知ってしまった執事達
「ちょ、どうしたんすか!?」
そろそろ主様のお帰りの時間だと庭に出て花の手入れがてら待っていたアモンは、会議から戻り馬車から降りてきたナック達の様子を見て慌てて駆け寄った。正に顔面蒼白。青息吐息のナック達に。
「まさかまた何か厄介ごとっすか!?」
「…主様が」
「主様に何かあったんですか!?」
同じくアモンを手伝いながら主の帰宅を待っていたムーもいち早く反応した。天使の出現とはまた異なるただならぬ気配に、他の悪魔執事達も何だ何だと出てくる。ナックが震える声で言葉を紡いだ。
その日、Devil’s Palaceに激震が走った。
「そ…そんな」
「…それは確かなのかい?ナック?」
まるで操り人形の如く力無く頷くナックに、悪魔執事達はいたくショックを受けた。
「…主様が、オレ達みたいな男が苦手…?」
そう。彼等が敬愛する他ならぬ主が、成人した男性が実は苦手だと知ってしまったからだ。同時に気付きもした。ビスクドールの如き繊細で愛らしい外見の持ち主であるからこそ、フルーレは主のお気に入りの専属執事なのだと。『かっこいい男』でありたいフルーレとしては、誠に複雑な心境ではあったが。
「ただいま〜!あれ?皆どうしたの?何かあった?」
タイミングがいいのか悪いのか、屋敷へ戻ってきた主。即ちこのDevil’s Palaceの女主人たる彼女は、執事達の雰囲気の異変に気付いた。
やたらと重い空気は、まるでお通夜と告別式を掛け持ちしたようではないか。尤も、このような表現は文化圏が全く異なる悪魔執事達には通じないし、そもそも意味がわかったらわかったで悪魔執事達を相手には冗談にもならないので、彼女は決して口に出さないが。
悪魔執事達がこのような雰囲気になる心当たりは限られている。天使あるいは貴族に関わるトラブルかと彼女は思い当たった。丁度近くにいたボスキに事情を聞こうと近付くものの咄嗟に距離を取られ、彼女は「ボスキ…?」と怪訝な顔をする。
「…あー。悪い。主様。その…今までずっと、無理させてたんだな」
「え?なになに?一体何の話?」
「…今日のグロバナー家の会議で、主様と親しいご令嬢からお伺いしたのです。主様は本当は、私達のような大きな大人の男が苦手でいらっしゃると」
「あ…ああ!?」
ナックが告げた言葉の心当たりに、彼女は目を見開いた。
いつであったかの夜会での事だ。意気投合した令嬢に「私は実は大人の男の人が苦手で」と話した事があった。一体何の拍子かはわからないが、令嬢はそれを会議の為にグロバナー家を訪れていたナック達にこぼしてしまったらしい。意気消沈して帰ってきたナック達に、何事かと尋ねた他の執事達にも話が伝わり、この状況という訳だ。
「申し訳ありませんでした…。主様…。まさか私が『いる』だけで主様を怖がらせていたとはつゆ知らず…」
必死に涙をこらえる様子でユーハンが出てきた。
「ですが私は、例え主様のお側に上がる事が叶わずとも、主様の執事として、これからも誠心誠意お仕えして参ります…!」
言ってユーハンは顔を覆ってしまった。ハナマルとテディがそれぞれ「ユーハン!」「ユーハンさん!」と宥めにかかる。
「先を越されちまったが、俺も同じだ。主様」
頭にやっていた片手を胸に当てて、ボスキは言った。
「これからは、主様の視界になるべく入らないように努力する。ただ…これだけは許してくれ。主様に怖がられようと、主様にお仕えしたいのは皆同じなんだ。これからも側にいさせて欲しい」
「いやいやいや!そこまで思い詰めなくていいよ!」
彼女は慌てて大きく手を振った。
「確かに私は大人の男の人が苦手だけど、執事の皆は別だってば!『大人の男性だから』って括りで一緒くたにしてないし!皆は私の大事な仲間だよ!だからこれからも今まで通り接してよ!そんな寂しい事言わなくていいから!なんかごめんね!?」
