やっちゃったわ
この話はsyudouさまのボカロ曲
「ビター/チョコ/レート/デコレーション」
https://youtu.be/XCyKJD6uQygsi=DWiZD9oJQLdGUe6N
にインスパイアを受けて?まんま引っ張られて書きました。
曲のイメージとちがったらごめんなさい(_ _;)
ひとのことは信じるようにでも、過度に信じすぎないように。
特定の誰かを愛さないように、偏らないで平等になるように。
でも、角をたてないように笑って見せて。
気取られないようにやってきた。
「はぁ、どこで間違ったんだ……」
紙袋とカバンを短いアパルトメントの廊下兼キッチンに投げ出して。
脱いだコートを床に落として、重たい足取りでソファにへたり込む。
たるんだタイを引抜き、掛けていたメガネをローテーブルに放った。
博士やみんなに貰ったモラトリアムで大学まで出させて貰って、十数年振りに救世主業に集中することになった。
無我夢中で駆け抜けてあっという間にもう十数年。
気がつけば世界は少しずつ変わってきた。
一方で自分自身も変わってしまったと痛感するのは真吾本人。
黒悪魔の残党は各界のあちらこちらにいるし、種族間の揉め事もまだまだある。
けれどそれらにあたるのは使徒の誰かや賛同者だったり、皆が口を揃えて、
「悪魔くんは安全なところで」
と、言うのだ。
さりとて、安全なところでする事と言えば会議、会合、パーティ、講演とどこかの偉い他人との顔合わせばかりで。
無駄に自我を晒さず、本心を悟られぬように。
でも、口は閉ざさず、リップサーヴィスのひとつでも。
相手を敬い、時には口先だけでも崇め奉り。
自分は決して威張らず、笑って愛嬌振り撒いて。
その結果、頭の中がカラッポになったように感じる訳で。
「……僕だって、無理に前線に立ちたいとかワガママ言いたいわけじゃなくって」
そうつぶやきながら鉛のような躯体に鞭打って、キッチンへ戻る。
小さな冷蔵庫を開けるもアルコールの他は調味料くらいしかない。
抱えられるだけの缶と放り出した紙袋を持って電気もつけていないリビングへ戻った。
プルタブを引くと軽快な音がして、溢れた泡を啜る。
「ただ、なんの為にやってるのか実感がどんどん希薄になるんだよな……」
ぐいぐいとビールを中ほどまで煽ってから、紙袋を逆さにする。
ラッピングされた小さな包みがテーブルの上に山を作った。
「悪魔界も天界も人間界に悪い意味で毒されちゃって」
聞くものもいないと分かりきってひとり愚痴る。
賄賂どころか付け届けなども一切受け付けぬ真吾が唯一受け取るものが『義理チョコ』と知られてしまいこの時期は断っても断っても届くのだ。
人間界の友人・知人からのを学生時代に断らなかった自分もいけないのだが。
大概は見えない学校へ持って行き、然るべき地域や施設へ配らせて貰ってはいる。
けれど、久しぶりに帰宅したら自宅に届いていた分を今から持って行くには疲れ過ぎていた。
「あぁ、呪文、呪文……」
人差し指を立てて、省略した呪文を唱えるとチョコレートの山がぼんやりと光る。
「これとこれは悪魔界産か、他に人体に有毒なのはないな」
赤く光ったのだけを紙袋に戻して、大学の同級生などが差し出し人の埋れ木真吾個人宛と思われるのものだけ数箱開ける。
色や形は様々だけどチョコレートはチョコレートだ。
甘味に疎い真吾にはどれも同じに見える。
一口サイズのものを口に放り込んで、あまりの甘さにビールで流し込んだ。
「甘いんだか、苦いんだか」
独りごちて、またビールを呷った。
テレビには真吾にはまったくわからない人間界の流行情報で、耳に入らず滑り落ちて行く。
でも、深夜の静寂は独り身に耐え難いのでつけてしまう。
