【皆さんに】レッツひとりかくれんぼ【実況中継】
69:上弦の零
始める時間も刻限も決まってる降霊術です。そろそろ午前3時ですから、時間も丁度いいですね。
やり方を簡潔に言うと、架空の相手を定めてかくれんぼを再現するんです。決まり事も細かくあって、例えば時刻は必ず午前3時から始めて、これまた必ず1時間から2時間で終わらせるようにとあるんです。
70:半天狗
架空の相手とは、どのような?
71:上弦の零
実践しながら説明しますね。
まず、ぬいぐるみという物を用意します。必ず手足がある物が必要です。
72:堕姫
ぬいぐるみ?布と綿で動物を作った物の事?熊とか兎とか。この前、客がアタシにって置いていったけど、邪魔ったらないわ。
73:上弦の零
話が逸れますが、お姫ちゃん。そのお客さんは可能な限り大事にして下さい。実物を見てはいませんが、恐らくそれはヨーロッパの『シュタイフ』さんという高級なぬいぐるみのメーカー…会社の製品です。
74:堕姫
え?そうなの?
75:上弦の零
あくまでも恐らくの範囲ですが。日本に現時点で進出しているぬいぐるみの会社は、『シュタイフ』さんだけのはずなので。つまり件のお客さんは、現時点ではあまり知られていないと言えど、珍しい上に質が良い物を選ぶ『目』を持っています。
76:堕姫
へえ。いい事を聞いたわ。ありがとね。
77:妓夫太郎
上客も上客って事か。零殿、続きを頼めるか?
78:上弦の零
妓夫太郎さん。軌道修正ありがとうございます。
ぬいぐるみを架空の相手とするにあたり、名付けが必要です。『たぬきち』にします。
79:猗窩座
たぬきち…?
80:鬼舞辻無惨
何故そのような名前なのだ。
81:玉壺
ええと。由来を訊いても?
82:黒死牟
確かに………狸を模っているように見えるが………。
83:上弦の零
『ひとりかくれんぼ』の手順の一つに、ぬいぐるみを水に沈めるとあるからです。尚且つ、私達は『ひとりかくれんぼ』に絶対に勝たないといけないというのもあります。ほら、現代の茨城県の民話の『かちかち山』では、悪い狸がうさぎどんに櫂で殴られて海に沈められているでしょ?つまり『絶対に沈んで敗北する存在』であるように名前を付けたんですよ。
84:累
『かちかち山』って、茨城県の話だったんだ。
85:童磨
確かに、茨城県だったら山があれば海もあるからね。
86:鬼舞辻無惨
『名付けの呪』か。名前は最も短い呪いだと言うからな…。
87:上弦の零
無惨様。仰る通りです。名付けは呪いにもなればおまじないにもなりますからね。
まあ、同じ『沈んで敗北する存在』として、『源平合戦』の平氏の名前を付けても良かったんですけど、それだとむしろ怨霊としての側面を得てパワーアップ…降ろした何者かが強化されてしまいそうでしたからね。現代でもなお鎮めないといけない一族な訳ですし。いや。『沈める』とかけているんじゃなくて。
88:鳴女
祇園精舎の鐘の声〜♪(琵琶を掻き鳴らす)
89:響凱
…零殿。仮にだが、平氏の名を付けるとしたら、どのような名を付けるおつもりだったのだ?
90:上弦の零
『安徳』か『時子』ですね。
91:鬼舞辻無惨
『安徳』は流石にやめておけ。
92:鳴女
『波の底にも都の候ぞ』…。(琵琶を掻き鳴らす)
93:上弦の零
そうですね。流石にやめましたよ。さっきも言った通り、ぬいぐるみに降りる存在が怨霊の力を得てしまいそうだったので。
94:鬼舞辻無惨
妻よ。その何が降りるかわからぬ降霊術など、本当にお前が執り行なうべきものか?
95:童磨
俺が頼んでおいてなんだけど、本当に大丈夫かい?
