shot.2 I am The HERO!
ふたりの様子が緊迫感を増すほどに周囲にはぞろぞろとひとの影が増えていく。人混みに揉まれながら、アンヌは不安げにグルートたちの様子を見ていた。
噴水に頭から突っ込み、びしょ濡れになったブレイヴは髪を振り回し、水滴を飛び散らせながら、グルートを睨みつける。
「てめェ、……よくもやりやがったなァ!」
敵意を剥き出しにし、ブレイヴはグルートに向かって飛びかかる。刹那、青いオーラが彼の右手に纏わりつくように浮かび上がった。それはまるで獣の爪のように鋭く、尖る。
「ドラゴンクローォ!」
先ほどのただの拳とは違うポケモンの技。強烈なパワーの塊に風塵が巻き起こり、ひとびとは小さな悲鳴を上げながら、咄嗟に顔を覆う。しかし、去ろうとするものはおらず、皆、彼の覇気に見入っていた。
(グルートっ!)
あの凄まじい力を受けてグルートは無事で居られるのだろうか。アンヌは気が気でなく、思わず叫び声を上げそうになる。けれど渦中のグルートはこんな中でも余裕を見せ、笑っていた。
「忠告したはずだぜ。隙だらけだってよ。」
「ッ!?」
ブレイヴの「ドラゴンクロー」がグルートを貫くと思いきや、二人の間には透明な壁が現出し、彼の放ったパワーはその壁に弾かれるように消え失せる。――ブレイヴの攻撃を予感していたグルートは彼が技を繰り出すより先に既に「守る」を発動し、守りの体勢をとっていたのだ。
「バトルってのは常に相手の動きを予想してなきゃならねぇ。……幾ら強い力を持ってようが、無闇に攻撃技を繰り出すだけじゃ俺には勝てねぇぜ。」
そしてグルートは「イカサマ」を繰り出し、ブレイヴの腹に叩き込む。「イカサマ」は相手の攻撃力を利用し、ダメージ与える技だ。高い攻撃力を持っているブレイヴには効果覿面だった。はたまた彼は吹き飛ばされ、仲間のバンダナの青年と同じく植え込みに体を強打することになった。彗星のような速さで、勢いよく真横を通り抜けたブレイヴに意識を失っていたバンダナの青年も慌てて飛び起きた。
「あ、アニキぃ!?」
呻きながら近くに倒れるブレイヴの姿にバンダナの青年は狼狽え、横たわる彼の体を何度も揺さぶった。……余程動転しているらしく、揺さぶられるたびにブレイヴが益々苦しそうな顔になっていることには気がついていないらしい。
「そ、そんな嘘だろッ!?今まで一度も喧嘩に負けたことがないアニキが負けるなんてッ……!」
悠々と煙草を吸い始めたグルートと変わり果てたブレイヴの姿を比較し、状況を理解し始めたバンダナの青年は涙目になりながらショックを露わする。
勝負は決したとその場にいる誰もが思った時、僅かにブレイヴの指先がぴくり、と動いた。
「バカヤロイ!!!」
「ごふッ!?」
起き上がりついでにブレイヴは、自分の顔を覗き込んでいたバンダナの青年の顔面に、思いっきり頭突きをする。一瞬、何が起こったのかわからず周囲のひとびともバンダナの青年も硬直した。
「オレ様はまだ負けてねェぜ、ロイ!」
「あ……アニキ…!」
顔面衝突により溢れ出た鼻血を手で押えながら、ロイと呼ばれた青年はブレイヴを見る。殴られ、頭突きをされたというのにロイは彼の言葉に瞳を輝かせ、大きく頷いた。
「うおおおお!――ドラゴンテールッ!」
口の端から溢れる血を拭うこともせず、再びブレイヴはグルートを目掛けて一直線に走り出す。忠告したにもかかわらず、戦法を変えない彼の姿にグルートは呆れたように煙草の煙を吐き出した。
「お前ひとの話、聞いてたか?攻撃だけじゃ――。」
「うるせェ!」
「……あ?」
「オレ様は漢らしく攻撃ONIYだぜッ!てめェみたくズルい真似はしねェンだよ、クソ犬!」
「!」
勢いをつけ大きく飛び跳ねた後、空中で回転し、ブレイヴは足を振り下ろす。難なくグルートは攻撃を受け止めたが、予想以上の力の重圧に虚を突かれ、膝をつく。体勢を立て直す為にすぐさま数歩後ろに下がり、ブレイヴから距離をとった。