画面右上の時刻を見れば、深夜のニュースの時間だけれど今日は見る気になれず。
皆が望む理想に憧れて。
個性や情は後回しにして。
欲やエゴは持たないように、出さないように。
「いや、僕の理想だし、僕の好き勝手だし」
最後のビールを飲み干して缶を潰す。
脱いだジャケットのポケットをまさぐるも、タバコの箱はカラッポで。
そうなると余計に欲しいものの、この寒い中を買いに行くのもしんどい。
「あぁ、これを期に禁煙もいいな」
そう嘯いてウィスキーだのジンの瓶を抱えた。
グラスの氷を揺らして注ぐとロックで呷る。
「食わず嫌いはダメだし」
チョコレートをひとつ摘んで、また呷った。
「大言壮語って言われないようにちゃんとしないとだし」
また一口食べて、グラスを呷る。
「気持ちだけは子どものころのまま、やってこう!」
両頬をぱん、と叩いたものの残ったのは痛みだけで。
「……こういうのは、素面んときにしなきゃね」
我に返ってまたグラスを干した。
「……あぁ、いるかな、いるよな」
ぶつぶつ言いながら立ち上がるとベランダの戸を開ける。
「……ごめん、誰かいる?」
近所迷惑にならない声で上へと声を掛けた。
頭に浮かんだメンツは妖虎かユルグ、メフィスト二世。
「ごめん、起きてたら……」
「寝てたら警護にならねぇだろ」
「わ……っ」
ばっさり、とマントを翻して逆さまの二世が現れて思わず驚く。
「いつも声なんか掛けねえのに、いったいどうした?」
「いやぁ、あの……っ」
「タバコだぁ、ふざけてんのか……?!」
ソファにどっかり、と腰を下ろした二世にグラスを勧める。
「ツマミはチョコしかないけど」
紙袋から分けてあった悪魔界産のチョコレートを二世の前に置いた。
「こんなのロックで飲んでんのか?」
「やぁ、ビール切れたし割りしろもなかったから」
苦笑して真吾も腰を下ろすとさっと左手を出す。
「ん」
一本咥えてから箱を手向けると真吾も引抜いて咥えたところへ二世がライターを差し出した。
「ん、ありがとう」
深く吸い込んで真吾が笑う。
「今日の警護がメフィスト二世、君で良かったよ」
「あぁ?」
「うん、銘柄が同じだからさ」
紫煙と共に飲み干して笑う。
「ユルグか妖虎でも良かったんだけど……っ」
がたんっ、と二世がグラスをテーブルに叩きつける勢いで置いた。
「煙管はキツいから……て、どうしたの?」
「別に」
ふい、と真吾の視線を逸してチョコレートを口に放り込んでいる。
空になったグラスに手元の瓶から酒を注ぐと、小さくなった氷が小さく音を立てた。
「まぁ、君とゆっくりと話すのも何年ぶりだっけ?」
「……五年振り」
「そうそう!蓬莱島に強制集合させられた時だった」
苦笑しながらグラスを干して自分のと二世の前のに注ごうとして、止められる。
「ん?君、まだいけるよね?」
「護衛が酔っ払ってどうすんだよ」
「誰も来ないし、君は強いって妖虎に聞いてるよ」
白手袋を押し退けて、なみなみと注ぎ入れた。
「一人だと飲み過ぎちゃうから付き合ってよ」
「……仕方ねぇな」
眉間に思いっきり皺を寄せてそう言うとグラスの縁から盛り上がった分を舐めて一言。
「違う酒、混ぜんなよ……」
兎に角、なんでも咀嚼して。
食わず嫌いはいけません。
「まぁ、どんだけ空っぽになっても残るだろうな」
氷が溶けて薄くなったグラスを床にずり落ちて啜りながら呟くと、
「何が残んだって?」
ソファの上からがっしりと頭を掴まれた。
「んー、僕の本質」
言いながら自分のと二世のグラスに次の酒を注ぐ。
「そういえば、最近はソロモンの笛も吹く機会ないな」
「平和でいいじゃねえか」
口を曲げきって二世がグラスを傾けた。
「僕に火の粉が届かないだけで争いは減ってないよ」
