shot.2 I am The HERO!
壊れた部屋の壁の存在も霞んでしまう程の重い空気。お爺さんの胸倉を掴んでいたブレイヴは静かにその手を離す。顎をしゃくったり、引いたりしながらグルートに近づき、煽るように睨みつける。そして勢いよくグルートの顔面を目掛けて拳を放った。――しかし攻撃は、あっさりと彼の掌に受け止められてしまう。ブレイヴは更に不愉快そうに眉を顰めた。
「もう一回オレ様と勝負しやがれゴラァ!!!」
「……往生際が悪いぜ。クソガキ。」
「うるせェ!もうまぐれ勝ちはねェからな!!!」
怒号を飛ばしながら、ブレイヴはグルートに掴みかかる。どうやらブレイヴは先の勝負に納得がいっていないようだ。しかしグルートには闘う意志が全く無いようで、白けきった顔をしていた。挑発ともとれるその反応にブレイヴの苛立ちが最高潮に達しているのは、その場にいる誰もがわかった。
「やめんか、馬鹿者!」
「――痛でッ!!」
彼の気迫を破ったのはお爺さんだった。背後からブレイヴの頭をスリッパで思いっきり叩く。スパンっ!と軽快な音が大きく響いた。
容赦なく、怪我に追い打ちをかけるような攻撃にブレイヴは両手で頭を押えて悶える。強引な止め方にアンヌは驚きを隠せず、ぽかんとその場に立ち尽くす。
「なにしやがんだクソジジィ!!!」
「拳が受け止められた時点でお主の負けは決まっておる。これ以上、恥を曝す前にさっさと仕事をするんじゃな。――お客さんも待っておることじゃし。」
怒るブレイヴを一蹴し、お爺さんはアンヌの方を見、打って変わって朗らかな笑みを浮かべる。一間空いて、自分のことを指しているのだと気が付いたアンヌは慌ててお辞儀をした。
「アンヌといいます。あの……お取込み中にごめんなさい。邪魔をするつもりはなかったのですが……。」
「気にせんでいいよ、アンヌちゃん。こちらこそウチの馬鹿がすまんかったの。罰としてこやつに育て屋を案内させるから許してやってくれ。」
「はァ!?何勝手に決めてんだクソジジィ!!!オレ様はコイツとケリつけなきゃなんねェ―――痛だッ!!」
もう一度、スリッパの刑が飛んできてブレイヴはついに言葉を失った。お爺さんの笑顔が恐ろしい程に穏やかでかえって不気味だった。
「お客さんをあまり待たせるでないぞ、ブレイヴ。」
有無を言わさない無言の圧力。黒いオーラが漂っていて誰も意見することができない。あのポーカーフェイスのグルートすら少し驚いていた。
「が……ガチギレしてるときのジイちゃんだ…。」
ぼそっと呟かれたロイの言葉を聞かずともそうであろうことは初対面のアンヌにも薄々察しがついていた。やんちゃなブレイヴを手懐けてしまうとはさすが育て屋さんというべきか。
巻き込まれる形になったアンヌはただただ苦笑する他になかった。
「ただいまだぞお。」
――と、店の扉が開いて、殺伐とした空間を和らげてくれるようなのんびりとした声が響く。入ってきたのはお相撲さんのような体格の青年とお婆さんだった。店番の青年が言っていたキヨというひとと、育て屋のお婆さんが帰ってきたのだ。
ふたりの両手には買い物袋があり、食事に使うであろう野菜や肉類が袋から溢れんばかりに入っていた。
「キヨ!バアちゃんお帰りッ!」
張りつめた空気に緊張していたのか、ロイの声には安堵の色があった。すかさず駆け寄り、彼はお婆さんの荷物を持つ。
「ああ、ありがとうロイ。ずーすけも店番ありがとうね。」
「ズル。」
ずーすけと呼ばれた店番の青年は相変わらず気怠そうだったが、ゲームを中断して彼も荷物を運ぶ手伝いを始めた。
それぞれの注意が散り散りになり、闘志を燃やしていたブレイヴも興が削がれたようで不貞腐れたように舌打ちをする。
「……仕方ねェな、今日はこのぐらいで勘弁してやらァ。」
ブレイヴは至近距離でグルートを睨んだ後、ぺっと床に唾を吐いた。因縁をつけられたグルートは面倒臭そうに肩を竦める。ふたりの間の険悪なムードは良くなる気配が一向になかった。
「ほらかっこつけとらんで、さっさと案内せんか!」
「いちいち命令すんな、クソジジィ!」
「ま、まあまあ。よろしくね、ブレイヴ。」