96:上弦の零
童磨さんは教祖様らしく、落ち着いてゆったり構えていて下さっていればいいんです。
97:黒死牟
しかし………私の剣で………斬れるだろうか………。
98:上弦の零
それに、無惨様。言いましたでしょ。人間達に恩を売る為だって。何より、我々鬼の事も『ひとりかくれんぼ』で降りてくる存在と同様の『怪異』と定義するなら、鬼は怪異としては上位存在なんですよ。ここにはその上位存在である鬼の中で、最高実力者たる黒死牟様がいらっしゃる訳ですから、それこそ無惨様レベル…無惨様と同等の実力を持つ存在でない限り、負ける事はまず無いです。もう一つ。仮に黒死牟様の刀で物理的に斬れない相手だとしても、矢琶羽さんの血鬼術が活躍するはずです。
99:矢琶羽
儂か!?
100:上弦の零
私が『一度目にした血鬼術なら使える』血鬼術持ちなのは知ってますよね?矢琶羽さんの血鬼術も使えますから、『紅潔の矢』でしたら、実体を持たない存在にも当てる事ができるんです。なので、もし斬れない相手である場合、黒死牟様と視界を共有しながら『紅潔の矢』で何処を斬ればいいかガイド…案内線を引く事で連携できますね。これでも、矢琶羽さんの血鬼術を頼りにしてるんですよ?
101:矢琶羽
零様…。
102:鬼舞辻無惨
しかしだな。妻よ。
103:上弦の零
更に一つ。『毒を以て毒を制す』じゃない上に、恐ろしく乱暴な言い方をしますけど、『化け物には化け物をぶつける』って話です。まあ『ひとりかくれんぼ』をやったら呪われるだの言いますけど、仮に呪いがあったとしても、鬼パワー…鬼の力で打ち消せるでしょ。呪いで人を傷付けるなんて、そもそもできませんけどね。
104:半天狗
ヒイッ!?の、呪い!?
105:玉壺
『ひとりかくれんぼ』をしただけで呪われると!?
106:鬼舞辻無惨
ますます危険ではないか!!
107:堕姫
逆にアンタは何でそんなに落ち着いてるのよ。
108:黒死牟
零殿………怖くないのか………?
109:上弦の零
呪いで人を殺める事はできない、つまり呪いと結果の因果を科学で証明できないからですよ。まあ、非科学的な要素の権化と言える、鬼のお前が言うなって話ですけど。だから、呪いなんて不確定なものを怖がる必要はありませんよ。なお、呪いを信じない事と、『名付けの呪』を始めとする呪術的な要素に頼る事は、決して矛盾していません。尤も、怖いと思う人はこの『場』から退去して構いませんけど。
110:朱紗丸
い、いいや。逃げぬぞ。
111:矢琶羽
右に同じだ。
112:響凱
零殿。小生など黒死牟様には到底及ばぬが、何かあればお救いしに行く。
113:累
僕達にできる事は無い?
114:上弦の零
応援してもらえると嬉しいですね。
115:魘夢
零様〜。頑張って下さ〜い。
116:鳴女
(勇壮な調子で琵琶を掻き鳴らす)
117:童磨
わあ!麗しい同胞愛だねえ!俺、感動し過ぎて涙が出てきちゃったよ。
118:猗窩座
嘘泣きに見えるんだが…。
119:上弦の零
猗窩座さん。そういう事を言わない。
皆、優しいですね。ありがとうございます。
話してる間にたぬきちの準備も整いました。中身の綿を全部出して、代わりに私の切った爪と生のお米を詰めて、赤い糸で縫い合わせました。生のお米とか勿体無いですけど、詰め込んで縫う辺りは丸ごとのチキン…鶏肉にお野菜や香草を詰めるお料理みたいですよね。
120:妓夫太郎
料理じゃなくて降霊術だろ。
121:猗窩座
緊張感が無いな。
122:堕姫
西洋かぶれの客が、何かのハレの日にそんな料理を食べたとか、自慢してたのを思い出したわ。
123:黒死牟
詰めた米ははらわたに………縫った赤い糸は血の管に………見立てているらしい………。
124:魘夢
…零様。さりげなく爪を入れたとか仰いませんでしたか?
125:上弦の零
人間達の爪切りで切る程度の爪も一緒に入れるんですよ。因みに、自分の髪の毛や皮膚の一部や血液を入れるのは、危険度が高くなるらしいです。このお屋敷の坊ちゃんも爪を入れたみたいですから、同じ事をします。
更に、お茶碗に一杯の塩水を用意します。岩塩でも良さそうですけど、ここも坊ちゃんの行動をなぞって、普通のお塩にしましょう。
126:鬼舞辻無惨
岩塩?何か意味があるのか?
