知ってしまった執事達
【おまけ】
「えー。今回の騒ぎで、フルーレ君の事を凄く傷付けてしまったと思います」
「いえそんな、傷付けたなんて!」
彼女の部屋に呼び出され椅子を勧められ座するフルーレは、「ごめんなさい」と頭を下げる彼女に慌てて両手を横に振った。彼女は頭を上げたものの、決まり悪げな顔をしていた。
「フルーレ君が『かっこよくありたい』と思ってるのは私も重々承知です。そんなフルーレ君を見た目も趣味も話も合うからってずっと側でお世話係をしてもらっていたから、フルーレ君的には複雑な気持ちにさせたかなと」
「え?俺の見た目や趣味が合う…ですか…?」
彼女は申し訳なさそうに「うん…」と頷いたが、はっとした様子で目を見開いた。
「あ!でももし今後フルーレ君の見た目が変わろうと、フルーレ君はフルーレ君だと思ってるよ!それこそトレーニングが実ってケンシロウの如き体躯になろうとも!」
「『けんしろー』?」
「筋骨隆々になってもって事だよ!あと何か声が凄く野太くなって髭とか生えたりしても!」
「主様。俺は悪魔執事ですので、流石にそこまでの変化は無いと思います」
彼女が真面目に言っている事はわかるので、フルーレも真面目に返す。彼女は「あーつまり何が言いたいかって言うと」と呻いた。
「フルーレ君が『かっこよくいたい』って気持ちは勿論尊重したいし、それと一緒に私の世界のファッション史の話をするとか作ってくれる服とかしてくれるメイクとか大好きだから、『主と執事』だし対等にってのは無理でも、これからも楽しく話せる間柄でいられればって事!」
「俺の服やメイクがお好き…?」
「そりゃあもう!」
彼女は真顔で大きく頷いた。フルーレは、顔がじわじわと熱くなっていく事を自覚した。
「あ!そっか!『執事』がいるような文化圏の基準だと『貴人は手を動かさない』ものなんだろうね!」
初めて会った時。フルーレが「お召し替えのお手伝いを致します」と申し出た際に、彼女はこう言った。
「でも私は一般人…庶民の出だから、着替えだとか『自分の事は自分で』って教えられているんだ」
フルーレが作った服を見やって、彼女はあくまでも『頼む』姿勢で続けた。
「ただ…凄く素敵な服だけど初めて着るタイプの服だから、着方だとかがわからないかもしれない。基本は自分で着替えるつもりだけど、一人だと難しい所を手伝ってもらってもいいかな?」
「かしこまりました」
このように、自己主張はしつつも譲歩そして歩み寄りの姿勢を見せてくれるのが彼女だった。
女性であるこの主に、『女性であるからこそ』のお洒落を自分の手で施せる事を、フルーレは誇りに思っていた。
「わあ!信じられない!これが私?お洒落ってこんなに素敵な気持ちになれるんだね!フルーレ君、ありがとう!」
このように、彼女は毎回手放しで褒めてくれるしお礼も言ってくれるが、フルーレが施すお洒落が好きだと改めて面と向かって言われると、例えようもない嬉しさが込み上げてくる。
「香りもファッションの一つ…ですか?」
「うん。私の世界の私の国では…1000年以上前からになるかな。季節とか、行事とか、その日の着る物とかに合わせた『お香』…香水よりもアロマに近いかな?を服に『焚き染める』事も、お洒落の一つだったんだ」
彼女の世界は無論だが、彼女の国の独特のファッションも興味深かった。フルーレが問うと、彼女は快く答えてくれた。楽しい時間であり、フルーレが愛するひと時であった。
それらに他ならぬ主も好意を示してくれた。好きでやっている事ながら、全てが報われた気持ちになった。
「なら俺は、これからも主様のお召し物とメイクを担当する者として、勤めを果たしていきます!」
フルーレは胸を満たす思いのままに、にっこりと笑って片手を胸に当てた。
「専属執事の順番が俺に回ってきたら、また主様のお国のファッションのお話を聞かせて下さい!」
「うん!私も楽しみにしてるね!専属執事を交代制にする話、受けてくれてありがとう!」
執事としては主の言葉に従うのは当然なのだが、こうしてわざわざお礼を言う所も彼女が彼女たる所以である。
彼女はこれまた「来てくれてありがとう」と言って話を切り上げた。椅子から腰を上げたフルーレは恭しく一礼し、主の部屋から退室した。自分は主にとって特別な所もあると、少しは自惚れてもいいかもしれないと思いながら。