「そりゃそうだ」
リモコンを取ると、ワールドニュースに切り替える。
テレビのほうで気を利かせたかのように、紛争に関するニュースが流れていた。
「例えば、さ」
「うん?」
「僕が今、あそこに駆けつけたとするでしょう?」
言いながらしわくちゃになったシャツに包まれた腕を伸ばす。
「君らの力を借りてその場の戦闘を止めても、また翌日には元に戻っちゃうから」
「根本を絶たねえと解決しねぇよ」
「うん、そこの原因と暴力の絡まったのをどうにかしないとね」
鼻をひとつすすっ手から、グラスを呷る。
「先ずは、僕が抑止力にならないと」
それだけ言って両頬をはたく。
皆が望むはずの自分の理想に焦がれて。
個性や欲やエゴは焼き払って土に埋めて。
「あぁ、明日はきっと何処までも続くんだよなぁ」
わかっていても、つい天井仰いで独りごちる。
「へっ」
鼻で笑った二世の手袋の滑らかな指先が頬を撫でた。
「嫌んなったって言ったって、明日になればいつもの悪魔くんに『なる』んだろ」
「まぁね」
「かわいいほっぺたが朱くなっちまって、甘いもん食って忘れちまえよ」
頬をぐい、と引っ張られてチョコレートを突っ込まれる。
「ひゃわい、とかきみ酔ってる?」
「こんくらいで大したことねぇよ」
そう言って空にしたグラスを突き出したので適当な瓶を掴んだ。
アルコールで満たしたグラスをどちらともなく合わせると、濁った音がする。
「Cheer!」
「乾杯……バレンタインなのに、君と二人とか」
「……十三年ぶりだな」
「へ……?」
「空いた」
再び空になったグラスを振ったので、
「まだ、なんかあったっけ?」
と、テーブルの上の瓶を物色していると声が掛かる。
「ところで……やっぱ、いいわ」
それだけ言うと、これみよがしに煙を吐き出して笑った。
「ビター/チョコ/レート/デコレーション」
https://youtu.be/XCyKJD6uQygsi=DWiZD9oJQLdGUe6N
にインスパイアを受けて?まんま引っ張られて書きました。
曲のイメージとちがったらごめんなさい(_ _;)
ひとのことは信じるようにでも、過度に信じすぎないように。
特定の誰かを愛さないように、偏らないで平等になるように。
でも、角をたてないように笑って見せて。
気取られないようにやってきた。
「はぁ、どこで間違ったんだ……」
紙袋とカバンを短いアパルトメントの廊下兼キッチンに投げ出して。
脱いだコートを床に落として、重たい足取りでソファにへたり込む。
たるんだタイを引抜き、掛けていたメガネをローテーブルに放った。
博士やみんなに貰ったモラトリアムで大学まで出させて貰って、十数年振りに救世主業に集中することになった。
無我夢中で駆け抜けてあっという間にもう十数年。
気がつけば世界は少しずつ変わってきた。
一方で自分自身も変わってしまったと痛感するのは真吾本人。
黒悪魔の残党は各界のあちらこちらにいるし、種族間の揉め事もまだまだある。
けれどそれらにあたるのは使徒の誰かや賛同者だったり、皆が口を揃えて、
「悪魔くんは安全なところで」
と、言うのだ。
さりとて、安全なところでする事と言えば会議、会合、パーティ、講演とどこかの偉い他人との顔合わせばかりで。
無駄に自我を晒さず、本心を悟られぬように。
でも、口は閉ざさず、リップサーヴィスのひとつでも。
相手を敬い、時には口先だけでも崇め奉り。
自分は決して威張らず、笑って愛嬌振り撒いて。
その結果、頭の中がカラッポになったように感じる訳で。
「……僕だって、無理に前線に立ちたいとかワガママ言いたいわけじゃなくって」
そうつぶやきながら鉛のような躯体に鞭打って、キッチンへ戻る。
