ハッピー・ハロウィン?〜持ち込んでみたその結果〜

「本当にお疲れ様でした」

周囲に「一番働いたのだから早く休むように」と言われ、一足先にホテルに戻った彼女は、彼女の膝の上に頭を乗せてうとうととしているサーナイトに労いの言葉をかけた。

ラルトスであった時代のように、彼女の膝に身体を乗せて寝る事はできないとサーナイトも流石に学習しているが、甘えん坊な所は変わらない。彼女に「休むならモンスターボールに戻りなさい」と言われ、サーナイトは素直に従う。

ふと、エントランスの空気が動いたと彼女は感じた。仲間達も帰ってきたのかと視線を巡らせる。

「邪魔するで」

違った。扉を潜ってきたのはカラスバであった。ロビーのソファに座る彼女にカラスバは「お疲れさん。『ハロウィン』の実行委員はん」と、片手を軽く挙げる。そのまま当たり前のように彼女の隣に腰を下ろした。

「随分とおもろい事しとるやないか。オレに声をかけてくれへんとか、つれないなあ」
「カラスバさんたら、『13番目の魔法使い』みたいな事を言わないで下さいよ」
「何やそれ?」

類似の話は存在するかもしれないと思いつつ、彼女は解説を入れる事にした。

「故郷の童話に登場する、1人だけお祝いの席に呼ばれなかった魔法使いの事です。理由は『専用の食器が足りなかった』とか、魔法使いの人数にしても、4番目だったとか8番目だったとか、話によって諸説ありますけど、大体の童話では『13番目』として描かれているんですよ」

賢明なる読者諸兄は、グリム童話を始めとするヨーロッパの童話が該当するとおわかりだろう。有名さにおいては筆頭と言える『いばら姫』然り、内容が似た話はヨーロッパ各地に存在する。

カラスバは、ふんふんと頷きながら片手で顎を撫でた。

「そないな話はガキの頃に聞いた事がある気ぃするな。仲間外れっちゅう事か」
「皆は悪意を持ってサビ組を仲間外れにしたとかじゃないですよ」

やはり、完全に同じではなくとも、類似する童話は存在するらしい。

彼女は口調こそ優しく返すが、地域のイベントだからこそ、流石に極道者に声をかける事など論外だと、内心では思っていた。実際、故国では該当する事例があって、大問題になったと彼女は知っている。彼女が生まれるよりも遥か前の時代の出来事だが。

カラスバは、とびきりの悪戯でも思い付いたかのような笑顔を見せた。尤も、子供が見たら泣き出すような凄みのある顔であったが。

「何やったっけ?『トリック・オア・トリート』?オレもやってええか?」
「どうぞ」

彼女は可愛くラッピングがされたクッキーの小袋を渡した。この日の為に腕によりをかけたパティシエ・パティシエール達が「立案者の貴方にも是非!」と、彼女に渡してくれたのだ。虚をつかれたような表情をカラスバは見せたが、クッキーは素直に受け取る。

「自分は仮装とかせえへんの?」
「私はあくまで実行委員。楽しむ側じゃありませんから」

唐突に問われてありのままを答えると、カラスバは「ホンマにそれでええんか?」と、何やら意味ありげな問いかけを重ねてくる。

「ゴーストに攫われんように仮装をするんやろ?」
「そうですよ。相変わらずお耳が早いですね」

クッキーの袋をスーツのポケットにしまったカラスバは、彼女に向き直った。

「悪い奴に攫われても知らへんで?祭りの日は、神隠しが起こっても不思議やないからなあ?」

言いながら、カラスバは彼女に手を伸ばした。

「悪霊退散!!」
「誰が悪霊や」

何処かでもらってきたのだろう。海賊の仮装のガイが、バルーンアートで作られた剣を思い切り振り下ろした。

修羅場に慣れているだけはあり、カラスバはガイの一撃を軽い動作でかわすと共に、ソファから立ち上がって追撃を逃れる。ガイの渾身の斬撃は、見事に空を切った。

しかしガイは彼女を背に庇う形で立って、なおも風船の剣を向け「悪霊退散!悪霊退散!」と叫んだ。

「大丈夫ですか!?」
「何もされてない!?」

吸血鬼の仮装のピュールと、人狼の仮装のデウロも大慌てで彼女に駆け寄った。両名とも片手にそれぞれモンスターボールを持っている。交戦も辞さない構えだ。騒ぎに気付いたAZとフラエッテも階上より降りてくる姿を認め、カラスバは両手を軽く掲げた。

「おーおー。こないに怖がられるなんて、オレも嫌われたもんやなあ。傷付くわあ」

傷付いたようになど、全く見えない微笑である。笑みは絶やさぬまま、カラスバは器用に肩を竦めた。

「オレの稼業は嫌われてナンボやけど。邪魔も入った事やし、今日はお暇するで。また来るわ」
「二度と来るな!!」
「来なくていいから!!」
「来ないで下さい!!」

三者三様に叫ぶガイ達に「頼りになるナイト達やな」と、それはそれは挑発的な口調でカラスバは言って退館した。実にわかりやすい嫌味である。

AZとフラエッテには「気付く事が遅れて申し訳ない」と謝られた彼女であったが、謝らなくていいと両者を宥めた。

招かれざる客はあったものの、ミアレシティにおける初めてのハロウィンの夜は、何とか明けたのである。
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