17日後に交際していることがバレるSS。
「――ねぇティナ。こんな事を聞いてはアレかもしれないけれど」
「……なあに、セリス……?」
ふかふかのベッドに潜り込んで、さぁ寝るぞ、というタイミングを見計らってセリスはティナに話しかける。
眠たそうに目を擦っているティナには悪いが、こういう無防備な時にこそ人の本音というのは出やすいもの。
そうまでしてもセリスにはどうしても確かめたい事があった。
「貴女、イグニスの何処が好きなの?」
本当に好きなの?とは流石にティナが寝ぼけているとはいえ聞けなかった。
でも、セリスが知りたいのはつまりそういう事だ。
セリスにはどうにもイグニスがティナの好むようなタイプには見えなかった。
身内の贔屓目が多少入っているかもしれないが、ティナは間違いなく美少女だ。
抜けるような白い肌に神秘的な紫色の瞳、吹けば飛ぶような儚げな雰囲気とも相まってか、まるで本物の妖精のようだと思う。
男子達からの人気は勿論高いが、それ以上に近寄り難い神々しさがあってか、一部の間では高嶺の花のような扱いになっているのも知っていた。
…だから正直、安心していたのだ。
高嶺の花を自ら進んで手折ろうとする者が現れるなんて思ってもみなかったから。
(自然に折れたのなら、まだいいわ)
でももし、無理矢理折らされたのだとしたら――脅されて無理矢理交際させられているのだとしたら――それは大変由々しき事態である。
(勢いで協力するとは言ったけれど、やっぱりもう一度ティナの気持ちをちゃんと確かめてみないと)
何せ相手はあの完璧超人と呼ばれるイグニスなのだから、脅迫も洗脳も容易く出来てしまいそうでちょっと怖いのだ。
「うーん……たくさんあるけど……一番は動物好きで優しいところ、かな……」
「動物好き?……それはプロンプトの間違いじゃなくて?」
プロンプトがエース達と一緒にチョコボと遊んでいる姿は何度か見かけた事はあるが、イグニスが動物と戯れている姿など一度も見た事がないセリスは、はて、と首を傾げた。
「……前に皇帝が皆に魔法をかけて大変な事になった時があったでしょう…?」
「えっ?ああ…、仲間の半分がカエルにされた時の事ね?」
「あの時ね……、私も魔法でカエルになっちゃったの……」
異世界の各地に点在する次元の歪みを閉じる為、飛空艇で旅をしていた所を皇帝率いるイミテーションと魔物の軍勢に襲われた事があった。
『貴様らのような虫ケラどもには地べたに這い蹲る醜い蛙の姿がお似合いだ』
そう言って皇帝がパチンと軽やかに指を鳴らすと突如として飛空艇の甲板に巨大な魔法陣が浮かび上がり、その陣の内側に居た者全てをカエルにしてしまったのだ。
勿論それだけで皇帝がその場から引くハズもなく、運良くカエルにならなかった者達で激闘の末、何とか皇帝を撃退する事は出来たのだが。
「カエルの身体は小さくて軽いから……何度も戦闘の爆風に煽られて飛空艇から落ちそうになって……それを助けてくれたのがイグニスだったの……」
欄干に掴まって飛ばされないよう必死に耐えていたところを急に大きな手に掴まれて、もう駄目だと思った。
『――良かった、危なかったな』
てっきり魔物に捕まってこのまま食べられると思っていたのに、ふと、気遣うような優しい声がかけられてキョトンと上を見上げる。
(あ……、この人……ノクトの仲間の……、眼鏡の。双剣使いの人。あと料理が上手い)
正直、最初はその程度の認識だった。
仲間が増えていくにつれ名前を覚えるのも容易じゃなかったし、まだ仲間になってから日が浅い彼とは一度も会話をした事がなかったから。
驚いてそのままジッと見つめていると、すり、と優しく喉元を指で撫で上げられて思わず『ケロッ』と間抜けな鳴き声が漏れた。
『窮屈かもしれないがすまない。少しの間だけ我慢してくれ』
そう言って彼はカエルを――カエルの姿をした自分の事を――黒い上着のポケットへと無造作に突っ込んだ。
「彼は戦いながらも時々ポケットの上から私が落ちないように押さえてくれて……」
時々、ポケットの上から優しく撫でてもくれた。
相手が誰かも分からないようなカエルにそんな事をしてくれる彼の事が、その時から何となく気になるようになった。
イグニスの姿を見かける度に自然と目で追うようになってからも彼に対する好感度は上がる一方だった。
チョコボやモグ、インターセプターのような獣の仲間達には食事をそれぞれ専用に手作りしていて物凄く懐かれている事を知ったり、とか。
エーコやパロム達に強請られるがままお菓子を作っては食べる姿を微笑ましく眺めていたり、とか。
「……ずっと話しかけてみたいと思ってたの……でも……」
今一つ、自分には勇気が足りなかった。
次こそは、明日こそは、と何だかんだ先延ばしにして結局何もしないまま。
気付いたら離れ離れになってしまったのだ。
「……私ね……スゴく後悔したの……今度会ったら絶対に話しかけようと思って……なのに……向こうから話し掛けて貰えたから……本当に……嬉しく、て……」
とうとう眠気に耐えきれなくなったのか、ティナはモゾモゾと布団の中へ潜り込んで静かな寝息を立て始める。
「……そう。私の知らないところでそんな事があったのね……」
セリスにとってみれば"急"に、ではあるが、ティナの中では"ずっと"前から彼への想いはちゃんと育っていたのだ。
「……それならもう私から言える事は何もないわね」
二人の事応援してるわ、と呟いてからセリスは部屋の灯りを消して眠りについた。
《仲間達に交際がバレるまで、残り11日》