127:上弦の零
塩水は『ひとりかくれんぼ』を終了させる重要なアイテム…物ですからね。だから、霊験あらたかなお山で採れるお塩もいいと思ったんですけど。でも、岩塩自体が日本で採れる物じゃないですし、『霊験あらたかな神聖なお山で採れる岩塩』なんてピンポイントな物…極端に限定された物は、入手が難しいですから。とりあえず、天然のお塩であればいいそうです。
128:累
山で採れる塩なんてあるんだ。知らなかった。
129:上弦の零
外国には、お塩を含んだ石が採れる山があるそうです。
作った塩水は、坊ちゃんの隠れ場所もなぞって、納戸に置いておきましょう。いやあ。『痕跡を辿る』事もできる矢琶羽さんの血鬼術に、凄く助けられてます。
130:矢琶羽
そ、そうか。照れるのう。
131:上弦の零
準備ができた所で午前3時も過ぎました。ここから、『ひとりかくれんぼ』の手順を開始します。黒死牟様の抜刀は、実戦経験が多い黒死牟様のご判断に委ねますね。
132:黒死牟
心得た………。
133:上弦の零
まず、たぬきちに「最初の鬼は上弦の零だから」と3回言い聞かせます。お風呂場に行って、水を張ったお風呂桶にたぬきちを沈めます。それから、家の照明を全部消して廻ります。
134:黒死牟
零殿………。消灯ができたぞ………。
135:上弦の零
ありがとうございます。黒死牟様。暗闇でも視界が明瞭な鬼の身体に感謝ですね。
実はもう一つ用意する要素がありますが、坊ちゃんも用意できなかったみたいですので、ここは略式にしましょう。消灯ができたら、目を閉じて10秒数えます。
136:黒死牟
1………2………。零殿………。妙な音………声が聞こえるが………。
137:童磨
音?声?どんな風か、訊いてもいいかい?
138:上弦の零
こちらの音声を一部共有します。(複数の赤ん坊の泣き叫ぶ声と調子が外れた女性の笑い声と悲鳴が感覚共有で送られる)
139:半天狗
ヒイイイイ!!?
140:玉壺
お2人ともよく平気だな!!?
141:鬼舞辻無惨
妻よ!!大事ないか!!?
142:上弦の零
無惨様。黒死牟様の事も心配して下さい。
少なくとも平気ではないですね。黒死牟様が既に刀の鯉口を切ってますから。普通の人間だったらパニック…恐慌状態に陥って、『ひとりかくれんぼ』の正しい手順を実施できないと思います。とりあえず次の手順として、この目打ちを持ってお風呂場に戻りましょう。
143:鳴女
裁縫に使う目打ちですか?何故、目打ちなのかを伺っても?
144:上弦の零
今回はお裁縫に使用する目打ちですけど、要するにぬいぐるみを『刺す』事ができる鋭利な物だったら、何でもいいそうです。包丁とかでも。
145:猗窩座
得物が必要とは、突然物騒になってきたな。
146:上弦の零
かくれんぼと言いますが、実際には斬ったはったが必要な儀式なんです。
147:黒死牟
零殿………。私の脇差だけでも………お持ちになるか………?
148:上弦の零
ありがとうございます。でも、黒死牟様の刀は最後の切り札にしましょう。何より、私じゃ闇雲に振り回す事しかできませんからね。
149:黒死牟
承知した………。
風呂場に着いたが………沈めたはずのぬいぐるみの………上半身が起き上がっている………。
150:妓夫太郎
動いたって事か?
151:堕姫
やだ!本当に何かが取り憑いたの?
152:上弦の零
でしょうね。因みに『ひとりかくれんぼ』のルール…決まり事として『何があろうと絶対に家から出てはいけない』また『何があろうと絶対に全ての手順を完遂しなければいけない』とありますが、普通の人間がこの状況に陥ったら難しいと思います。
153:童磨
それで、その家の子供は『ひとりかくれんぼ』に『負けて』しまったのかな?
