『聖女』降臨〜数奇な運命〜

上記の経緯で、彼女は教皇庁ヴァチカンへ足を踏み入れた。アベルからケイトを通してカテリーナにも彼女の情報が共有されていた為、カテリーナの執務の合間を縫い、直に顔を合わせる事と相なった。

「お初にお目にかかります。枢機卿猊下。『猊座』の程近くにおわす尊いお方にお会いでき、光栄でございます」

彼女は名乗り、それは丁寧なカーテシーと共に、カテリーナに敬意に満ちた挨拶をした。彼女の礼にカテリーナが感心した顔になる様子を、アベルは見た。

片眼鏡モノクルの奥の剃刀のような色の目を細め、綺麗にセットされた金髪をさらりと揺らし、正に『麗人』『世界で最も美しい枢機卿』と讃えられる由縁の表情で、カテリーナは口を開く。

「見事なカーテシーですね。貴方も、何処かの姫ですか?」
「とんでもありません。私は先祖代々平民でございます」

カテリーナ自身が押しも押されもせぬ名家の姫君であるので、このように彼女に問いかけた。

驚いた顔で首を横に振る彼女に、カテリーナとホログラムの状態で傍らに控えるケイトは、和やかなものを見る目で微笑みを交わし合う。

同じくカテリーナの傍らに控えるトレスも、「対象は危険な存在ではない模様だ」と、彼女を認識したようだった。

「ナイトロード神父から、貴方の勇敢な行いは聞いています。村人達の治療にも、無償で時間を割いたとか」
「『お礼を言うなら教皇庁の方に』と申し上げました」

カテリーナの言葉の間隙を縫うようにして、彼女はすかさず言った。

「さすれば、一般の方々の教皇庁に対する印象も芳しく、枢機卿猊下そして教皇聖下の御威光もいや増すかと」

カテリーナは「成る程」と頷く。

「…ナイトロード神父の報告書がやや遅れた事に関しては、貴方の行いに免じて大目に見ましょうね」

カテリーナは首を竦めるアベルを軽く睨め付けるが、その目は笑みを含んでいた。
彼女に対して至って好意的に、ある意味では『面接』と言える顔合わせは進んだ。結果、Axに所属する前提で、6ヶ月の特殊訓練課程にて適性を試すと決まった。

「お給料を頂きながら、この時代に関する勉強ができるのは、本当にありがたい事です」

彼女は、アベルの前で大真面目にこう言った。
尤も、彼女にとってのいわば『初任給』から数日も経たない内に、同じく給料日を経たにも関わらず早くも素寒貧となったアベルが、空腹のあまりに彼女の目の前で倒れるという騒ぎになった訳だが。

ここで、話は現在に戻る。
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