shot.17 開幕!PWT!

 モヒカンの髪をゆらゆらと揺らしながら姿を現したバッドは、荒い息を吐きながらフィールドに立っていた。全身の筋肉が隆起して、二の腕は血管が浮き上がるほどパンパンに張り詰めている。

「ウゥ……ウウ……。」

 唸り声をあげて、相手チームのガオガエンを睨みつける。その姿はポケモンというよりは獣に近かった。

「蛇睨みだ。」

 タスクはバッドに命令を下す。相手が麻痺をしてその場から動けなくなったところに“ステルスロック”を撒く。起点を作ったところで、“ドラゴンテール”を繰り出し、攻めに転じる。

「なンか…いつものヤツの戦い方と違うぜ……。」

 バッドの様子に違和感を覚えたのはアンヌだけではなかった。直に拳を交えたことのあるブレイヴだからこそ、わかる戦い方の違い。以前のバッドはパワーだけで相手を捻り潰すようなシンプルなスタイルだった。それが今は補助技を使いながら相手を追い詰めて、着実に仕留める堅実な戦い方に変化していた。その上、一打の重みは増していて、彼が一撃を放つ度に轟音が会場に響き渡る。

 動けない相手に向かってバッドは足蹴を繰り返す。対戦相手はすでに気絶しており、勝敗は決しているように見えたが、彼は一心不乱に攻撃を続けていた。

「やった…!僕の勝ちだ。僕の作ったポケモンが勝った!」

 執拗なバッドの攻撃には目もくれず、タスクは勝利に歓喜していた。会場が騒めく。審判に止められるまでバッドは攻撃をやめなかった。
 知り合いのタスクが勝ったことは喜ばしいこと…のはずなのだが、まるで操られている人形のようなバッドの姿と、タスクの態度にアンヌは胸騒ぎがした。

◇◆◇◆◇


 数時間前――。

 試合開始までの間、タスク達はトレーニングルームに集まっていた。
 バッド、ガイル、ディアナ。三人の前に立ち、タスクはカバンから取り出した葉っぱを彼らに手渡した。

「何のつもりだァ?」

 バッドは怪訝そうな顔をする。

「勝つために必要なことだよ。」

 タスクは涼しい顔をして平然と言い放つ。至極当たり前といった様子で。

「そ…それはミント…。ポケモンの能力の性質を変える力があるとか……イッシュじゃ出回ってない……。」
「その通りだよ。これを使えば以前より、間違いなくパワーが発揮できるよ。」
「ん〜〜でもぉ、そんなことして大丈夫なの〜〜?」
「大丈夫。大会の禁止事項には入ってなかったし、スタッフさんにも確認したから。」

 勝つためには。タスクはもう一度繰り返す。
 人間の言うことに従うのはいい気はしなかったが、かつてブレイヴに大負けしたことを思い出して踏みとどまる。マリーを人質に取っても勝つことができなかったあの屈辱を思い出すと、今でも腸が煮え繰り返りそうだ。

「……本当にアイツをブチのめせるのか?」
「勝率は高いよ。彼らが残ってくれるかはわからないけれど――。」

 ブレイヴへの憎しみを激らせるとタスクのいうことに従うのも悪くないように思われた。――いや、従うのではない。利用してやるのだと考えて。最高の彼女を手にして、忌み嫌う奴もぶっ潰せる。
 タスクから奪い取るようにミントをもぎ取り、バッドは口の中に突っ込んだ。苦い味が広がる。次の瞬間、体の芯から熱っぽくなり、じわじわと力が漲ってくる感覚が沸き起こる。

「ウゥゥゥ……!!!」
「ちょ…本当に大丈夫なのか…これ……。」
「ウォオオオオオオーーー!!!」

 バッドは咆哮を上げながら、壁に向かって頭を打ちつけた。その一打で壁にヒビが入る。
 ガンガンと頭を打ちつけ続け、明らかに正気ではない状態に、ガイルとディアナはギョッと目を丸くさせる。

「さて、君達も飲み込んで。……大丈夫、僕が最強のポケモンにしてあげるから。」
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