shot.12 金の楔
静寂と緊張が辺りに張り詰める。少しでも不審な動きを見せれば、ギルバートの言うように蜂の巣になるのは明らかだった。
ブレイヴとジェト、グルート自身を守る為には金を受け取るしかないーーそんな圧力が空間に満ちていた。
「駄目…だ。…そんなやつの…言うこと……聞いちゃ…!」
言葉を絞り出すように、ジェトが声を荒げた。彼は自由の効かない体で、必死にもがいている。
ブレイヴも顔を上げて、敵を睨んだ。その目にまだ諦めの色はない。ギラつき、闘志に満ちていた。
「ジェトの言う通りだぜ……っ、こんな縄すぐに解いてやっからよ…!てめェは…その目の前のクソ野郎をブッ飛ばせ!」
「お前ら……。」
「ははっ、威勢が良いですね。」
抵抗するふたりを見て、ギルバートは目を細めて笑った。ーーだが、それも束の間。彼は拳銃を取り出し、引き金を引いた。バンっ、という耳を劈く銃声がホールに響いた。
放たれた銃弾はジェトとブレイヴ、ふたりの目の前に落ちた。
「……だが、身の程というものを弁えた方がいい。俺の気分次第であんた達は死ぬんだからな。」
まるで人格が変わったように、ギルバートはにこやかな顔つきから冷淡な無表情へと変貌する。
空間が凍りついた。次は外さないと言いたげだ。
◇◆◇◆◇
グルートはギルバートを見据えながら、自由の効かない足を引きずり、一歩前に出た。
彼が向かっていたのは、ギルバートとの中間地点に置かれたアタッシュケースの方だった。
「て、てめェ!正気かッ!?」
ブレイヴがグルートを引き止めようと声を上げるが、彼は既に札束を手にしていた。
「アンヌを見捨てる気なのかよッ!?おいコラ、聞いてンのかッ!?」
「……。」
「誰か、そいつを黙らせろ。」
沈黙するグルートの横で、ギルバートが命じると、ブレイヴを押さえていた黒服の男が抵抗する彼の腹を拳で殴りつける。急所を突かれ、彼は痛みに悶え、声を失った。
「ぐぁ……ッ!」
「ブレイヴッ!」
痛々しくのたうち回るブレイヴの姿に、思わずジェトは目を伏せた。黒服達はやはり、無表情でふたりを見下していた。
「賢明な判断ですよ、グルートさん。存外、話のわかる方で安心しました。」
グルートはアタッシュケースを漁り、札束を両手一杯に握りしめた。その姿に、ギルバートは薄ら笑みを浮かべる。
……例えどんなに善人に見える者でも金の誘惑には勝てない。目の前に実物で大金を出されると、いとも簡単に落ちる。それはギルバートがビジネスの駆け引きで嫌というほど見てきた光景だった。
「……こいつらは、てめぇのチンケな脅しに屈するようなやつらじゃねぇ……。」
「は?」
この男も同じだ、とーーだが、次の瞬間。それがギルバートの“誤算”であったと思い知らされることになる。
ぐしゃりと、グルートが手の内にある札束を握りしめると、纏めていた帯が焼け落ちた。それを皮切りに、彼の手からバラけた札が飛び散る。飛び散った札の一枚一枚に火が付き、それは瞬く間に無数の火の粉となって周囲に降り注いだ。
「よく燃える金だな?……燃料にぴったりだ。」
グルートは溢れる血も気に留めず、ニヤリと口角を吊り上げて笑っていた。ギルバートは一瞬、呆気に取られたが、すぐにグルートを見据えて、険しく眉を寄せる。
「……貴様……。」
無表情だった黒服達にも僅かに焦りの色が見えた。降りかかる火の粉を振り払おうとするが、衣服に燃え移り、地面に転がり込む。
「ン……?なンか、熱……。」
地に伏していたブレイヴが、焼け焦げたような臭いに気づいて目を覚ます。
「ブレイヴ……あたま……。」
「あン?」
「燃えてる。」
ジェトが指摘して、漸くブレイヴは自身の頭がじりじりと燃えていることに気がついた。
