出しの彼らはバチバチと眼光を飛ばし、睨み合う。――が、レックスは背後から漂うグルートの無言の圧力に気づいて、さっと身を退いた。さすがの彼も先輩であるグルートには敵わないらしい。ざまあみろと言わんばかりにレックスに向かって舌を出し、煽るブレイヴだったが、反省する気のない彼はグルートに重い拳骨を食らわされ、暫く悶絶することになった。
ドドドド…という低い音が響く。ヘルメットを装着し、ソフィアを後ろに乗せた後、レックスはグルートに向かって一礼した。
「ヒウンについたら会社に来たってください。親父も喜ばはりますよって。」
「…はっ、どうだかな。追い返されそうな予感しかしねぇよ、俺は。」
「兄貴やったら大歓迎、間違いナシですわ!……た、たぶん。」
弱気に笑うレックスを見て、グルートは呆れつつも、その瞳に懐かしさを宿しながら小さく口元を弛めた。「気が向いたらな。」という彼らしいぶっきらぼうな返事も付け加えて。
アンヌもソフィアの傍に寄り、両手で固く握手した。温かな体温を感じ合い、ふたりは別れを惜しんだ。
「またね、アンヌちゃん。今度会うときはもっとたくさんお話ししようね。」
「ええ、ソフィア。楽しみにしているわ。」
「…ふふっ。やっぱりアンヌちゃんって不思議。」
「どうして?」
徐に言葉を溢すソフィアにアンヌは首を傾げた。ソフィアは頭の中のイメージを展開させるように天を仰ぐ。アンヌにじっと寄り添うように掌に込める力を強めた。
「温かいのに寂しい感じがするの。どこか寒さに震えるような……。」
「!」
ソフィアの言葉にアンヌは胸がざわめくのを感じた。
自由を求めた結果とはいえ、家を捨て屋敷を飛び出したアンヌには少なからず後ろめたい気持ちもあった。ソフィアはアンヌの事情を知らない、偶然の一致だ。しかし、シャルロワ家、縁談、この先のこと――アンヌは奥底に眠っていた不安をソフィアに見透かされ、言い当てられてしまったような気になった。
「ううん。だからこそ、ね。」
揺れるアンヌの心の内も感じ取ったのか、彼女はどこか納得したように相槌を打った。
「寒さを知っているからこそ、君は優しい温もりを持っているんだね。」
今まで伏していた瞼をソフィアは、初めてアンヌの前で開いた。ヘルメットのシールド越しでもはっきりとわかる、光を失った深い黒の色。その目の焦点はアンヌを見ているようでどこか虚ろにも見えた。
アンヌははっと目覚めるように、彼女を見つめていた。凍り付いた冷たい心を解かしてくれるような、ソフィアの柔らかな太陽の微笑み。すると段々アンヌの心も晴れていくようで、つられて頬を緩めた。
「そのお話もまた今度。」と言い残し、ソフィアはアンヌからゆっくりと手を離した。
エンジン音を響かせ、発車する彼らのバイクを見送る。小さくなっていく彼らの背を目で追いながら、アンヌは自分の道を信じるように強く頷いた。