shot.3 HEROの証
「ずーすけじゃねェか!おめェいたのか!」
「…ちょっとブレイヴ。その言い方、もうちょっとなかったの。…ああ、やっぱいいや。めんどくさいし。」
助っ人にきた者への反応とは思えない雑なブレイヴの対応に、ずーすけは若干凹みながら眉を顰めた。けれどそれに一々リアクションを取るのも面倒なのか、それ以上の抗議はせず、ふうと小さくため息を吐くに留まった。
だが、勝利を宣言し颯爽と現れたずーすけの自信ありげな口調はハッタリではなかった。彼の腕の中にはその言葉を証明するように、マリーがいたのだ。
「ブレイヴぅ!」
大きな瞳に涙を溜めながら、マリーはブレイヴの元へ駆ける。幸い大きな怪我はなく、腰に抱き着く彼女にほっとした様子で、頬を緩め、その頭を優しく撫でた。突然連れ去られ、人質にされた幼い彼女は、さぞかし怖い思いをしたことだろう。
意地でも泣き顔を見せたくないのか、マリーは顔を上げず、地面を見ながらぼろぼろと涙を流していた。
「みんなおそいのよっ!ばかぁっ!」
「へへっ…HEROは遅れて登場するってヤツだぜ、マリー。」
「ばっかじゃないの!ブレイヴだってこんなにケガしてるくせに…う…ううっ。」
喉を詰まらせ、時々マリーの口から零れる言葉はブレイヴを心配していたことも窺える。
こんな時に場違いだとは思いながらも、ブレイヴは優しい仲間に囲まれている自分が最高に幸せ者だと思って、目を細めて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
けれどバッドからしてみれば、これは最悪な状況だった。人質を失い、彼らの弱みを握るものを失ったことは彼にとってかなりの痛手だった。
焦り、苛立つその気持ちは、誰の行動も阻むことが出来なかったガイルに向いた。
「クソッ、ガイルの野郎はマジで何してやがったんだァ!!!」
「そのガイルがここまでの抜け道を丁寧に教えてくれたズル。」
「何だとォ!?」
思わずバッドは周囲を見渡す。しかしガイルの姿はどこにもない。役に立たないどころか、敵に塩を送る真似をしていたことが判明し、バッドはわなわなと怒りで打ち震えた。
「ガイルを従わせるなんて…一体、どんな手を使ったんだよッ?」
別れ際のずーすけの様子からしてロイは、彼が誰も思い付かないような妙案を思い付き、ガイルを策に嵌めたのだと思ったのだ。
「大したことはしてないズル。オレがゲーム大会で優勝した時に貰った、美少女フィギュアをあげだけ。」
「え。」
「釣れるかなと思って、ダメもとでやってみたら釣れたズル。」
ずーすけはガムで作った風船を膨らませながら、素っ気なく言う。
策というにはあまりにも滑稽な内容にロイはきょとんとする。一瞬ずーすけが似合わないジョークでも言っているのかと思った。が、徐々にそれが現実だと理解するうちに、頬がぴくぴくと微動し、喉をつぶしたような笑い声が溢れていた。
ずーすけの話では「三度の飯より二次元が大好きです!」と言ってガイルは清々しく去っていったらしい。それが追い打ちをかけるように彼らの笑いのツボを刺激することになった。
「ガハハハハハッ!おめェ、フィギュアに負けてンじゃねェか!!!」
尤もブレイヴはバッドのことなどお構いなしに、皆が思っていたことを代弁し、豪快に笑った。笑いすぎて、腹の辺りの怪我に響き、悶絶することにはなったが。
バッドにとっては仲間ですらない、使い走りだと思っているガイルに最初から期待など微塵もしていなかったが、彼の行動によって結果的に自分まで馬鹿にされ、顔を真っ赤にし、苛立ちを露わにした。衝動的に殴り付けた地面は、大きくヒビが入り、陥没した。
「あのクソオタクゥウ!!!」
「へっ、てめェがダチを大切にしねェからこうなるンだぜ!自業自得ってヤツだな!」
「仲良しゴッコしてるテメェらと一緒にすんじゃねェッ!」
金属バットを強く握り締め、バッドはブレイヴ達に向かって血の混じった唾を吐き捨てた。