「……フッ、阿呆にしてはやるじゃねぇか。」
予想外の力を見せられたというのに、グルートは慌てるどころか嬉しそうに口元を歪める。どうやらブレイヴというこの青年、頭は悪いがビックマウスなだけあってそこら辺のゴロツキとは少し違うらしい。ストリートファイトで金を稼ぎ、様々な相手とバトルしてきた経験のあるグルートにはそれがわかった。
「余裕ブッこいてられンのも、今のうちだぜ!」
久々に骨のありそうな相手とのバトルにブレイヴもまた高揚していた。威嚇しつつも、嬉々とした声を上げ、間髪を入れず「ドラゴンクロー」を繰り出す。
(――だが。まだまだ、だな。)
向かってくるブレイヴの攻撃を前にしてもグルートに避ける気配はない。……否、まるでブレイヴの攻撃を待つようにその場にじっと佇んでいる。すっかり頭に血が上っているブレイヴはその違和感にも気がつくことなく、己の勝利を確信していた。
鬼気迫る景色にギャラリーも息を呑む。アンヌは見ていられなくなり、目を瞑り、両手で顔を覆う。
「やった!アニキの勝ちだ!」
鋭いドラゴンの爪がグルートの肩から胸にかけて弧を描く。ブレイヴの逆転勝利。――そう思われた矢先、グルートの体がブレイヴの繰り出した「ドラゴンクロー」をすり抜けるようにして動く。
驚きの声を溢す間もなかった。視線が交錯し、激しく燃える赤い目にブレイヴは一瞬、竦んだ。その僅かな隙をグルートは見逃さず力を籠めた拳でブレイヴの頬を殴った。頬を抉る鈍い痛みに何が起こったのかわからないまま、ブレイヴは地面に叩き付けられ、そのままノックダウンした。
見事な「カウンター」攻撃に歓声と割れんばかりの拍手が沸き起こる。盛り上がる人々の声にアンヌも恐る恐る目を開く。
「グルート!」
野次馬の群れを掻き分け、アンヌは勝利した彼に駆け寄る。安堵から泣き出しそうなアンヌの顔を見てグルートは意地悪く笑い、抱き着く彼女の髪をぐしゃぐしゃに撫でた。
……その後、ひゅーひゅーと煽る口笛に気づいてアンヌが赤面することになったのは言うまでもない。
噴水に頭から突っ込み、びしょ濡れになったブレイヴは髪を振り回し、水滴を飛び散らせながら、グルートを睨みつける。
「てめェ、……よくもやりやがったなァ!」
敵意を剥き出しにし、ブレイヴはグルートに向かって飛びかかる。刹那、青いオーラが彼の右手に纏わりつくように浮かび上がった。それはまるで獣の爪のように鋭く、尖る。
「ドラゴンクローォ!」
先ほどのただの拳とは違うポケモンの技。強烈なパワーの塊に風塵が巻き起こり、ひとびとは小さな悲鳴を上げながら、咄嗟に顔を覆う。しかし、去ろうとするものはおらず、皆、彼の覇気に見入っていた。
(グルートっ!)
あの凄まじい力を受けてグルートは無事で居られるのだろうか。アンヌは気が気でなく、思わず叫び声を上げそうになる。けれど渦中のグルートはこんな中でも余裕を見せ、笑っていた。
「忠告したはずだぜ。隙だらけだってよ。」
「ッ!?」
ブレイヴの「ドラゴンクロー」がグルートを貫くと思いきや、二人の間には透明な壁が現出し、彼の放ったパワーはその壁に弾かれるように消え失せる。――ブレイヴの攻撃を予感していたグルートは彼が技を繰り出すより先に既に「守る」を発動し、守りの体勢をとっていたのだ。
「バトルってのは常に相手の動きを予想してなきゃならねぇ。……幾ら強い力を持ってようが、無闇に攻撃技を繰り出すだけじゃ俺には勝てねぇぜ。」
そしてグルートは「イカサマ」を繰り出し、ブレイヴの腹に叩き込む。「イカサマ」は相手の攻撃力を利用し、ダメージ与える技だ。高い攻撃力を持っているブレイヴには効果覿面だった。はたまた彼は吹き飛ばされ、仲間のバンダナの青年と同じく植え込みに体を強打することになった。彗星のような速さで、勢いよく真横を通り抜けたブレイヴに意識を失っていたバンダナの青年も慌てて飛び起きた。
「あ、アニキぃ!?」