「えー。今回の騒ぎで、フルーレ君の事を凄く傷付けてしまったと思います」
「いえそんな、傷付けたなんて!」
彼女の部屋に呼び出され椅子を勧められ座するフルーレは、「ごめんなさい」と頭を下げる彼女に慌てて両手を横に振った。彼女は頭を上げたものの、決まり悪げな顔をしていた。
「フルーレ君が『かっこよくありたい』と思ってるのは私も重々承知です。そんなフルーレ君を見た目も趣味も話も合うからってずっと側でお世話係をしてもらっていたから、フルーレ君的には複雑な気持ちにさせたかなと」
「え?俺の見た目や趣味が合う…ですか…?」
彼女は申し訳なさそうに「うん…」と頷いたが、はっとした様子で目を見開いた。
「あ!でももし今後フルーレ君の見た目が変わろうと、フルーレ君はフルーレ君だと思ってるよ!それこそトレーニングが実ってケンシロウの如き体躯になろうとも!」
「『けんしろー』?」
「筋骨隆々になってもって事だよ!あと何か声が凄く野太くなって髭とか生えたりしても!」
「主様。俺は悪魔執事ですので、流石にそこまでの変化は無いと思います」
彼女が真面目に言っている事はわかるので、フルーレも真面目に返す。彼女は「あーつまり何が言いたいかって言うと」と呻いた。
「フルーレ君が『かっこよくいたい』って気持ちは勿論尊重したいし、それと一緒に私の世界のファッション史の話をするとか作ってくれる服とかしてくれるメイクとか大好きだから、『主と執事』だし対等にってのは無理でも、これからも楽しく話せる間柄でいられればって事!」
「俺の服やメイクがお好き…?」
「そりゃあもう!」
彼女は真顔で大きく頷いた。フルーレは、顔がじわじわと熱くなっていく事を自覚した。
「あ!そっか!『執事』がいるような文化圏の基準だと『貴人は手を動かさない』ものなんだろうね!」
初めて会った時。フルーレが「お召し替えのお手伝いを致します」と申し出た際に、彼女はこう言った。
「でも私は一般人…庶民の出だから、着替えだとか『自分の事は自分で』って教えられているんだ」
フルーレが作った服を見やって、彼女はあくまでも『頼む』姿勢で続けた。
「ただ…凄く素敵な服だけど初めて着るタイプの服だから、着方だとかがわからないかもしれない。基本は自分で着替えるつもりだけど、一人だと難しい所を手伝ってもらってもいいかな?」
「かしこまりました」
このように、自己主張はしつつも譲歩そして歩み寄りの姿勢を見せてくれるのが彼女だった。
女性であるこの主に、『女性であるからこそ』のお洒落を自分の手で施せる事を、フルーレは誇りに思っていた。
「わあ!信じられない!これが私?お洒落ってこんなに素敵な気持ちになれるんだね!フルーレ君、ありがとう!」
このように、彼女は毎回手放しで褒めてくれるしお礼も言ってくれるが、フルーレが施すお洒落が好きだと改めて面と向かって言われると、例えようもない嬉しさが込み上げてくる。
「香りもファッションの一つ…ですか?」
「うん。私の世界の私の国では…1000年以上前からになるかな。季節とか、行事とか、その日の着る物とかに合わせた『お香』…香水よりもアロマに近いかな?を服に『焚き染める』事も、お洒落の一つだったんだ」
彼女の世界は無論だが、彼女の国の独特のファッションも興味深かった。フルーレが問うと、彼女は快く答えてくれた。楽しい時間であり、フルーレが愛するひと時であった。
それらに他ならぬ主も好意を示してくれた。好きでやっている事ながら、全てが報われた気持ちになった。
「なら俺は、これからも主様のお召し物とメイクを担当する者として、勤めを果たしていきます!」
フルーレは胸を満たす思いのままに、にっこりと笑って片手を胸に当てた。
「専属執事の順番が俺に回ってきたら、また主様のお国のファッションのお話を聞かせて下さい!」
「うん!私も楽しみにしてるね!専属執事を交代制にする話、受けてくれてありがとう!」
執事としては主の言葉に従うのは当然なのだが、こうしてわざわざお礼を言う所も彼女が彼女たる所以である。
彼女はこれまた「来てくれてありがとう」と言って話を切り上げた。椅子から腰を上げたフルーレは恭しく一礼し、主の部屋から退室した。自分は主にとって特別な所もあると、少しは自惚れてもいいかもしれないと思いながら。
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