『聖女』降臨〜数奇な運命〜
アベルは、全てを話した。この1000年で起こった事。何より、自分達3兄弟の罪を。
「…そうですか」
ずっと黙って聞いていた彼女は、深く深く頷いた。
「アベル様。まずは手を解きましょう?」
言って、彼女は突然アベルの片手を取った。無意識に、手袋越しに爪が自分の掌に食い込む程に握り締めていたアベルの手の、指を一本一本離すように解く。白い手袋に少し血が滲んでしまっている事に彼女は「痛そう」と眉を寄せ、傷に己の片手を翳した。痛みが引き、傷が治っていく様を自覚したアベルは、これが村人達が彼女を『聖女』と呼ぶ由縁だと察した。
彼女はアベルの手を取ったまま、顔を上げ目を合わせる。透明な眼差しだった。
「アベル様、ずっと1000年間も頑張ってこられたんですね。1人で全部抱え込んで、お辛かったでしょう」
「…私は、そんな事を言われる資格など持っていません」
手に再び力が籠もりそうになったが、彼女の手がアベルの指を真っ直ぐに伸ばした。アベルにこれ以上自分を傷付けさせない為に、彼女はアベルの手を取っているのだと、アベルは悟った。しかし、この優しい彼女の顔をまともに見る事は、もうできなかった。俯いたままで血を吐くようにアベルは告げる。
「私は、貴方がいた世界を…」
「いや。アベル様に文句を言っていいとしたら、それは当時の人達ですよ」
彼女は「そりゃあ」と続けた。
「最初からずっと悪い事をしないで生きてきた人は、勿論偉いですよ?でも『自分がした事は悪い事』って認めて、『だから罪滅ぼしをする』って心を入れ替えて、実際に行動するっていうのは、『最初から悪い事をしなかった』よりもとっても大変で、凄い事だと思うんです」
彼女は片手でぽんぽんとアベルの肩を叩いた。優しい手付きだった。おずおずと、叱られた子供のような表情で顔を上げるアベルに、彼女はこれまた優しい口調で告げる。
「自分がした事を私に…この旧世界最後の人類に話して下さったのだって、相当な勇気が必要だったとも思うんです。だから、私はアベル様を責めたりはしません。むしろ、凄く立派だと思います。アベル様に見付けてもらえて良かったですよ」
アベルは、我知らず涙を流していた。自分の罪が消えて無くなった訳では決してないが、彼女の言葉で全てが報われたような、救われたような気持ちになっていた。
彼女はハンカチを出そうとしたのかポケットを探る。だがそもそも身一つで来た事を、何より着替えさせられていた事を思い出したらしい。ドレスの典雅な袖で、アベルの丸い眼鏡に当たらないように気を付けながら、そっと涙を拭いてくれた。アベルは「みっともない所をお見せして…」と嗚咽交じりに言ったが、彼女は「気にしなくていい」と言う顔で首を横に振った。
「…そうですか」
ずっと黙って聞いていた彼女は、深く深く頷いた。
「アベル様。まずは手を解きましょう?」
言って、彼女は突然アベルの片手を取った。無意識に、手袋越しに爪が自分の掌に食い込む程に握り締めていたアベルの手の、指を一本一本離すように解く。白い手袋に少し血が滲んでしまっている事に彼女は「痛そう」と眉を寄せ、傷に己の片手を翳した。痛みが引き、傷が治っていく様を自覚したアベルは、これが村人達が彼女を『聖女』と呼ぶ由縁だと察した。
彼女はアベルの手を取ったまま、顔を上げ目を合わせる。透明な眼差しだった。
「アベル様、ずっと1000年間も頑張ってこられたんですね。1人で全部抱え込んで、お辛かったでしょう」
「…私は、そんな事を言われる資格など持っていません」
手に再び力が籠もりそうになったが、彼女の手がアベルの指を真っ直ぐに伸ばした。アベルにこれ以上自分を傷付けさせない為に、彼女はアベルの手を取っているのだと、アベルは悟った。しかし、この優しい彼女の顔をまともに見る事は、もうできなかった。俯いたままで血を吐くようにアベルは告げる。
「私は、貴方がいた世界を…」
「いや。アベル様に文句を言っていいとしたら、それは当時の人達ですよ」
彼女は「そりゃあ」と続けた。
「最初からずっと悪い事をしないで生きてきた人は、勿論偉いですよ?でも『自分がした事は悪い事』って認めて、『だから罪滅ぼしをする』って心を入れ替えて、実際に行動するっていうのは、『最初から悪い事をしなかった』よりもとっても大変で、凄い事だと思うんです」
彼女は片手でぽんぽんとアベルの肩を叩いた。優しい手付きだった。おずおずと、叱られた子供のような表情で顔を上げるアベルに、彼女はこれまた優しい口調で告げる。
「自分がした事を私に…この旧世界最後の人類に話して下さったのだって、相当な勇気が必要だったとも思うんです。だから、私はアベル様を責めたりはしません。むしろ、凄く立派だと思います。アベル様に見付けてもらえて良かったですよ」
アベルは、我知らず涙を流していた。自分の罪が消えて無くなった訳では決してないが、彼女の言葉で全てが報われたような、救われたような気持ちになっていた。
彼女はハンカチを出そうとしたのかポケットを探る。だがそもそも身一つで来た事を、何より着替えさせられていた事を思い出したらしい。ドレスの典雅な袖で、アベルの丸い眼鏡に当たらないように気を付けながら、そっと涙を拭いてくれた。アベルは「みっともない所をお見せして…」と嗚咽交じりに言ったが、彼女は「気にしなくていい」と言う顔で首を横に振った。