せっかく収まったお爺さんとの口論も再燃しそうだったので、アンヌは割って入り、ブレイヴに手を差し出した。差し出されたアンヌの手を訝しげに見詰めるブレイヴだったが、暫くすると、ぶっきらぼうながらしっかりと握り返してくれて。アンヌはほっと胸を撫で下ろした。
「もう一回オレ様と勝負しやがれゴラァ!!!」
「……往生際が悪いぜ。クソガキ。」
「うるせェ!もうまぐれ勝ちはねェからな!!!」
怒号を飛ばしながら、ブレイヴはグルートに掴みかかる。どうやらブレイヴは先の勝負に納得がいっていないようだ。しかしグルートには闘う意志が全く無いようで、白けきった顔をしていた。挑発ともとれるその反応にブレイヴの苛立ちが最高潮に達しているのは、その場にいる誰もがわかった。
「やめんか、馬鹿者!」
「――痛でッ!!」
彼の気迫を破ったのはお爺さんだった。背後からブレイヴの頭をスリッパで思いっきり叩く。スパンっ!と軽快な音が大きく響いた。
容赦なく、怪我に追い打ちをかけるような攻撃にブレイヴは両手で頭を押えて悶える。強引な止め方にアンヌは驚きを隠せず、ぽかんとその場に立ち尽くす。
「なにしやがんだクソジジィ!!!」
「拳が受け止められた時点でお主の負けは決まっておる。これ以上、恥を曝す前にさっさと仕事をするんじゃな。――お客さんも待っておることじゃし。」
怒るブレイヴを一蹴し、お爺さんはアンヌの方を見、打って変わって朗らかな笑みを浮かべる。一間空いて、自分のことを指しているのだと気が付いたアンヌは慌ててお辞儀をした。
「アンヌといいます。あの……お取込み中にごめんなさい。邪魔をするつもりはなかったのですが……。」
「気にせんでいいよ、アンヌちゃん。こちらこそウチの馬鹿がすまんかったの。罰としてこやつに育て屋を案内させるから許してやってくれ。」
「はァ!?何勝手に決めてんだクソジジィ!!!オレ様はコイツとケリつけなきゃなんねェ―――痛だッ!!」
もう一度、スリッパの刑が飛んできてブレイヴはついに言葉を失った。お爺さんの笑顔が恐ろしい程に穏やかでかえって不気味だった。
「お客さんをあまり待たせるでないぞ、ブレイヴ。」
有無を言わさない無言の圧力。黒いオーラが漂っていて誰も意見することができない。あのポーカーフェイスのグルートすら少し驚いていた。
「が……ガチギレしてるときのジイちゃんだ…。」
ぼそっと呟かれたロイの言葉を聞かずともそうであろうことは初対面のアンヌにも薄々察しがついていた。やんちゃなブレイヴを手懐けてしまうとはさすが育て屋さんというべきか。
巻き込まれる形になったアンヌはただただ苦笑する他になかった。
「ただいまだぞお。」
――と、店の扉が開いて、殺伐とした空間を和らげてくれるようなのんびりとした声が響く。入ってきたのはお相撲さんのような体格の青年とお婆さんだった。店番の青年が言っていたキヨというひとと、育て屋のお婆さんが帰ってきたのだ。
ふたりの両手には買い物袋があり、食事に使うであろう野菜や肉類が袋から溢れんばかりに入っていた。
「キヨ!バアちゃんお帰りッ!」
張りつめた空気に緊張していたのか、ロイの声には安堵の色があった。すかさず駆け寄り、彼はお婆さんの荷物を持つ。
「ああ、ありがとうロイ。ずーすけも店番ありがとうね。」
「ズル。」
ずーすけと呼ばれた店番の青年は相変わらず気怠そうだったが、ゲームを中断して彼も荷物を運ぶ手伝いを始めた。
それぞれの注意が散り散りになり、闘志を燃やしていたブレイヴも興が削がれたようで不貞腐れたように舌打ちをする。
「……仕方ねェな、今日はこのぐらいで勘弁してやらァ。」
ブレイヴは至近距離でグルートを睨んだ後、ぺっと床に唾を吐いた。因縁をつけられたグルートは面倒臭そうに肩を竦める。ふたりの間の険悪なムードは良くなる気配が一向になかった。
「ほらかっこつけとらんで、さっさと案内せんか!」
「いちいち命令すんな、クソジジィ!」
「ま、まあまあ。よろしくね、ブレイヴ。」
せっかく収まったお爺さんとの口論も再燃しそうだったので、アンヌは割って入り、ブレイヴに手を差し出した。差し出されたアンヌの手を訝しげに見詰めるブレイヴだったが、暫くすると、ぶっきらぼうながらしっかりと握り返してくれて。アンヌはほっと胸を撫で下ろした。