「本当かい…?」
ミヤジがおずおずと出てきた。
「私達がいても、主様は怖い思いをしないで済むかい?」
ルカスも控えめに顔を出してきた。彼女は「本当本当」と幾度も頷く。
「あー、お世話してくれるからって甘えてフルーレ君を専属にしたままだった私も悪い!ごめんフルーレ君!」
「い、いえ!主様が謝られる事では!」
彼女の荷物を持っていたフルーレは、慌ててフォローを入れた。
「あの!だったら、主様の専属執事を皆さんで交代でやるのはどうでしょうか!」
「ムーちゃんありがとう!ナイスアイデア!」
黒い前脚を挙げるムーの発言を、彼女はすぐさま採用した。
「フルーレ君に問題がある訳じゃなくて!これは私が皆に慣れて、なおかつ私は皆を怖くないって証明する為に必要な事だからね!いきなりで悪いけど、これから専属執事は交代制にします!メインの仕事の都合もあるから、皆で考えて決めて欲しいな!」
執事達は一様に表情を明るくした。
「それじゃあボク達、主様のお側にいていいって事なんですね!リボン君に負けないくらい、主様をバッチリお世話します!」
「クフフ。フルーレ。如何に弟と言えど、主様のお気に入りの座を明け渡すつもりはありませんよ?」
「いやだから、俺は弟じゃないってば!」
かけあいに「また始まったよ」と笑いが起きる。
「そうだ!ここはくじ!くじで決めましょうよ!ちょっと作ってきます!」
「では私は、皆さんの仕事の一覧表をお持ちしますね」
フェネスとベリアンがそれぞれ急ぎ足で退室する。すっかりいつもの調子に戻った執事達の様子に彼女は、ムーに「アイデアありがとうね」と耳打ちする。ムーは「お役に立てて嬉しいです!」と、誇らしげに尻尾を立てたのであった。
そろそろ主様のお帰りの時間だと庭に出て花の手入れがてら待っていたアモンは、会議から戻り馬車から降りてきたナック達の様子を見て慌てて駆け寄った。正に顔面蒼白。青息吐息のナック達に。
「まさかまた何か厄介ごとっすか!?」
「…主様が」
「主様に何かあったんですか!?」
同じくアモンを手伝いながら主の帰宅を待っていたムーもいち早く反応した。天使の出現とはまた異なるただならぬ気配に、他の悪魔執事達も何だ何だと出てくる。ナックが震える声で言葉を紡いだ。
その日、Devil’s Palaceに激震が走った。
「そ…そんな」
「…それは確かなのかい?ナック?」
まるで操り人形の如く力無く頷くナックに、悪魔執事達はいたくショックを受けた。
「…主様が、オレ達みたいな男が苦手…?」
そう。彼等が敬愛する他ならぬ主が、成人した男性が実は苦手だと知ってしまったからだ。同時に気付きもした。ビスクドールの如き繊細で愛らしい外見の持ち主であるからこそ、フルーレは主のお気に入りの専属執事なのだと。『かっこいい男』でありたいフルーレとしては、誠に複雑な心境ではあったが。
「ただいま〜!あれ?皆どうしたの?何かあった?」
タイミングがいいのか悪いのか、屋敷へ戻ってきた主。即ちこのDevil’s Palaceの女主人たる彼女は、執事達の雰囲気の異変に気付いた。
やたらと重い空気は、まるでお通夜と告別式を掛け持ちしたようではないか。尤も、このような表現は文化圏が全く異なる悪魔執事達には通じないし、そもそも意味がわかったらわかったで悪魔執事達を相手には冗談にもならないので、彼女は決して口に出さないが。
悪魔執事達がこのような雰囲気になる心当たりは限られている。天使あるいは貴族に関わるトラブルかと彼女は思い当たった。丁度近くにいたボスキに事情を聞こうと近付くものの咄嗟に距離を取られ、彼女は「ボスキ…?」と怪訝な顔をする。