呻きながら近くに倒れるブレイヴの姿にバンダナの青年は狼狽え、横たわる彼の体を何度も揺さぶった。……余程動転しているらしく、揺さぶられるたびにブレイヴが益々苦しそうな顔になっていることには気がついていないらしい。
「そ、そんな嘘だろッ!?今まで一度も喧嘩に負けたことがないアニキが負けるなんてッ……!」
悠々と煙草を吸い始めたグルートと変わり果てたブレイヴの姿を比較し、状況を理解し始めたバンダナの青年は涙目になりながらショックを露わする。
勝負は決したとその場にいる誰もが思った時、僅かにブレイヴの指先がぴくり、と動いた。
「バカヤロイ!!!」
「ごふッ!?」
起き上がりついでにブレイヴは、自分の顔を覗き込んでいたバンダナの青年の顔面に、思いっきり頭突きをする。一瞬、何が起こったのかわからず周囲のひとびともバンダナの青年も硬直した。
「オレ様はまだ負けてねェぜ、ロイ!」
「あ……アニキ…!」
顔面衝突により溢れ出た鼻血を手で押えながら、ロイと呼ばれた青年はブレイヴを見る。殴られ、頭突きをされたというのにロイは彼の言葉に瞳を輝かせ、大きく頷いた。
「うおおおお!――ドラゴンテールッ!」
口の端から溢れる血を拭うこともせず、再びブレイヴはグルートを目掛けて一直線に走り出す。忠告したにもかかわらず、戦法を変えない彼の姿にグルートは呆れたように煙草の煙を吐き出した。
「お前ひとの話、聞いてたか?攻撃だけじゃ――。」
「うるせェ!」
「……あ?」
「オレ様は漢らしく攻撃ONIYだぜッ!てめェみたくズルい真似はしねェンだよ、クソ犬!」
「!」
勢いをつけ大きく飛び跳ねた後、空中で回転し、ブレイヴは足を振り下ろす。難なくグルートは攻撃を受け止めたが、予想以上の力の重圧に虚を突かれ、膝をつく。体勢を立て直す為にすぐさま数歩後ろに下がり、ブレイヴから距離をとった。
「……フッ、阿呆にしてはやるじゃねぇか。」
予想外の力を見せられたというのに、グルートは慌てるどころか嬉しそうに口元を歪める。どうやらブレイヴというこの青年、頭は悪いがビックマウスなだけあってそこら辺のゴロツキとは少し違うらしい。ストリートファイトで金を稼ぎ、様々な相手とバトルしてきた経験のあるグルートにはそれがわかった。
「余裕ブッこいてられンのも、今のうちだぜ!」
久々に骨のありそうな相手とのバトルにブレイヴもまた高揚していた。威嚇しつつも、嬉々とした声を上げ、間髪を入れず「ドラゴンクロー」を繰り出す。
(――だが。まだまだ、だな。)
向かってくるブレイヴの攻撃を前にしてもグルートに避ける気配はない。……否、まるでブレイヴの攻撃を待つようにその場にじっと佇んでいる。すっかり頭に血が上っているブレイヴはその違和感にも気がつくことなく、己の勝利を確信していた。
鬼気迫る景色にギャラリーも息を呑む。アンヌは見ていられなくなり、目を瞑り、両手で顔を覆う。
「やった!アニキの勝ちだ!」
鋭いドラゴンの爪がグルートの肩から胸にかけて弧を描く。ブレイヴの逆転勝利。――そう思われた矢先、グルートの体がブレイヴの繰り出した「ドラゴンクロー」をすり抜けるようにして動く。
驚きの声を溢す間もなかった。視線が交錯し、激しく燃える赤い目にブレイヴは一瞬、竦んだ。その僅かな隙をグルートは見逃さず力を籠めた拳でブレイヴの頬を殴った。頬を抉る鈍い痛みに何が起こったのかわからないまま、ブレイヴは地面に叩き付けられ、そのままノックダウンした。
見事な「カウンター」攻撃に歓声と割れんばかりの拍手が沸き起こる。盛り上がる人々の声にアンヌも恐る恐る目を開く。
「グルート!」
野次馬の群れを掻き分け、アンヌは勝利した彼に駆け寄る。安堵から泣き出しそうなアンヌの顔を見てグルートは意地悪く笑い、抱き着く彼女の髪をぐしゃぐしゃに撫でた。
……その後、ひゅーひゅーと煽る口笛に気づいてアンヌが赤面することになったのは言うまでもない。