散り散りにしたはずのファイアーブレイズはずーすけの登場によって全員揃い、一丸となってバッドの前に立ちはだかっていた。対して、バッドは道具同然の扱いで利用していたガイルにさえ見捨てられ、孤立無援の状態。
「…どいつもこいつもこのオレをコケにしやがってェえええッ!」
バッドの怒りに呼応して、周囲に真っ赤なエネルギーの塊が現出し、彼の持っている血に染まった金属バットに吸収されていく。目も開けていられないほどの激しい砂嵐が渦巻き、洞窟内の岩石や砂利が肌を掠めながら舞い上がる。
「一体、オレとテメェの何が違うっていうんだァ!ブレイヴゥウ!!!」
バッドの咆哮が響き、エネルギーが龍のように次々と立ち昇る。それはブレイヴ達がいる場所まで焼き尽くそうとする勢いだった。
だが、ブレイヴの魂は少しも怖気づいてはいなかった。それどころか口角を吊り上げ、どこか嬉々としている風で。
「ブレイヴ、とってもたのしそうだぞお~。」
「…まあ、大体想像つくけど、たぶん止めても無駄ズル。」
「やれやれ…。」
きよべえは暢気にブレイヴが元気になったことを喜び、ずーすけとグルートはこの先の展開を把握して、石像のような冷淡な顔でブレイヴを見ていた。
マリーの頭をもう一度くしゃくしゃに撫でた後、ブレイヴが目配せをして、彼女をロイの元に引き渡す。
バッドに似た赤いエネルギーが、ブレイヴの体から溢れ出す。そしてそれは仲間を包み込むようにして、大きな一つの塊になる。エネルギーがうねり、駆け巡る様はまるで意思を持って、生きているかのようだった。
「アニキッ、いけーーッ!!」
ロイがエールを送り、赤く腫れぼった目をしたマリーがブレイヴを見上げると、彼は自信たっぷりにグッと親指を立てた。曇りのないブレイヴの魂は皆を安心させ、勇気づける。
玉砕覚悟で深い朱を纏ってブレイヴの元へ向かってくるバッド。金属バットを持った彼がブレイヴに襲い掛かろうとしている。
だが、ブレイヴは逃げずに目の前の敵へと真正面からぶつかっていく。ぼろぼろの体もブレイヴの強い想いの前では大した問題ではなかった。
「当たり前だ!オレ様を誰だと思ってやがる!!!――オレ様は宇宙一最強のHERO!SUPER STARのブレイヴ様なンだからなッ!!!」
激突する二つのドラゴンの力によって、薄暗い洞窟内がぱっと明るくなる。光に驚いたズバットたちが翼を広げ、離散する。
「ぬおおおおお!!!ブレイヴゥウウウ!」
「食らえぇえ!オレ様の超必殺!…逆鱗ッ!!!」
ふたりは雄たけびを上げながら、ドラゴンタイプの攻撃、「逆鱗」をほぼ同時に放つ。深手を負い、満身創痍の彼らにとってそれは一見すると互角の攻撃だった。
――だが、その拳の重さはブレイヴが遥かに上回っていた。育て屋の皆、そしてアンヌ。仲間を想うブレイヴの気持ちは、ブレイヴ自身の力となり、大きくなっていく。
拮抗していた攻撃も徐々にブレイヴが圧して、段々とバッドを後退させていく。体重をかけて踏ん張ろうとしても、敵わない。
咄嗟にバッドは足を蹴り上げようとした、しかし、それより先にブレイヴの燃えるように赤い拳がバッドの頬を貫く。衝撃で顔が歪み、後方に向かって首が捻じれる。呼吸の仕方を忘れ、息が止まったような感覚になった。
洞窟の壁に磔にされ、がっくりと項垂れるバッド。からん、と手に持っていた金属バットが虚しく音を立てて、転がる。
ふたりの逆鱗の威力の凄まじさを物語るように、地面には大きなクレーターができていた。
「そんな…バカな…ァ!!!」
轟音を立てながら、バッドの力が急激に消滅していく。自分の意識とは無関係に体から抜けていく力に怯えながら、口から一度血を噴き出した後、がっくりと項垂れ、意識を失ってしまった。
喉がつっかえるような苦しげな息を漏らしながら、ブレイヴは辛うじて立っていた。腕は火傷を負ったように爛れ、全身から止め処なく血が溢れ出している。
「ほらな、物語は…HEROが勝つようにできてるンだぜ……。」
「――アニキッ!?」
