『聖女』降臨〜数奇な運命〜

このような次第で、彼女は翌日に村の全員に見送られて、村長が操縦する簡易な馬車に乗り、貴族の城へと赴いた。

「いいですか?変な言い方になりますけど、フォーメーションも態度も『人身御供を連れて行くいつも通り』でお願いします。少しでも違う所があったら、確実に怪しまれますので!」

馬車の操縦役として、何より代表者として村長と、人身御供の見張り役として男衆が2名という、合計で3名のフォーメーションが『いつも通り』との事だった。

「私も泣く演技をしますけど、一切手心を加えずにお願いします!一世一代の大芝居だと思ってやって下さい!」

実際、彼女は正に迫真の演技を見せた。猿轡を咬まされた状態で涙まで流した。

恐怖に引き攣っている振りをしてみせた点を差し引いても、品定めをする目で彼女の顔を見た貴族は、いたく満足した。拘束されている彼女を自動人形達に運ばせ、村長達を帰した。

「期限は…そうですね。明後日です。貴族との決着は夜明けまでにつけるつもりでいますが、城に皆さんの脅威が他に存在しないかを調べます。どんなに遅くても、明後日の昼日中には狼煙だとかを上げて無事をお知らせします。狼煙を見たら、怖いでしょうけど迎えに来て頂けませんか?」

村長達は了承した。何処までも慎重な彼女との打ち合わせの際、彼女を城へ送り届けたら一旦村に戻るようにとも言われていた。

帰路に着いた村長達は、その途中でアベルと合流したのである。表向きは巡回神父として、しかしその実はAxの命を帯びて長生種メトセラを退治しに村へと訪れたアベルと。

「お助け下さい神父様!」

アベルが教皇庁ヴァチカンから派遣された神父だと聞くや否や、1人の村娘が身を投げ出すようにして、両手を胸の前で組んで跪いた。

「聖女様が、あたしの身代わりになって吸血鬼ヴァンパイアの元へ行ってしまったんです!」
「聖女?身代わり?どういう事ですか?」

村娘は、彼女がいなければ人身御供となっていたはずの少女だった。彼女から直々に「生贄にならなくていいんですよ」と聞かされていたが、武器らしい武器も持たずに行ってしまった彼女を案じていたのだ。

口々に経緯を話し「聖女様にご加勢して欲しい」と村人達に懇願されたアベルは、慌てて1頭の馬を借りて城へと向かった。道中で村へ帰る所であった村長達と合流し、互いに情報を交換して共に城へ走ったのである。

城に到着したアベルは村長達に外で身を隠しているように伝え、愛用の回転式自動拳銃を手に城内へ踏み込んだ。

「ほら。発電所の管理者権限のパスワードも早く答えて下さいよ」
「きゃはははは!!」

アベルが見たのは、美しいドレス姿で仁王立ちする少女と、下着一枚で両手足を恐らく銀の枷で拘束され、全身を羽箒でくすぐられ笑い続ける女性の姿であった。

「え?え…ええと…。これはどういう状況ですか?」
「いやーっ!!見ないでーっ!!」

百戦錬磨のはずのアベルだが、流石に戸惑った。拳銃は構えつつも溢した問いに女性が気付き、羞恥に悲鳴を上げる。

アベルは思わず素直に横を向いていた。しかし、場が長生種の城だと思い出したので、女性はなるべく見ないようにしつつも、少女を視界に捉える。少女はアベルに会釈した。

「こんばんは。この吸血鬼退治を頼まれた者です」
「あ。貴方が村の皆さんが仰っていた『聖女』で、そちらが件の吸血鬼なんですね?」

律儀な挨拶をする彼女に、アベルもつられて会釈を返す。

「私は、教皇庁より派遣された巡回神父のアベル=ナイトロードと申します。貴方に加勢するよう頼まれて来たのですが…」
「おのれ!教皇庁の狗共め!」
「私はヴァチカンじゃなくて八百万の神様ですよ。特に信じる神様はいませんけど」

呼吸を整えた貴族が憎々しげに叫ぶが、彼女はこのように返した。貴族が「は?ヤヲヨ…?」と疑問符を上げるのを尻目に、彼女は再び口を開いた。

「ちょっと待っていて下さいね。アベル様。今、肉切り包丁か斧を持ってきますので」
「な、何をするつもりよ!?」
「待って下さい。何をするおつもりですか?」

貴族とアベルが異口同音に発した疑問に、彼女は当たり前のような表情を見せた。

「決まっています。この吸血鬼の首を獲るんです。村の人達に見せて、安心させてあげないと。まあ少し刺激は強いでしょうけど」
「助けてーっ!!」

貴族は叫んだが、彼女は「何言ってるんですか」と非難する口調で言い返した。

「君に今まで食べられたお嬢さん達は、どんなに怖くても『助けて』って言う事すらできなかったんですよ?そもそも恐怖のあまりに声も出せなかったかもしれないのに」

彼女は「あ。そうそう」と手を打った。

「アベル様。ヴァチカン市国からいらしたんですよね?この貴族を斃したら、日本の大使館か領事館の連絡窓口をお教え頂けませんか?」
「何ですって?」

彼女は懸命に言い募った。

「私は日本人です。村に戻ればですけど、日本のパスポートをお見せできます。荷物を預かってもらっているので!」

アベルの顔色が変わった。信じられないものを見る顔付きになる。
次の瞬間、室内に2発の発砲音が響いた。目にも止まらぬ早撃ちをしたアベルが、貴族に弾丸を撃ち込んだのだ。

「『聖水』――硝酸銀溶液を撃ち込みました。これでしばらくは、この長生種の動きを封じる事ができます」

銃声に流石に飛び上がり、完全に意識を失った貴族を見やる彼女にアベルが発したのは、流暢な日本語であった。

アベルは痛みを堪えるような表情で、しかし真っ直ぐに彼女を見据える。

「お嬢さん。貴方にとても信じられない事をお話ししなければいけません」
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