『聖女』降臨〜数奇な運命〜

「あ、あの。本当によろしいんですか?聖女様」
「思い切りお願いします」

荒縄を手に戸惑う男衆に、彼女はきっぱりと頷いた。なお、彼女は既に『聖女』呼びを仕方ないと我が事として受け入れている。

「私は『その辺で適当に攫ってきた人身御供』という体でなければいけないので、本気で縛り上げて下さい。でないとリアリティ出ないので」
「で、では…失礼します」

男衆は頭を下げて、彼女を縛り上げにかかった。その前に「罰が当たらないかなあ」と、めいめいが胸の前で十字を切っていたが。

*

少し、時間を遡る。

「これでもう大丈夫です。ただ、念の為にしばらくはお医者に診せて下さい」

呼吸器無しで母の腕の中で目を瞬く幼子の姿に、村長達は「おお…!」「奇跡だ…!」と歓声を上げた。彼女は「奥方様達にも言った事ですが」と前置きする。

「ただし、人工呼吸器のスイッチ…電源はまだ切らないで下さい。向こうは電力の流れも管理しているはずです。いきなり電力の供給が必要無くなったとわかったら、怪しまれます」
「そういうものなのですね」

村長は頷いた。同時に「遺失技術ロストテクノロジーにもお詳しくていらっしゃるとは…」と唸る。

「失礼ですが、私がいなかったら人身御供になっていたお嬢さんは、どちらの方ですか?」
「うちの娘です」

男衆の中で最も若い男性が口を開いた。

「妻の忘れ形見と思い、ずっと男手一つで育ててきました。ですが、あの子が村で最後の若い娘に…」

彼女は「最後の1人になるまで追い込まれていたんですね」と、苦い顔で呟いた。答えた男性に歩み寄り、視線を合わせる。

「では、お嬢さんに大至急伝えて下さい。生贄になる必要は無いと。多分、お嬢さんはひどく怖がっているでしょうから」
「なんとお優しい…」

男性は目頭を押さえた。村長達は、奥方達に至るまで、感じ入った様子で胸の前で十字を切り、両手を組んだ。

「神よ。感謝致します」

彼女は「要するに『こういう巡り合わせを作ってくれた神様に感謝します』って事なんだろうな」と考えつつ、村長に視線を向けた。

「村長さん。人身御供を引き渡すのは何日の何時か、決まっていますか?」
「明日の夕方です」

彼女は「本当にぎりぎりだったんですね」と眉を寄せた。しかし表情を引っ込めて告げる。

「では、当日に人身御供を連れて行くいつものフォーメーション、貴族の名前や特徴、城の場所、皆さんが知りうる限りの吸血鬼ヴァンパイアの弱点をお教え下さい」
「は、はい!」

彼女は「何より!」と声を張る。

「吸血鬼がいるならヴァンパイアハンターがいるはずです。もうお孫さんという人質はいません。私が城に行く間に、ヴァンパイアハンターの機関だとかに問い合わせて、助けを求めるんです」
「しかし、教皇庁ヴァチカンの方々がこんな田舎に来て下さるか…」
「いいや!やってみないとわかりませんよ!」

村長の発言は気弱であったが、男衆の1人が声を上げた。つられたように「そうだ!」と口々に声が上がる。

「何もしない事には始まらない!」
「うちの孫の仇を取るんだ!」
血吸い野郎ブラッドサッカーに一矢報いてやる!」

熱狂しかけた室内だが、彼女が「皆さん!」と一声で一同を静めて、片手の人差し指を口の前に立てる。

「少なくとも、私が城に行くまでは、落ち着いていつも通りに過ごしましょう。全ては村の安全の為です」
「た、確かにそうですな」

村長は咳払いをした。男衆も顔を見合わせ口を噤む。彼女は腰に両手を当てて一同を見回した。

「全力は尽くしますよ。死ぬ、つまり食べられてしまうつもりは毛頭ありませんが、万が一を考えて、その道のプロを呼んで下さい。私も腹を括りますから、皆さんも腹括って下さい」

だが彼女は「あ!大事な事忘れてました!」と、唐突に声を上げた。驚く一同に、彼女は申し訳なさそうに告げる。

「向こうが所望するのは『若く美しい娘』ですから、私を差し出しても『好みじゃない。返品』って言われたら申し訳ないです」
『いえ。それは大丈夫だと思います』

一同の声が揃った。
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