154:上弦の零
恐らくですが。
お風呂場のたぬきちには「たぬきち見付けた」と宣言して、持っている刃物つまりここでは目打ちで刺します。えい。
155:黒死牟
零殿………。米しか入れておらぬはずが………刺し傷から血のような物が溢れ出てきたが………。
156:半天狗
ヒイイイイ!!
157:玉壺
怖い怖い怖い怖い。
158:上弦の零
半天狗さんも玉壺さんも上弦たる御仁なんですから大丈夫ですよ。
絵に描いたような霊障…怪奇現象ですが、手順を進めましょう。ここで、たぬきちに「次の鬼はたぬきちだから」と3回言い聞かせ、私達は隠れ場所に移動します。
159:黒死牟
零殿………。しんがりは任せよ………。
160:上弦の零
黒死牟様。ありがとうございます。
それにしても、多分『物体』の振動による『音』じゃないんでしょうけど、数をカウント…数えた時からしている悲鳴とか笑い声とか、聴覚が人間より鋭敏な鬼でなくてもしんどいですね。きっと。『ひとりかくれんぼ』は『絶対に家に1人の状況でやる事』とありますから、子供が1人でこの状況はキツいでしょうね。
161:妓夫太郎
逆に何で零殿はそんなに落ち着き払ってるんだよ。
162:猗窩座
零殿には、恐怖心というものが無いのか?
163:上弦の零
嫌ですねえ。猗窩座さんったら。恐怖は『生物』である以上、絶対に必要な感情じゃないですか。私だって虫とか猪の突進とか怖いと思いますよ。
164:堕姫
アンタにも怖いものがあるとか意外だわ。
165:猗窩座
猪の突進?何の話だ?
166:上弦の零
『青い彼岸花』探して山を渉猟していたら、農家さんが猪に襲われそうになっていて、思わず鬼の渾身の力で猪を蹴っ飛ばして助けたんです。
167:鬼舞辻無惨
何をしているのだ。我が妻よ。
168:上弦の零
人間達に恩を売る為ですってば。無惨様。
その猪、どうも畑の苺を食い荒らす暴れ猪だったらしくて、物凄くお礼を言われて採れたての苺をたんと頂いてしまいました。
169:累
貰っても、鬼だから食べられないでしょ?
170:魘夢
どうしたんですか?その苺。
171:響凱
…先だって、零殿が近所の子供に苺をふんだんに乗せた『あいすくりん』を振る舞っていたが、あの苺がその時の物か?
172:堕姫
『あいすくりん』?客がこの前、食べさせてやるって店に持ち込んできたわ。禿達にあげたらやたら大喜びしていたから、人間にはおいしいものなんでしょうけど。
173:上弦の零
お姫ちゃん。そのお客さんがぬいぐるみのお客さんと別の人である場合、件のお客も可能な限り大事にした方がいいです。
実は響凱さんのお察しの通りです。なお、あいすくりん製造には童磨さんの血鬼術が大活躍してくれました。苺をお砂糖と一緒に煮詰めた『ジャム』って物も作ってアイスクリーム…いえいえ。あいすくりんにかけるともっとおいしいんですが、人間の味覚をもう持たない私だと、『調理』に不安がありましたからね。なので、シンプル…簡素ですけど、ヨーロッパの『パフェ』形式にしてみました。
174:黒死牟
ぱへ………?
175:上弦の零
『パルフェ』とも言って、あいすくりんや切った果物だとかをレイヤー状…層にして重ねるお菓子です。向こうではまだまだ高級なお菓子で、市井に出回っていないみたいですけど。清少納言の随筆でも、現代語訳すると『夏に食べる、氷を削って植物の汁を甘く煮詰めた物をかけたお菓子は最高だよね!』ってありますし、いつの時代でも洋の東西を問わず甘い物…とりわけ氷菓は愛されてますよね。
176:鬼舞辻無惨
本当に何をしているのだ。我が妻よ。
177:上弦の零
ですから、無惨様。人間達に恩を売る為ですってば。結果として、『青い彼岸花』を見付ける手掛かりに繋がるかもしれないでしょ?