「…あー。悪い。主様。その…今までずっと、無理させてたんだな」
「え?なになに?一体何の話?」
「…今日のグロバナー家の会議で、主様と親しいご令嬢からお伺いしたのです。主様は本当は、私達のような大きな大人の男が苦手でいらっしゃると」
「あ…ああ!?」
ナックが告げた言葉の心当たりに、彼女は目を見開いた。
いつであったかの夜会での事だ。意気投合した令嬢に「私は実は大人の男の人が苦手で」と話した事があった。一体何の拍子かはわからないが、令嬢はそれを会議の為にグロバナー家を訪れていたナック達にこぼしてしまったらしい。意気消沈して帰ってきたナック達に、何事かと尋ねた他の執事達にも話が伝わり、この状況という訳だ。
「申し訳ありませんでした…。主様…。まさか私が『いる』だけで主様を怖がらせていたとはつゆ知らず…」
必死に涙をこらえる様子でユーハンが出てきた。
「ですが私は、例え主様のお側に上がる事が叶わずとも、主様の執事として、これからも誠心誠意お仕えして参ります…!」
言ってユーハンは顔を覆ってしまった。ハナマルとテディがそれぞれ「ユーハン!」「ユーハンさん!」と宥めにかかる。
「先を越されちまったが、俺も同じだ。主様」
頭にやっていた片手を胸に当てて、ボスキは言った。
「これからは、主様の視界になるべく入らないように努力する。ただ…これだけは許してくれ。主様に怖がられようと、主様にお仕えしたいのは皆同じなんだ。これからも側にいさせて欲しい」
「いやいやいや!そこまで思い詰めなくていいよ!」
彼女は慌てて大きく手を振った。
「確かに私は大人の男の人が苦手だけど、執事の皆は別だってば!『大人の男性だから』って括りで一緒くたにしてないし!皆は私の大事な仲間だよ!だからこれからも今まで通り接してよ!そんな寂しい事言わなくていいから!なんかごめんね!?」
「本当かい…?」
ミヤジがおずおずと出てきた。
「私達がいても、主様は怖い思いをしないで済むかい?」
ルカスも控えめに顔を出してきた。彼女は「本当本当」と幾度も頷く。
「あー、お世話してくれるからって甘えてフルーレ君を専属にしたままだった私も悪い!ごめんフルーレ君!」
「い、いえ!主様が謝られる事では!」
彼女の荷物を持っていたフルーレは、慌ててフォローを入れた。
「あの!だったら、主様の専属執事を皆さんで交代でやるのはどうでしょうか!」
「ムーちゃんありがとう!ナイスアイデア!」
黒い前脚を挙げるムーの発言を、彼女はすぐさま採用した。
「フルーレ君に問題がある訳じゃなくて!これは私が皆に慣れて、なおかつ私は皆を怖くないって証明する為に必要な事だからね!いきなりで悪いけど、これから専属執事は交代制にします!メインの仕事の都合もあるから、皆で考えて決めて欲しいな!」
執事達は一様に表情を明るくした。
「それじゃあボク達、主様のお側にいていいって事なんですね!リボン君に負けないくらい、主様をバッチリお世話します!」
「クフフ。フルーレ。如何に弟と言えど、主様のお気に入りの座を明け渡すつもりはありませんよ?」
「いやだから、俺は弟じゃないってば!」
かけあいに「また始まったよ」と笑いが起きる。
「そうだ!ここはくじ!くじで決めましょうよ!ちょっと作ってきます!」
「では私は、皆さんの仕事の一覧表をお持ちしますね」
フェネスとベリアンがそれぞれ急ぎ足で退室する。すっかりいつもの調子に戻った執事達の様子に彼女は、ムーに「アイデアありがとうね」と耳打ちする。ムーは「お役に立てて嬉しいです!」と、誇らしげに尻尾を立てたのであった。
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