力を使い果たし、ブレイヴもその場に崩れ落ちる。だが、自分の顔を覗き込む仲間達の姿を見て、彼はにぃっと口を広げ、どこか誇らしげに笑っていた。
「…ちょっとブレイヴ。その言い方、もうちょっとなかったの。…ああ、やっぱいいや。めんどくさいし。」
助っ人にきた者への反応とは思えない雑なブレイヴの対応に、ずーすけは若干凹みながら眉を顰めた。けれどそれに一々リアクションを取るのも面倒なのか、それ以上の抗議はせず、ふうと小さくため息を吐くに留まった。
だが、勝利を宣言し颯爽と現れたずーすけの自信ありげな口調はハッタリではなかった。彼の腕の中にはその言葉を証明するように、マリーがいたのだ。
「ブレイヴぅ!」
大きな瞳に涙を溜めながら、マリーはブレイヴの元へ駆ける。幸い大きな怪我はなく、腰に抱き着く彼女にほっとした様子で、頬を緩め、その頭を優しく撫でた。突然連れ去られ、人質にされた幼い彼女は、さぞかし怖い思いをしたことだろう。
意地でも泣き顔を見せたくないのか、マリーは顔を上げず、地面を見ながらぼろぼろと涙を流していた。
「みんなおそいのよっ!ばかぁっ!」
「へへっ…HEROは遅れて登場するってヤツだぜ、マリー。」
「ばっかじゃないの!ブレイヴだってこんなにケガしてるくせに…う…ううっ。」
喉を詰まらせ、時々マリーの口から零れる言葉はブレイヴを心配していたことも窺える。
こんな時に場違いだとは思いながらも、ブレイヴは優しい仲間に囲まれている自分が最高に幸せ者だと思って、目を細めて、嬉しそうな笑みを浮かべた。
けれどバッドからしてみれば、これは最悪な状況だった。人質を失い、彼らの弱みを握るものを失ったことは彼にとってかなりの痛手だった。
焦り、苛立つその気持ちは、誰の行動も阻むことが出来なかったガイルに向いた。
「クソッ、ガイルの野郎はマジで何してやがったんだァ!!!」
「そのガイルがここまでの抜け道を丁寧に教えてくれたズル。」
「何だとォ!?」
思わずバッドは周囲を見渡す。しかしガイルの姿はどこにもない。役に立たないどころか、敵に塩を送る真似をしていたことが判明し、バッドはわなわなと怒りで打ち震えた。
「ガイルを従わせるなんて…一体、どんな手を使ったんだよッ?」
別れ際のずーすけの様子からしてロイは、彼が誰も思い付かないような妙案を思い付き、ガイルを策に嵌めたのだと思ったのだ。
「大したことはしてないズル。オレがゲーム大会で優勝した時に貰った、美少女フィギュアをあげだけ。」
「え。」
「釣れるかなと思って、ダメもとでやってみたら釣れたズル。」
ずーすけはガムで作った風船を膨らませながら、素っ気なく言う。
策というにはあまりにも滑稽な内容にロイはきょとんとする。一瞬ずーすけが似合わないジョークでも言っているのかと思った。が、徐々にそれが現実だと理解するうちに、頬がぴくぴくと微動し、喉をつぶしたような笑い声が溢れていた。
ずーすけの話では「三度の飯より二次元が大好きです!」と言ってガイルは清々しく去っていったらしい。それが追い打ちをかけるように彼らの笑いのツボを刺激することになった。
「ガハハハハハッ!おめェ、フィギュアに負けてンじゃねェか!!!」
尤もブレイヴはバッドのことなどお構いなしに、皆が思っていたことを代弁し、豪快に笑った。笑いすぎて、腹の辺りの怪我に響き、悶絶することにはなったが。
バッドにとっては仲間ですらない、使い走りだと思っているガイルに最初から期待など微塵もしていなかったが、彼の行動によって結果的に自分まで馬鹿にされ、顔を真っ赤にし、苛立ちを露わにした。衝動的に殴り付けた地面は、大きくヒビが入り、陥没した。
「あのクソオタクゥウ!!!」
「へっ、てめェがダチを大切にしねェからこうなるンだぜ!自業自得ってヤツだな!」
「仲良しゴッコしてるテメェらと一緒にすんじゃねェッ!」
金属バットを強く握り締め、バッドはブレイヴ達に向かって血の混じった唾を吐き捨てた。
散り散りにしたはずのファイアーブレイズはずーすけの登場によって全員揃い、一丸となってバッドの前に立ちはだかっていた。対して、バッドは道具同然の扱いで利用していたガイルにさえ見捨てられ、孤立無援の状態。