178:朱紗丸
…世間話のように話しておられるが、今も怪奇現象が起こっているのよな…。
179:上弦の零
悲鳴や笑い声を背景に話してます。つまり現在進行形ですね。
180:鬼舞辻無惨
お前は本当に肝が据わっているな…。
始める時間も刻限も決まってる降霊術です。そろそろ午前3時ですから、時間も丁度いいですね。
やり方を簡潔に言うと、架空の相手を定めてかくれんぼを再現するんです。決まり事も細かくあって、例えば時刻は必ず午前3時から始めて、これまた必ず1時間から2時間で終わらせるようにとあるんです。
70:半天狗
架空の相手とは、どのような?
71:上弦の零
実践しながら説明しますね。
まず、ぬいぐるみという物を用意します。必ず手足がある物が必要です。
72:堕姫
ぬいぐるみ?布と綿で動物を作った物の事?熊とか兎とか。この前、客がアタシにって置いていったけど、邪魔ったらないわ。
73:上弦の零
話が逸れますが、お姫ちゃん。そのお客さんは可能な限り大事にして下さい。実物を見てはいませんが、恐らくそれはヨーロッパの『シュタイフ』さんという高級なぬいぐるみのメーカー…会社の製品です。
74:堕姫
え?そうなの?
75:上弦の零
あくまでも恐らくの範囲ですが。日本に現時点で進出しているぬいぐるみの会社は、『シュタイフ』さんだけのはずなので。つまり件のお客さんは、現時点ではあまり知られていないと言えど、珍しい上に質が良い物を選ぶ『目』を持っています。
76:堕姫
へえ。いい事を聞いたわ。ありがとね。
77:妓夫太郎
上客も上客って事か。零殿、続きを頼めるか?
78:上弦の零
妓夫太郎さん。軌道修正ありがとうございます。
ぬいぐるみを架空の相手とするにあたり、名付けが必要です。『たぬきち』にします。
79:猗窩座
たぬきち…?
80:鬼舞辻無惨
何故そのような名前なのだ。
81:玉壺
ええと。由来を訊いても?
82:黒死牟
確かに………狸を模っているように見えるが………。
83:上弦の零
『ひとりかくれんぼ』の手順の一つに、ぬいぐるみを水に沈めるとあるからです。尚且つ、私達は『ひとりかくれんぼ』に絶対に勝たないといけないというのもあります。ほら、現代の茨城県の民話の『かちかち山』では、悪い狸がうさぎどんに櫂で殴られて海に沈められているでしょ?つまり『絶対に沈んで敗北する存在』であるように名前を付けたんですよ。
84:累
『かちかち山』って、茨城県の話だったんだ。
85:童磨
確かに、茨城県だったら山があれば海もあるからね。
86:鬼舞辻無惨
『名付けの呪』か。名前は最も短い呪いだと言うからな…。
87:上弦の零
無惨様。仰る通りです。名付けは呪いにもなればおまじないにもなりますからね。
まあ、同じ『沈んで敗北する存在』として、『源平合戦』の平氏の名前を付けても良かったんですけど、それだとむしろ怨霊としての側面を得てパワーアップ…降ろした何者かが強化されてしまいそうでしたからね。現代でもなお鎮めないといけない一族な訳ですし。いや。『沈める』とかけているんじゃなくて。
88:鳴女
祇園精舎の鐘の声〜♪(琵琶を掻き鳴らす)
89:響凱
…零殿。仮にだが、平氏の名を付けるとしたら、どのような名を付けるおつもりだったのだ?
90:上弦の零
『安徳』か『時子』ですね。
91:鬼舞辻無惨
『安徳』は流石にやめておけ。
92:鳴女
『波の底にも都の候ぞ』…。(琵琶を掻き鳴らす)
93:上弦の零
そうですね。流石にやめましたよ。さっきも言った通り、ぬいぐるみに降りる存在が怨霊の力を得てしまいそうだったので。
94:鬼舞辻無惨
妻よ。その何が降りるかわからぬ降霊術など、本当にお前が執り行なうべきものか?
95:童磨
俺が頼んでおいてなんだけど、本当に大丈夫かい?
