shot.3 HEROの証

「よォ、久しぶりだなァ~、ブレイヴ?」
「ブレイヴッ!!!」

 バッドの手の内で泣き叫びながらブレイヴの名を呼ぶマリーと、血だらけでぐったりしているアンヌを見れば、おおよそ誰の仕業かは見当がついた。
 グルートは負傷したアンヌを庇うように寄り添ったが、その痛々しい傷に眉間が震える。
 ブレイヴは固く拳を握り締め、バッドを睨んだ。その金色の瞳には怒りの炎が燃えていた。

「てめェ…!よくもオレ様のダチをッ!」
「止せ、阿呆!」

 グルートの制止も聞かず、怒りに身を任せ、ブレイヴは「ドラゴンクロー」をバッドに向けて放とうとする。――だが、盾のようにマリーを突きつけられ、勢いは一瞬にして消滅した。その隙を逃さず、バッドはブレイヴの腹に金属バットを叩きつける。「ドラゴンテール」。アンヌがその身に受けたものと同じ技だった。
 ブレイヴは大きな一撃を食らい、息を詰まらせながら、地面に沈む。血反吐を口の端から零し、絶え絶えの呼吸を漏らす。すると追い打ちをかけるようにバッドがブレイヴの頭を踏み躙った。

「ぐああッ!」
「アニキッ!!!」
「おおっと、動くんじゃねェぞ。少しでも妙な動きしやがったら、このガキの命は無いぜ?……ま、ブレイヴは殺すつもりだけどなァ?」
「なにッ……!?」

 バッドの言葉に動揺が広がる。ざわつく観衆の姿にバッドは自分が中心に立ち、今この世界を支配する王になったような気がした。

「アニキに勝てねぇからって…卑怯だぞ!」
「なァ~ロイチャンよォ~~……テメェの立場わかってんのかァ?」

 ロイが浴びせる罵声も優勢に立つバッドにとっては取るに足りない、負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。
 マリーに金属バットを向ければ忽ち彼らの士気は消沈する。それがバッドには痛快だった。

 苦虫を噛み潰したような表情をしているのはロイだけではない。アンヌの傍でグルートも静かに攻撃の機会を伺っていた。だが、人質になっているマリーとブレイヴを巻き込む危険性があったため、動くことができず歯痒い思いをしていた。


「人質なら儂がなってやる!じゃから、ふたりを放すんじゃ!」

 誰もがバッドを警戒し、硬直する中、一歩前に進んだのは育て屋のお爺さんだった。物怖じする様子を微塵も見せず、彼はバッドの元へと近づいて行く。

「ハッ!死にかけのジジィなんざ役に立たねェよォ!」
「うぐおッ!」
「ジィちゃん!」

 バッドの非情な攻撃がお爺さんに向けて放たれる。吹き飛んだお爺さんの体をなんとかきよべえが受け止めるが、肩の辺りから大量の血が溢れ出していた。

「てめェ……よくも…ジジィまで……ッ!!!」

 ファイアーブレイズの皆にとって自分達を育ててくれたお爺さんは親同然。友達、親を傷つけられて黙っていられる程、ブレイヴは冷静ではなかった。しかし、体が動かない。先の戦いの傷とバッドの攻撃は彼の体に想像以上のダメージを与えていたようだ。
 足の下で無様にもがくブレイヴを見下しながら、バッドは口が裂けそうな程に口角を歪め、今度はブレイヴの顔を蹴飛ばす。
 痛み以上に、卑劣な相手を前に地面を舐めることしか出来ない状況が彼は腹立たしかった。

「これで死刑の準備は整ったってワケだァ!テメェらカス共にはもう用はねェ!――ガイル!」
「ファッ!?」
「例のブツだ!!!チンタラしてんじゃねェ!ブッ殺すぞ!」
「りょ、了解しますたぁッ!!」

 どこに隠れていたのか。バッドの傍から六角形の眼鏡をした細身の男が現れる。ガイルと呼ばれた彼はバッドの命令通りに懐から何かを取り出し、ロイ達に向かって投げつける。
 すると部屋に煙が充満し、視界が遮られる。

(これは、煙玉ッ!)


 しかしグルートが気づいた時にはもう遅く、視界が晴れた頃にはバッドとガイルの姿は消えていた。……いや、彼らだけではない。同じようにマリーとブレイヴの姿も見えない。
 残されたのは破壊され森閑とした部屋だけで。
 立つ力を失ったようにロイがその場に崩れる。青ざめた顔をして、焦点の合わない虚ろな目をしていた。
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