『聖女』降臨〜数奇な運命〜

「ううん。しかし大変です」

アベルがやっと落ち着いた所で、彼女は大真面目な顔で腕組みをした。怪訝そうなアベルの様子を察したのか、彼女は続ける。

「いや。このままだと、アベル様のお兄さんのカイン=ナイトロードさんが、折角生き延びてきた今の人類も滅ぼしちゃうんですよね。私みたいな短生種テラン長生種メトセラ達も問わず」

彼女は、決意に満ちた眼差しでアベルを見上げた。

「アベル様。私もそのAxに、『世界の敵コントラ・ムンデイ』と戦う仲間に、私も入れて欲しいです」
「ええっ?」

思いもしない申し出に驚くアベルに、彼女は続ける。

「そりゃ、カテリーナ様…スフォルツァ枢機卿猊下のお許しが勿論必要でしょうし、あるかわかりませんけど適性検査?みたいなものをやった結果、『お手伝い程度の事しか向いてません』になるかもしれませんけど、知った以上は何もしないでいられません。少しでも戦力になれたらと思うんです」
「しかし、貴方はまだ学校に通う年齢でしょう?」

なお、当のカテリーナは14歳当時の大学在学中に『世界の敵』と戦う事になったが、そこはそれである。
慌てるアベルに彼女はきょとんとした。

「学校?私は社会人です。成人してます」
「社会人!?」

女性に対して不躾とわかってはいるが、アベルは思わず彼女をまじまじと見ていた。

「…すみません。15歳…くらいだと思っていました」
「まあ、日本人は特に欧米圏の人からだと、若く見えるらしいですからね」

気分を害した様子も無く、彼女は「謝らないでいいですよ」と、あっけらかんと返した。

「…因みに、失礼ですが…お仕事は何を?」
「プログラマーです。下っ端ですけど。なので、この時代で言う所の『電脳調律師プログラマー』もできると思います。まあ、この時代の『遺失技術ロストテクノロジー』に組み込まれてるプログラミング言語のレベルにもよりますが」
「た、確かにただでさえ電脳調律師は貴重ですが…」

それでもなお躊躇いを見せるアベルに、動じた様子も無く彼女は畳み掛けた。

「この貴族みたいな悪い長生種と戦う事も心配して下さってると思いますけど。でも私、アベル様達についていける能力は持ってると思うんです」

彼女は「ほら」と床に転がる貴族を、正確に言うと貴族の手足の枷を示した。

「貴族を拘束してるこの銀の枷だって、貴族が使ってた『錫』の食器を分子レベルや原子レベルでいじくって、長生種の弱点が一つの銀に変換してから枷に変形させたんですから」
「…凄いですね」

彼女はさらりと言うが、アベルは心から感心した。

「傷を治すだけじゃなくて、畑の実りを良くする事もできますよ。作物の病気を治したりも」

彼女は「そうですね」と考える素振りを見せた。

「仮にAxに適性が無かったとしても…歴史上の本物の『聖女様』達に対して恐れ多い物言いですが、『教皇庁ヴァチカンの聖女』として宣伝もできると思いますよ。スフォルツァ枢機卿猊下の為になるかもしれません。Axとして動く以上は、ほら。枢機卿としてのいわば『表の影響力』も大事でしょうし」

アベルの話を聞いて、ほんの短時間でそこまで計算したらしい。
アベルは天を仰ぎ、そして彼女に視線を戻すと、内緒話をするように声を落とした。

「…カテリーナさんって、凄く怖い上司なんですよ」
「まあ、女性しかもお若いのに『枢機卿』なんて偉いお立場でいらっしゃるから、バリバリなんでしょうね」

彼女は、思ったままを率直に言う口調で返した。同時に「少なくとも私が知る限りだと、枢機卿ってお爺さんしかいなかったからなあ」と思ってもいた。

「…貴方の事は、私が責任を持ってカテリーナさんに話をします。でも…Axに入っても、今回みたいに身一つで悪い長生種の根城に乗り込むなんて無茶は駄目ですよ?」
「わかりました。『蛮勇による無謀な個人プレイはいけません』って事ですね」

アベルの「めっ」という顔を見ながら、自分の理解を確かめる口振りで彼女は頷いた。

彼女は右手をアベルに差し出し「よろしくお願いします」と生真面目に言う。アベルもへにゃりと笑って「こちらこそ」と、彼女の右手を自分の右手で握り返した。

すっかりいつもの調子を取り戻したアベルと、しかと握手を交わし合った彼女は、未だ意識を失ったままの貴族を見た。

「そうと決まれば、手始めにこの貴族の首を獲りましょう。ちょっと肉切り包丁か斧を探してきますので!」
「首を切る所からも離れましょうか!」

アベルは、大慌てで彼女を制止した。もしもこの場に彼女以外に日本人がいたとしたら、こうツッコミを入れている所である。「お前は戦国武将か」と。
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