96:上弦の零
童磨さんは教祖様らしく、落ち着いてゆったり構えていて下さっていればいいんです。
97:黒死牟
しかし………私の剣で………斬れるだろうか………。
98:上弦の零
それに、無惨様。言いましたでしょ。人間達に恩を売る為だって。何より、我々鬼の事も『ひとりかくれんぼ』で降りてくる存在と同様の『怪異』と定義するなら、鬼は怪異としては上位存在なんですよ。ここにはその上位存在である鬼の中で、最高実力者たる黒死牟様がいらっしゃる訳ですから、それこそ無惨様レベル…無惨様と同等の実力を持つ存在でない限り、負ける事はまず無いです。もう一つ。仮に黒死牟様の刀で物理的に斬れない相手だとしても、矢琶羽さんの血鬼術が活躍するはずです。
99:矢琶羽
儂か!?
100:上弦の零
私が『一度目にした血鬼術なら使える』血鬼術持ちなのは知ってますよね?矢琶羽さんの血鬼術も使えますから、『紅潔の矢』でしたら、実体を持たない存在にも当てる事ができるんです。なので、もし斬れない相手である場合、黒死牟様と視界を共有しながら『紅潔の矢』で何処を斬ればいいかガイド…案内線を引く事で連携できますね。これでも、矢琶羽さんの血鬼術を頼りにしてるんですよ?
101:矢琶羽
零様…。
102:鬼舞辻無惨
しかしだな。妻よ。
103:上弦の零
更に一つ。『毒を以て毒を制す』じゃない上に、恐ろしく乱暴な言い方をしますけど、『化け物には化け物をぶつける』って話です。まあ『ひとりかくれんぼ』をやったら呪われるだの言いますけど、仮に呪いがあったとしても、鬼パワー…鬼の力で打ち消せるでしょ。呪いで人を傷付けるなんて、そもそもできませんけどね。
104:半天狗
ヒイッ!?の、呪い!?
105:玉壺
『ひとりかくれんぼ』をしただけで呪われると!?
106:鬼舞辻無惨
ますます危険ではないか!!
107:堕姫
逆にアンタは何でそんなに落ち着いてるのよ。
108:黒死牟
零殿………怖くないのか………?
109:上弦の零
呪いで人を殺める事はできない、つまり呪いと結果の因果を科学で証明できないからですよ。まあ、非科学的な要素の権化と言える、鬼のお前が言うなって話ですけど。だから、呪いなんて不確定なものを怖がる必要はありませんよ。なお、呪いを信じない事と、『名付けの呪』を始めとする呪術的な要素に頼る事は、決して矛盾していません。尤も、怖いと思う人はこの『場』から退去して構いませんけど。
110:朱紗丸
い、いいや。逃げぬぞ。
111:矢琶羽
右に同じだ。
112:響凱
零殿。小生など黒死牟様には到底及ばぬが、何かあればお救いしに行く。
113:累
僕達にできる事は無い?
114:上弦の零
応援してもらえると嬉しいですね。
115:魘夢
零様〜。頑張って下さ〜い。
116:鳴女
(勇壮な調子で琵琶を掻き鳴らす)
117:童磨
わあ!麗しい同胞愛だねえ!俺、感動し過ぎて涙が出てきちゃったよ。
118:猗窩座
嘘泣きに見えるんだが…。
119:上弦の零
猗窩座さん。そういう事を言わない。
皆、優しいですね。ありがとうございます。
話してる間にたぬきちの準備も整いました。中身の綿を全部出して、代わりに私の切った爪と生のお米を詰めて、赤い糸で縫い合わせました。生のお米とか勿体無いですけど、詰め込んで縫う辺りは丸ごとのチキン…鶏肉にお野菜や香草を詰めるお料理みたいですよね。
120:妓夫太郎
料理じゃなくて降霊術だろ。
121:猗窩座
緊張感が無いな。
122:堕姫
西洋かぶれの客が、何かのハレの日にそんな料理を食べたとか、自慢してたのを思い出したわ。
123:黒死牟
詰めた米ははらわたに………縫った赤い糸は血の管に………見立てているらしい………。
124:魘夢
…零様。さりげなく爪を入れたとか仰いませんでしたか?
125:上弦の零
人間達の爪切りで切る程度の爪も一緒に入れるんですよ。因みに、自分の髪の毛や皮膚の一部や血液を入れるのは、危険度が高くなるらしいです。このお屋敷の坊ちゃんも爪を入れたみたいですから、同じ事をします。
更に、お茶碗に一杯の塩水を用意します。岩塩でも良さそうですけど、ここも坊ちゃんの行動をなぞって、普通のお塩にしましょう。
126:鬼舞辻無惨
岩塩?何か意味があるのか?