「ギャアアアァア!!!!」
ブレイヴは絶叫したが、縄で自由を奪われている手前、転げ回ることしかできない。ーーと、彼の自由を奪っていた縄の上にも火の粉が掛かる。縄が焼けて、強度が弱くなり、軽く力を入れると拘束から解放された。
慌てて、ブレイヴは両手で頭の火の粉を払う。多少は熱かったが、ドラゴンタイプだからなのか素手で火に触れても火傷はしなかった。
……しかし、後頭部がちりちりになった感触があり、ブレイヴはショックを受ける。どうやら彼にはそちらの方がダメージが大きかったらしい。
「オレ様のBEAUTIFULなHAIRがァアア!!!」
「……仕方ない……助かっただけ……よかった。」
「けどよォ!もうちょっとやり方あンだろッ!チクショー、クソ犬の野郎……ッ、やりやがって!」
悪態をつきながらも、ブレイヴの声色はどこか温かいものだった。一瞬、ヒヤッとさせられたが、アンヌを見捨てずに、仲間を信じて戦うことを選んだグルートの決心が嬉しかったのだ。
「催眠術……っ!」
ブレイヴと同じように縄が解けたジェトは、瞬時に技を繰り出し、火に気を取られていた黒服達を眠りに落とす。その後、ゆめくいを発動して、眠った敵から体力エネルギーを吸収した。回復し、苦しげだったジェトの顔が少し和らいだ。
「グルートなら……アンヌを見捨てたりしないって……信じてた…から。」
「お、オレ様だってわかってたぜ!?あーッ!ちょっと休ンだから気分爽快だぜッ!!」
「……嘘くさい……。」
「HAHA……まァ、細けェことはいいじゃねェかッ!」
ジッと、ジェトから疑いの眼差しを向けられてブレイヴは動揺した。歯を見せて笑い、気まずい雰囲気を強引に押し除けた。
「結果良ければ全てヨシッってコトでよ!逆転サヨナラHOME RUNぶちかましてやるぜッ!」
ブレイヴは力強く、拳を突き合わせる。調子のいい、いつもの彼にジェトはふっと頬を緩ませて、頷いた。
ブレイヴとジェト、グルート自身を守る為には金を受け取るしかないーーそんな圧力が空間に満ちていた。
「駄目…だ。…そんなやつの…言うこと……聞いちゃ…!」
言葉を絞り出すように、ジェトが声を荒げた。彼は自由の効かない体で、必死にもがいている。
ブレイヴも顔を上げて、敵を睨んだ。その目にまだ諦めの色はない。ギラつき、闘志に満ちていた。
「ジェトの言う通りだぜ……っ、こんな縄すぐに解いてやっからよ…!てめェは…その目の前のクソ野郎をブッ飛ばせ!」
「お前ら……。」
「ははっ、威勢が良いですね。」
抵抗するふたりを見て、ギルバートは目を細めて笑った。ーーだが、それも束の間。彼は拳銃を取り出し、引き金を引いた。バンっ、という耳を劈く銃声がホールに響いた。
放たれた銃弾はジェトとブレイヴ、ふたりの目の前に落ちた。
「……だが、身の程というものを弁えた方がいい。俺の気分次第であんた達は死ぬんだからな。」
まるで人格が変わったように、ギルバートはにこやかな顔つきから冷淡な無表情へと変貌する。
空間が凍りついた。次は外さないと言いたげだ。
グルートはギルバートを見据えながら、自由の効かない足を引きずり、一歩前に出た。
彼が向かっていたのは、ギルバートとの中間地点に置かれたアタッシュケースの方だった。
「て、てめェ!正気かッ!?」
ブレイヴがグルートを引き止めようと声を上げるが、彼は既に札束を手にしていた。
「アンヌを見捨てる気なのかよッ!?おいコラ、聞いてンのかッ!?」
「……。」
「誰か、そいつを黙らせろ。」
沈黙するグルートの横で、ギルバートが命じると、ブレイヴを押さえていた黒服の男が抵抗する彼の腹を拳で殴りつける。急所を突かれ、彼は痛みに悶え、声を失った。
