『聖女』降臨〜数奇な運命〜

「お話は、大変よくわかりました」

彼女は「更にお辛い事を伺って申し訳ないですが」と前置きした。

「もし、村に少女と言える年齢の女の子がいなくなってしまったら、どうされるおつもりでしたか?」
「そ…それは…」

男衆は困った表情で顔を見合わせた。村長は、汗を拭きながら視線を忙しなく動かし、絞り出すように答える。

「人買いから買うか…最悪、攫ってくるしか無いかと…」
「お孫さんはお幾つですか?」
「3歳になったばかりです」

村長の息子の奥方。つまり初孫の母親が答えた。顔に疲れが見て取れるのは、人工呼吸器が必要な我が子の世話による疲労だけではないだろう。

彼女は「3年間もですか」と苦い顔で呻いた。しかし表情を引っ込めて「村長さん」と優しく呼びかける。

「お孫さん、自分の為に誰かが犠牲になったり、お祖父ちゃん達が人攫いに手を染めたりしたなんて知ったら、悲しみますよ?」

彼女は「もう一つ」と告げた。

「私が『その辺で適当に攫ってきた人身御供』という体で貴族の所に行くか、『道に迷った通りすがり』の振りをして貴族の所に行くか、どっちがいいですか?」
「え?」

疑問符を上げる村長達に、彼女は続けた。

「人身御供という体の場合、娘さんを差し出さないで済みますし、何より私が貴族に負けても時間稼ぎができます。尤も、『生贄が抵抗したんだけど』って向こうが文句を言ってきたら宥める必要はありますけど。道に迷った振りの場合は、私が負けても『この人の事は知りません』と知らぬ存ぜぬで通す、つまり村に被害を及ぼさない事が…」
「お、お待ち下さい聖女様!」

村長は、慌てて彼女を制止した。

「その、お引き受け下さるのですか…?」

彼女は、至極当然といった顔で瞬きをした。

「『ここで会ったのも何かの縁』って奴ですよ。何より、一飯の恩です。私みたいな得体の知れない人間に頼んでくるって事は、本当にお困りなんでしょうし、放っとけません」

村長達は「おお…!」と歓声を上げかけたが、彼女が「しっ!」と真面目くさった顔で、片手の人差し指を口の前に立てる。

「貴族の密偵にでも聞かれていたら大変です」
吸血鬼ヴァンパイア共は、陽のある内は動けません」

彼女は村長の言葉に「なるほど」と大きく頷いた。

「早速作戦会議と行きたい所ですが、その前にとても大事な事があります」
「大事な事?」

彼女は「とっても大事な事です」と村長に首肯して、村長の奥方と息子の奥方を見た。

「お子さんの所へ案内して下さい。呼吸器が必要な状態を治してみせます」
「こ、こちらです!」

彼女は小さく会釈をして一旦退室し、息子の奥方と村長の奥方に続いた。

「そうです。もう一つお伺いしたい事があるんでした」

怪訝そうに振り返る奥方達に、彼女は「凄く変な事を伺います」と前置きする。

「すみません。今は何年ですか?」
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