小さな冷蔵庫を開けるもアルコールの他は調味料くらいしかない。
抱えられるだけの缶と放り出した紙袋を持って電気もつけていないリビングへ戻った。
プルタブを引くと軽快な音がして、溢れた泡を啜る。
「ただ、なんの為にやってるのか実感がどんどん希薄になるんだよな……」
ぐいぐいとビールを中ほどまで煽ってから、紙袋を逆さにする。
ラッピングされた小さな包みがテーブルの上に山を作った。
「悪魔界も天界も人間界に悪い意味で毒されちゃって」
聞くものもいないと分かりきってひとり愚痴る。
賄賂どころか付け届けなども一切受け付けぬ真吾が唯一受け取るものが『義理チョコ』と知られてしまいこの時期は断っても断っても届くのだ。
人間界の友人・知人からのを学生時代に断らなかった自分もいけないのだが。
大概は見えない学校へ持って行き、然るべき地域や施設へ配らせて貰ってはいる。
けれど、久しぶりに帰宅したら自宅に届いていた分を今から持って行くには疲れ過ぎていた。
「あぁ、呪文、呪文……」
人差し指を立てて、省略した呪文を唱えるとチョコレートの山がぼんやりと光る。
「これとこれは悪魔界産か、他に人体に有毒なのはないな」
赤く光ったのだけを紙袋に戻して、大学の同級生などが差し出し人の埋れ木真吾個人宛と思われるのものだけ数箱開ける。
色や形は様々だけどチョコレートはチョコレートだ。
甘味に疎い真吾にはどれも同じに見える。
一口サイズのものを口に放り込んで、あまりの甘さにビールで流し込んだ。
「甘いんだか、苦いんだか」
独りごちて、またビールを呷った。
テレビには真吾にはまったくわからない人間界の流行情報で、耳に入らず滑り落ちて行く。
でも、深夜の静寂は独り身に耐え難いのでつけてしまう。
画面右上の時刻を見れば、深夜のニュースの時間だけれど今日は見る気になれず。
皆が望む理想に憧れて。
個性や情は後回しにして。
欲やエゴは持たないように、出さないように。
「いや、僕の理想だし、僕の好き勝手だし」
最後のビールを飲み干して缶を潰す。
脱いだジャケットのポケットをまさぐるも、タバコの箱はカラッポで。
そうなると余計に欲しいものの、この寒い中を買いに行くのもしんどい。
「あぁ、これを期に禁煙もいいな」
そう嘯いてウィスキーだのジンの瓶を抱えた。
グラスの氷を揺らして注ぐとロックで呷る。
「食わず嫌いはダメだし」
チョコレートをひとつ摘んで、また呷った。
「大言壮語って言われないようにちゃんとしないとだし」
また一口食べて、グラスを呷る。
「気持ちだけは子どものころのまま、やってこう!」
両頬をぱん、と叩いたものの残ったのは痛みだけで。
「……こういうのは、素面んときにしなきゃね」
我に返ってまたグラスを干した。
「……あぁ、いるかな、いるよな」
ぶつぶつ言いながら立ち上がるとベランダの戸を開ける。
「……ごめん、誰かいる?」
近所迷惑にならない声で上へと声を掛けた。
頭に浮かんだメンツは妖虎かユルグ、メフィスト二世。
「ごめん、起きてたら……」
「寝てたら警護にならねぇだろ」
「わ……っ」
ばっさり、とマントを翻して逆さまの二世が現れて思わず驚く。
「いつも声なんか掛けねえのに、いったいどうした?」
「いやぁ、あの……っ」
「タバコだぁ、ふざけてんのか……?!」
ソファにどっかり、と腰を下ろした二世にグラスを勧める。
「ツマミはチョコしかないけど」
紙袋から分けてあった悪魔界産のチョコレートを二世の前に置いた。
「こんなのロックで飲んでんのか?」
「やぁ、ビール切れたし割りしろもなかったから」
苦笑して真吾も腰を下ろすとさっと左手を出す。
「ん」