127:上弦の零
塩水は『ひとりかくれんぼ』を終了させる重要なアイテム…物ですからね。だから、霊験あらたかなお山で採れるお塩もいいと思ったんですけど。でも、岩塩自体が日本で採れる物じゃないですし、『霊験あらたかな神聖なお山で採れる岩塩』なんてピンポイントな物…極端に限定された物は、入手が難しいですから。とりあえず、天然のお塩であればいいそうです。
128:累
山で採れる塩なんてあるんだ。知らなかった。
129:上弦の零
外国には、お塩を含んだ石が採れる山があるそうです。
作った塩水は、坊ちゃんの隠れ場所もなぞって、納戸に置いておきましょう。いやあ。『痕跡を辿る』事もできる矢琶羽さんの血鬼術に、凄く助けられてます。
130:矢琶羽
そ、そうか。照れるのう。
131:上弦の零
準備ができた所で午前3時も過ぎました。ここから、『ひとりかくれんぼ』の手順を開始します。黒死牟様の抜刀は、実戦経験が多い黒死牟様のご判断に委ねますね。
132:黒死牟
心得た………。
133:上弦の零
まず、たぬきちに「最初の鬼は上弦の零だから」と3回言い聞かせます。お風呂場に行って、水を張ったお風呂桶にたぬきちを沈めます。それから、家の照明を全部消して廻ります。
134:黒死牟
零殿………。消灯ができたぞ………。
135:上弦の零
ありがとうございます。黒死牟様。暗闇でも視界が明瞭な鬼の身体に感謝ですね。
実はもう一つ用意する要素がありますが、坊ちゃんも用意できなかったみたいですので、ここは略式にしましょう。消灯ができたら、目を閉じて10秒数えます。
136:黒死牟
1………2………。零殿………。妙な音………声が聞こえるが………。
137:童磨
音?声?どんな風か、訊いてもいいかい?
138:上弦の零
こちらの音声を一部共有します。(複数の赤ん坊の泣き叫ぶ声と調子が外れた女性の笑い声と悲鳴が感覚共有で送られる)
139:半天狗
ヒイイイイ!!?
140:玉壺
お2人ともよく平気だな!!?
141:鬼舞辻無惨
妻よ!!大事ないか!!?
142:上弦の零
無惨様。黒死牟様の事も心配して下さい。
少なくとも平気ではないですね。黒死牟様が既に刀の鯉口を切ってますから。普通の人間だったらパニック…恐慌状態に陥って、『ひとりかくれんぼ』の正しい手順を実施できないと思います。とりあえず次の手順として、この目打ちを持ってお風呂場に戻りましょう。
143:鳴女
裁縫に使う目打ちですか?何故、目打ちなのかを伺っても?
144:上弦の零
今回はお裁縫に使用する目打ちですけど、要するにぬいぐるみを『刺す』事ができる鋭利な物だったら、何でもいいそうです。包丁とかでも。
145:猗窩座
得物が必要とは、突然物騒になってきたな。
146:上弦の零
かくれんぼと言いますが、実際には斬ったはったが必要な儀式なんです。
147:黒死牟
零殿………。私の脇差だけでも………お持ちになるか………?
148:上弦の零
ありがとうございます。でも、黒死牟様の刀は最後の切り札にしましょう。何より、私じゃ闇雲に振り回す事しかできませんからね。
149:黒死牟
承知した………。
風呂場に着いたが………沈めたはずのぬいぐるみの………上半身が起き上がっている………。
150:妓夫太郎
動いたって事か?
151:堕姫
やだ!本当に何かが取り憑いたの?
152:上弦の零
でしょうね。因みに『ひとりかくれんぼ』のルール…決まり事として『何があろうと絶対に家から出てはいけない』また『何があろうと絶対に全ての手順を完遂しなければいけない』とありますが、普通の人間がこの状況に陥ったら難しいと思います。
153:童磨
それで、その家の子供は『ひとりかくれんぼ』に『負けて』しまったのかな?