「……なあに、セリス……?」
ふかふかのベッドに潜り込んで、さぁ寝るぞ、というタイミングを見計らってセリスはティナに話しかける。
眠たそうに目を擦っているティナには悪いが、こういう無防備な時にこそ人の本音というのは出やすいもの。
そうまでしてもセリスにはどうしても確かめたい事があった。
「貴女、イグニスの何処が好きなの?」
本当に好きなの?とは流石にティナが寝ぼけているとはいえ聞けなかった。
でも、セリスが知りたいのはつまりそういう事だ。
セリスにはどうにもイグニスがティナの好むようなタイプには見えなかった。
身内の贔屓目が多少入っているかもしれないが、ティナは間違いなく美少女だ。
抜けるような白い肌に神秘的な紫色の瞳、吹けば飛ぶような儚げな雰囲気とも相まってか、まるで本物の妖精のようだと思う。
男子達からの人気は勿論高いが、それ以上に近寄り難い神々しさがあってか、一部の間では高嶺の花のような扱いになっているのも知っていた。
…だから正直、安心していたのだ。
高嶺の花を自ら進んで手折ろうとする者が現れるなんて思ってもみなかったから。
(自然に折れたのなら、まだいいわ)
でももし、無理矢理折らされたのだとしたら――脅されて無理矢理交際させられているのだとしたら――それは大変由々しき事態である。
(勢いで協力するとは言ったけれど、やっぱりもう一度ティナの気持ちをちゃんと確かめてみないと)
何せ相手はあの完璧超人と呼ばれるイグニスなのだから、脅迫も洗脳も容易く出来てしまいそうでちょっと怖いのだ。
「うーん……たくさんあるけど……一番は動物好きで優しいところ、かな……」
「動物好き?……それはプロンプトの間違いじゃなくて?」
プロンプトがエース達と一緒にチョコボと遊んでいる姿は何度か見かけた事はあるが、イグニスが動物と戯れている姿など一度も見た事がないセリスは、はて、と首を傾げた。
「……前に皇帝が皆に魔法をかけて大変な事になった時があったでしょう…?」
「えっ?ああ…、仲間の半分がカエルにされた時の事ね?」
「あの時ね……、私も魔法でカエルになっちゃったの……」
異世界の各地に点在する次元の歪みを閉じる為、飛空艇で旅をしていた所を皇帝率いるイミテーションと魔物の軍勢に襲われた事があった。
『貴様らのような虫ケラどもには地べたに這い蹲る醜い蛙の姿がお似合いだ』
そう言って皇帝がパチンと軽やかに指を鳴らすと突如として飛空艇の甲板に巨大な魔法陣が浮かび上がり、その陣の内側に居た者全てをカエルにしてしまったのだ。
勿論それだけで皇帝がその場から引くハズもなく、運良くカエルにならなかった者達で激闘の末、何とか皇帝を撃退する事は出来たのだが。
「カエルの身体は小さくて軽いから……何度も戦闘の爆風に煽られて飛空艇から落ちそうになって……それを助けてくれたのがイグニスだったの……」
欄干に掴まって飛ばされないよう必死に耐えていたところを急に大きな手に掴まれて、もう駄目だと思った。
『――良かった、危なかったな』
てっきり魔物に捕まってこのまま食べられると思っていたのに、ふと、気遣うような優しい声がかけられてキョトンと上を見上げる。
(あ……、この人……ノクトの仲間の……、眼鏡の。双剣使いの人。あと料理が上手い)
正直、最初はその程度の認識だった。
仲間が増えていくにつれ名前を覚えるのも容易じゃなかったし、まだ仲間になってから日が浅い彼とは一度も会話をした事がなかったから。
驚いてそのままジッと見つめていると、すり、と優しく喉元を指で撫で上げられて思わず『ケロッ』と間抜けな鳴き声が漏れた。
『窮屈かもしれないがすまない。少しの間だけ我慢してくれ』
そう言って彼はカエルを――カエルの姿をした自分の事を――黒い上着のポケットへと無造作に突っ込んだ。
「彼は戦いながらも時々ポケットの上から私が落ちないように押さえてくれて……」
時々、ポケットの上から優しく撫でてもくれた。
相手が誰かも分からないようなカエルにそんな事をしてくれる彼の事が、その時から何となく気になるようになった。
イグニスの姿を見かける度に自然と目で追うようになってからも彼に対する好感度は上がる一方だった。
チョコボやモグ、インターセプターのような獣の仲間達には食事をそれぞれ専用に手作りしていて物凄く懐かれている事を知ったり、とか。
エーコやパロム達に強請られるがままお菓子を作っては食べる姿を微笑ましく眺めていたり、とか。
「……ずっと話しかけてみたいと思ってたの……でも……」
今一つ、自分には勇気が足りなかった。
次こそは、明日こそは、と何だかんだ先延ばしにして結局何もしないまま。
気付いたら離れ離れになってしまったのだ。
「……私ね……スゴく後悔したの……今度会ったら絶対に話しかけようと思って……なのに……向こうから話し掛けて貰えたから……本当に……嬉しく、て……」
とうとう眠気に耐えきれなくなったのか、ティナはモゾモゾと布団の中へ潜り込んで静かな寝息を立て始める。
「……そう。私の知らないところでそんな事があったのね……」
セリスにとってみれば"急"に、ではあるが、ティナの中では"ずっと"前から彼への想いはちゃんと育っていたのだ。
「……それならもう私から言える事は何もないわね」
二人の事応援してるわ、と呟いてからセリスは部屋の灯りを消して眠りについた。
《仲間達に交際がバレるまで、残り11日》
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