一本咥えてから箱を手向けると真吾も引抜いて咥えたところへ二世がライターを差し出した。
「ん、ありがとう」
深く吸い込んで真吾が笑う。
「今日の警護がメフィスト二世、君で良かったよ」
「あぁ?」
「うん、銘柄が同じだからさ」
紫煙と共に飲み干して笑う。
「ユルグか妖虎でも良かったんだけど……っ」
がたんっ、と二世がグラスをテーブルに叩きつける勢いで置いた。
「煙管はキツいから……て、どうしたの?」
「別に」
ふい、と真吾の視線を逸してチョコレートを口に放り込んでいる。
空になったグラスに手元の瓶から酒を注ぐと、小さくなった氷が小さく音を立てた。
「まぁ、君とゆっくりと話すのも何年ぶりだっけ?」
「……五年振り」
「そうそう!蓬莱島に強制集合させられた時だった」
苦笑しながらグラスを干して自分のと二世の前のに注ごうとして、止められる。
「ん?君、まだいけるよね?」
「護衛が酔っ払ってどうすんだよ」
「誰も来ないし、君は強いって妖虎に聞いてるよ」
白手袋を押し退けて、なみなみと注ぎ入れた。
「一人だと飲み過ぎちゃうから付き合ってよ」
「……仕方ねぇな」
眉間に思いっきり皺を寄せてそう言うとグラスの縁から盛り上がった分を舐めて一言。
「違う酒、混ぜんなよ……」
兎に角、なんでも咀嚼して。
食わず嫌いはいけません。
「まぁ、どんだけ空っぽになっても残るだろうな」
氷が溶けて薄くなったグラスを床にずり落ちて啜りながら呟くと、
「何が残んだって?」
ソファの上からがっしりと頭を掴まれた。
「んー、僕の本質」
言いながら自分のと二世のグラスに次の酒を注ぐ。
「そういえば、最近はソロモンの笛も吹く機会ないな」
「平和でいいじゃねえか」
口を曲げきって二世がグラスを傾けた。
「僕に火の粉が届かないだけで争いは減ってないよ」
「そりゃそうだ」
リモコンを取ると、ワールドニュースに切り替える。
テレビのほうで気を利かせたかのように、紛争に関するニュースが流れていた。
「例えば、さ」
「うん?」
「僕が今、あそこに駆けつけたとするでしょう?」
言いながらしわくちゃになったシャツに包まれた腕を伸ばす。
「君らの力を借りてその場の戦闘を止めても、また翌日には元に戻っちゃうから」
「根本を絶たねえと解決しねぇよ」
「うん、そこの原因と暴力の絡まったのをどうにかしないとね」
鼻をひとつすすっ手から、グラスを呷る。
「先ずは、僕が抑止力にならないと」
それだけ言って両頬をはたく。
皆が望むはずの自分の理想に焦がれて。
個性や欲やエゴは焼き払って土に埋めて。
「あぁ、明日はきっと何処までも続くんだよなぁ」
わかっていても、つい天井仰いで独りごちる。
「へっ」
鼻で笑った二世の手袋の滑らかな指先が頬を撫でた。
「嫌んなったって言ったって、明日になればいつもの悪魔くんに『なる』んだろ」
「まぁね」
「かわいいほっぺたが朱くなっちまって、甘いもん食って忘れちまえよ」
頬をぐい、と引っ張られてチョコレートを突っ込まれる。
「ひゃわい、とかきみ酔ってる?」
「こんくらいで大したことねぇよ」
そう言って空にしたグラスを突き出したので適当な瓶を掴んだ。
アルコールで満たしたグラスをどちらともなく合わせると、濁った音がする。
「Cheer!」
「乾杯……バレンタインなのに、君と二人とか」
「……十三年ぶりだな」
「へ……?」
「空いた」
再び空になったグラスを振ったので、
「まだ、なんかあったっけ?」
と、テーブルの上の瓶を物色していると声が掛かる。
「ところで……やっぱ、いいわ」
それだけ言うと、これみよがしに煙を吐き出して笑った。
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