ハッピー・ハロウィン?〜持ち込んでみたその結果〜

「はい!案の定出ました迷子!位置情報を共有しますので、迎えをお願いします!」

彼女はスマホロトムを素早く操作し、そのエリアを担当するハロウィン実行委員に、地図アプリの座標を送信した。仮装をした周りの実行委員達は「本当に大活躍だねえ」と、感心した顔を見せる。

そもそもの始まりは、ガイ達に雑談程度のつもりで話した事柄であった。

「『はろうぃん』って何?」

疑問符を上げるガイ達に、やはり存在しないのかと思いつつ、彼女は説明する事にした。

「お菓子と関連するイベントです。10月31日は、あの世の扉が開いてゴーストそして我々人間が言う所の、妖怪や妖精に精霊の類いも、この世に出てくる日だと言われています。人ならざる者達に攫われたりしないように、人間達もお化けみたいな格好をして、特に小さい子は夕方から夜にかけて、裕福な家だとかを巡って『トリック・オア・トリート』、つまり『お菓子をくれないと悪戯するぞ!』と言って練り歩くんですよ」

尤も、ゴーストやらフェアリーやらが『ポケモン』という形ですぐ隣にいるようなこの世界では、無関係な話かもしれないが。彼女はそう考えつつも、簡潔に話した。しかし仲間達は「へえ〜!」と目を輝かせる。

「面白そうなイベントだな!」
「秋の祭り…か。かつては民達も豊穣を祝う祭事を楽しんでいたものだ」

聞くでもなしに聞こえていたらしいAZが微笑んだ。彼女は「その通りです。豊穣を祝う儀式と習合をしていったと言われてもいます」と付け足す。

「それ、ミアレでもできないかな?」
「仮装という事は、特別な服を着るんでしょう?デザインのし甲斐がありそうです!」

言われて彼女は思考を巡らせる。ミアレシティ全体を巻き込むとまでは行かずとも、滞在するこのホテルの宣伝くらいにはなればいいかもしれない。世話になっているのだから、恩返しをしたい気持ちもある。となると、無論だがオーナーの許可も必要だ。

なお、この間はコンマ1秒である。

彼女は「AZさん」と呼びかけた。AZは静かに立ち上がり、優しい目で若者達を見下ろす。

「商工会に話をしよう」

結果として、ミアレシティ全体を巻き込むお祭り騒ぎに発展した。

観光の新たな目玉になるかもしれないと商工会が参加に名乗りを上げ、パティスリーの職人達は無論の事、ファッションデザイナー達も腕を奮うと言い出した。その『ハロウィン』の詳細を教えて欲しいと問われた彼女は、いわばハロウィン実行委員の1人にして、イベントの御意見番となったのである。

「何か、話が大きくなっていますね…。しかし、ここは『乗りかかった舟』。『言い出しっぺの法則』です。やりましょう」

彼女が持つ、カロス地方に生息していないゴーストポケモンやフェアリーポケモンの知識も役に立った。

例えば『お化け』や『魔女』を始めとする仮装及びお菓子のコンセプト、そしてモチーフにできそうなポケモン達の姿形を大まかに伝え、それを職人達が実際のデザインに落とし込むという具合だ。

ファッションデザイナーの卵であるピュールが燃えに燃えたのは言うまでもない。

「アイディアが!!未だかつてない程にアイディアが湧き上がってきます!!」
「ピュール君。ピュール君。休憩はきちんと取って下さいね」

製菓も縫製も、何より『子供達にお菓子を渡す場所です』と示す、店舗や家の軒先に吊るす目印のランタンの作成も、全てが突貫工事と言っていいスピードであった。しかし、間に合った。10月31日に初めてのハロウィンは無事に始まり、無事の終了と相成った。

「各エリアには実行委員の皆さんがスタンバイして下さっていますが、どんなに気を付けようと迷子は出ます!確実に出ます!エスパーポケモン達とスマホロトム・タブレットロトム達の位置情報把握の力を駆使して、迷子を速やかに保護しましょう!」

このように、バックアップを万全にしていたからでもある。

彼女の予想通りに迷子は出たが、主に彼女とサーナイトの息の合った連携、集ったロトム達の尽力で迷子はすぐに見付かり、大きなトラブルは発生しなかった。

何より、主役と言える子供達にも『いつもと違う格好ができて、お菓子をもらえる』という非日常性が非常に好評だった。
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