shot.12 金の楔

 数人の追手を振り払いながら、グルートは16番道路の並木道を駆ける。悪の波動を打ち、追尾してくる攻撃を打ち消すが、相殺しきれなかった毒針が頬を掠める。

 ーー奴らの相手をしている暇は無い。託してくれたジェトの為にも一刻も早く、彼女の元に辿り着かなければ。

「邪魔すんじゃねぇ!」

 焦りから苛立ちを含んだその叫びは、怒号により相手を怯ませダメージを与える、“バークアウト”となり、追手達の体を宙に吹き飛ばした。


(……無事でいてくれ…っ!アンヌ!)

 グルートは敵を振り切り、彼女を最後に見たミュージカルホールに向かって、祈るような気持ちで走る。



 敵は人目につくのを嫌っているのかーー街中に入ると追手の姿は見えなくなったが、グルートの焦燥感は増すばかり。人の流れに逆らうように雑踏をかき分け、道を切り開く。すれ違う人が驚いたように目を丸くさせるが、彼の物々しい雰囲気に気圧され、誰もが息を呑んだ。


◇◆◇◆◇


 ミュージカルホールの扉を蹴破るように開け、ロビーに駆け込む。先程まで、アンヌを目当てに人がごった返していたが、今は落ち着きを取り戻し、スーツを着たホールのスタッフだけがそこにいた。大きな音を立てながら開いた扉に皆驚き、視線は一斉にグルートに集まった。

「あの、お客様?本日の公演は全て終了致しましたので……。」

 不審な眼差しを向けるスタッフを意に介さず、グルートは忙しなく視線を動かす。

 が、やはりアンヌの姿は見当たらない。微弱に感じるヘルガナイトの気配は近いのだが、強い力に遮られている。それが靄のように被さり、正確な位置がわからなかった。


「おい、あいつはーーカレンって名前の、舞台に出てたガキはどこにいる!?」
「も、申し訳ありませんが、お客様が役者に直接会うことはできません!」
「俺はあいつの知り合いだ。つべこべ言わず、早く教えやがれ!こっちには時間がねぇんだよ!」
「ひぃいっ!」

 グルートはスタッフの胸ぐらを掴み、睨みを効かせながら詰め寄る。
 騒ぎを聞きつけた警備員が、ぞろぞろと近づいてくる足音がした。


「……あら、グルートちゃん?」

 頭に血が上っていたグルートだったが、自身の名を呼ぶ声に一時、落ち着きを取り戻す。振り返ると彼もよく知る、サイルーンが立っていた。マスコミの相手を終えた彼女は、少し疲れたような顔をしていた。

「何の騒ぎ?」
「そ、それが…この方がカレンさんに会わせろと、強引に……!」
「うーん。上手く情報が伝わってなかったのかしら。このひとは彼女のお知り合いよ。後は私に任せて頂戴。」

 物々しい雰囲気に動じることなく、サイルーンはスタッフと駆けつけた警備員を一声で下がらせる。


 スタッフから距離を置きながら、彼女は息を潜めて、グルートの耳元に口を近づけた。

「ごめんなさいね。……でも、あなたもちょっと強引すぎじゃあない?何かあったの?」
「あいつが危ないんだ…っ!姐さん、アンヌの奴がどこに行ったのか、知らねぇか。」
「アンヌちゃん?彼女なら楽屋だと思うけれど……。」

 詳しい状況はわからなかったが、ただならぬグルートの様子に、サイルーンもにこやかだった表情を引き締めた。


「……案内するわ。アタシに着いてきて。」


 サイルーンの申し出にグルートは頷き、先導する彼女の後につく。カッカッと地を蹴る足音が耳障りなほどに大きく響いた。
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