「…どいつもこいつもこのオレをコケにしやがってェえええッ!」
バッドの怒りに呼応して、周囲に真っ赤なエネルギーの塊が現出し、彼の持っている血に染まった金属バットに吸収されていく。目も開けていられないほどの激しい砂嵐が渦巻き、洞窟内の岩石や砂利が肌を掠めながら舞い上がる。
「一体、オレとテメェの何が違うっていうんだァ!ブレイヴゥウ!!!」
バッドの咆哮が響き、エネルギーが龍のように次々と立ち昇る。それはブレイヴ達がいる場所まで焼き尽くそうとする勢いだった。
だが、ブレイヴの魂は少しも怖気づいてはいなかった。それどころか口角を吊り上げ、どこか嬉々としている風で。
「ブレイヴ、とってもたのしそうだぞお~。」
「…まあ、大体想像つくけど、たぶん止めても無駄ズル。」
「やれやれ…。」
きよべえは暢気にブレイヴが元気になったことを喜び、ずーすけとグルートはこの先の展開を把握して、石像のような冷淡な顔でブレイヴを見ていた。
マリーの頭をもう一度くしゃくしゃに撫でた後、ブレイヴが目配せをして、彼女をロイの元に引き渡す。
バッドに似た赤いエネルギーが、ブレイヴの体から溢れ出す。そしてそれは仲間を包み込むようにして、大きな一つの塊になる。エネルギーがうねり、駆け巡る様はまるで意思を持って、生きているかのようだった。
「アニキッ、いけーーッ!!」
ロイがエールを送り、赤く腫れぼった目をしたマリーがブレイヴを見上げると、彼は自信たっぷりにグッと親指を立てた。曇りのないブレイヴの魂は皆を安心させ、勇気づける。
玉砕覚悟で深い朱を纏ってブレイヴの元へ向かってくるバッド。金属バットを持った彼がブレイヴに襲い掛かろうとしている。
だが、ブレイヴは逃げずに目の前の敵へと真正面からぶつかっていく。ぼろぼろの体もブレイヴの強い想いの前では大した問題ではなかった。
「当たり前だ!オレ様を誰だと思ってやがる!!!――オレ様は宇宙一最強のHERO!SUPER STARのブレイヴ様なンだからなッ!!!」
激突する二つのドラゴンの力によって、薄暗い洞窟内がぱっと明るくなる。光に驚いたズバットたちが翼を広げ、離散する。
「ぬおおおおお!!!ブレイヴゥウウウ!」
「食らえぇえ!オレ様の超必殺!…逆鱗ッ!!!」
ふたりは雄たけびを上げながら、ドラゴンタイプの攻撃、「逆鱗」をほぼ同時に放つ。深手を負い、満身創痍の彼らにとってそれは一見すると互角の攻撃だった。
――だが、その拳の重さはブレイヴが遥かに上回っていた。育て屋の皆、そしてアンヌ。仲間を想うブレイヴの気持ちは、ブレイヴ自身の力となり、大きくなっていく。
拮抗していた攻撃も徐々にブレイヴが圧して、段々とバッドを後退させていく。体重をかけて踏ん張ろうとしても、敵わない。
咄嗟にバッドは足を蹴り上げようとした、しかし、それより先にブレイヴの燃えるように赤い拳がバッドの頬を貫く。衝撃で顔が歪み、後方に向かって首が捻じれる。呼吸の仕方を忘れ、息が止まったような感覚になった。
洞窟の壁に磔にされ、がっくりと項垂れるバッド。からん、と手に持っていた金属バットが虚しく音を立てて、転がる。
ふたりの逆鱗の威力の凄まじさを物語るように、地面には大きなクレーターができていた。
「そんな…バカな…ァ!!!」
轟音を立てながら、バッドの力が急激に消滅していく。自分の意識とは無関係に体から抜けていく力に怯えながら、口から一度血を噴き出した後、がっくりと項垂れ、意識を失ってしまった。
喉がつっかえるような苦しげな息を漏らしながら、ブレイヴは辛うじて立っていた。腕は火傷を負ったように爛れ、全身から止め処なく血が溢れ出している。
「ほらな、物語は…HEROが勝つようにできてるンだぜ……。」
「――アニキッ!?」
力を使い果たし、ブレイヴもその場に崩れ落ちる。だが、自分の顔を覗き込む仲間達の姿を見て、彼はにぃっと口を広げ、どこか誇らしげに笑っていた。