「ぐぁ……ッ!」
「ブレイヴッ!」
痛々しくのたうち回るブレイヴの姿に、思わずジェトは目を伏せた。黒服達はやはり、無表情でふたりを見下していた。
「賢明な判断ですよ、グルートさん。存外、話のわかる方で安心しました。」
グルートはアタッシュケースを漁り、札束を両手一杯に握りしめた。その姿に、ギルバートは薄ら笑みを浮かべる。
……例えどんなに善人に見える者でも金の誘惑には勝てない。目の前に実物で大金を出されると、いとも簡単に落ちる。それはギルバートがビジネスの駆け引きで嫌というほど見てきた光景だった。
「……こいつらは、てめぇのチンケな脅しに屈するようなやつらじゃねぇ……。」
「は?」
この男も同じだ、とーーだが、次の瞬間。それがギルバートの“誤算”であったと思い知らされることになる。
ぐしゃりと、グルートが手の内にある札束を握りしめると、纏めていた帯が焼け落ちた。それを皮切りに、彼の手からバラけた札が飛び散る。飛び散った札の一枚一枚に火が付き、それは瞬く間に無数の火の粉となって周囲に降り注いだ。
「よく燃える金だな?……燃料にぴったりだ。」
グルートは溢れる血も気に留めず、ニヤリと口角を吊り上げて笑っていた。ギルバートは一瞬、呆気に取られたが、すぐにグルートを見据えて、険しく眉を寄せる。
「……貴様……。」
無表情だった黒服達にも僅かに焦りの色が見えた。降りかかる火の粉を振り払おうとするが、衣服に燃え移り、地面に転がり込む。
「ン……?なンか、熱……。」
地に伏していたブレイヴが、焼け焦げたような臭いに気づいて目を覚ます。
「ブレイヴ……あたま……。」
「あン?」
「燃えてる。」
ジェトが指摘して、漸くブレイヴは自身の頭がじりじりと燃えていることに気がついた。
「ギャアアアァア!!!!」
ブレイヴは絶叫したが、縄で自由を奪われている手前、転げ回ることしかできない。ーーと、彼の自由を奪っていた縄の上にも火の粉が掛かる。縄が焼けて、強度が弱くなり、軽く力を入れると拘束から解放された。
慌てて、ブレイヴは両手で頭の火の粉を払う。多少は熱かったが、ドラゴンタイプだからなのか素手で火に触れても火傷はしなかった。
……しかし、後頭部がちりちりになった感触があり、ブレイヴはショックを受ける。どうやら彼にはそちらの方がダメージが大きかったらしい。
「オレ様のBEAUTIFULなHAIRがァアア!!!」
「……仕方ない……助かっただけ……よかった。」
「けどよォ!もうちょっとやり方あンだろッ!チクショー、クソ犬の野郎……ッ、やりやがって!」
悪態をつきながらも、ブレイヴの声色はどこか温かいものだった。一瞬、ヒヤッとさせられたが、アンヌを見捨てずに、仲間を信じて戦うことを選んだグルートの決心が嬉しかったのだ。
「催眠術……っ!」
ブレイヴと同じように縄が解けたジェトは、瞬時に技を繰り出し、火に気を取られていた黒服達を眠りに落とす。その後、ゆめくいを発動して、眠った敵から体力エネルギーを吸収した。回復し、苦しげだったジェトの顔が少し和らいだ。
「グルートなら……アンヌを見捨てたりしないって……信じてた…から。」
「お、オレ様だってわかってたぜ!?あーッ!ちょっと休ンだから気分爽快だぜッ!!」
「……嘘くさい……。」
「HAHA……まァ、細けェことはいいじゃねェかッ!」
ジッと、ジェトから疑いの眼差しを向けられてブレイヴは動揺した。歯を見せて笑い、気まずい雰囲気を強引に押し除けた。
「結果良ければ全てヨシッってコトでよ!逆転サヨナラHOME RUNぶちかましてやるぜッ!」
ブレイヴは力強く、拳を突き合わせる。調子のいい、いつもの彼にジェトはふっと頬を緩ませて、頷いた。