154:上弦の零
恐らくですが。
お風呂場のたぬきちには「たぬきち見付けた」と宣言して、持っている刃物つまりここでは目打ちで刺します。えい。
155:黒死牟
零殿………。米しか入れておらぬはずが………刺し傷から血のような物が溢れ出てきたが………。
156:半天狗
ヒイイイイ!!
157:玉壺
怖い怖い怖い怖い。
158:上弦の零
半天狗さんも玉壺さんも上弦たる御仁なんですから大丈夫ですよ。
絵に描いたような霊障…怪奇現象ですが、手順を進めましょう。ここで、たぬきちに「次の鬼はたぬきちだから」と3回言い聞かせ、私達は隠れ場所に移動します。
159:黒死牟
零殿………。しんがりは任せよ………。
160:上弦の零
黒死牟様。ありがとうございます。
それにしても、多分『物体』の振動による『音』じゃないんでしょうけど、数をカウント…数えた時からしている悲鳴とか笑い声とか、聴覚が人間より鋭敏な鬼でなくてもしんどいですね。きっと。『ひとりかくれんぼ』は『絶対に家に1人の状況でやる事』とありますから、子供が1人でこの状況はキツいでしょうね。
161:妓夫太郎
逆に何で零殿はそんなに落ち着き払ってるんだよ。
162:猗窩座
零殿には、恐怖心というものが無いのか?
163:上弦の零
嫌ですねえ。猗窩座さんったら。恐怖は『生物』である以上、絶対に必要な感情じゃないですか。私だって虫とか猪の突進とか怖いと思いますよ。
164:堕姫
アンタにも怖いものがあるとか意外だわ。
165:猗窩座
猪の突進?何の話だ?
166:上弦の零
『青い彼岸花』探して山を渉猟していたら、農家さんが猪に襲われそうになっていて、思わず鬼の渾身の力で猪を蹴っ飛ばして助けたんです。
167:鬼舞辻無惨
何をしているのだ。我が妻よ。
168:上弦の零
人間達に恩を売る為ですってば。無惨様。
その猪、どうも畑の苺を食い荒らす暴れ猪だったらしくて、物凄くお礼を言われて採れたての苺をたんと頂いてしまいました。
169:累
貰っても、鬼だから食べられないでしょ?
170:魘夢
どうしたんですか?その苺。
171:響凱
…先だって、零殿が近所の子供に苺をふんだんに乗せた『あいすくりん』を振る舞っていたが、あの苺がその時の物か?
172:堕姫
『あいすくりん』?客がこの前、食べさせてやるって店に持ち込んできたわ。禿達にあげたらやたら大喜びしていたから、人間にはおいしいものなんでしょうけど。
173:上弦の零
お姫ちゃん。そのお客さんがぬいぐるみのお客さんと別の人である場合、件のお客も可能な限り大事にした方がいいです。
実は響凱さんのお察しの通りです。なお、あいすくりん製造には童磨さんの血鬼術が大活躍してくれました。苺をお砂糖と一緒に煮詰めた『ジャム』って物も作ってアイスクリーム…いえいえ。あいすくりんにかけるともっとおいしいんですが、人間の味覚をもう持たない私だと、『調理』に不安がありましたからね。なので、シンプル…簡素ですけど、ヨーロッパの『パフェ』形式にしてみました。
174:黒死牟
ぱへ………?
175:上弦の零
『パルフェ』とも言って、あいすくりんや切った果物だとかをレイヤー状…層にして重ねるお菓子です。向こうではまだまだ高級なお菓子で、市井に出回っていないみたいですけど。清少納言の随筆でも、現代語訳すると『夏に食べる、氷を削って植物の汁を甘く煮詰めた物をかけたお菓子は最高だよね!』ってありますし、いつの時代でも洋の東西を問わず甘い物…とりわけ氷菓は愛されてますよね。
176:鬼舞辻無惨
本当に何をしているのだ。我が妻よ。
177:上弦の零
ですから、無惨様。人間達に恩を売る為ですってば。結果として、『青い彼岸花』を見付ける手掛かりに繋がるかもしれないでしょ?
178:朱紗丸
…世間話のように話しておられるが、今も怪奇現象が起こっているのよな…。
179:上弦の零
悲鳴や笑い声を背景に話してます。つまり現在進行形ですね。
180:鬼舞辻無惨
お前は本当に肝が据わっているな…。