17日後に交際していることがバレるSS。

 内緒話をするなら良い場所がある、と教えてくれたセリスと一緒にティナは書庫を訪れていた。

「内緒の話なんて別にしないけど…?」
「二人が付き合ってるってこと、まだみんなには内緒にするんでしょう?」

 だったら二人で会うのは内緒話をするのと同じ事よ、と言ってセリスは書庫の中をスタスタと奥に向かって歩いていく。

「この本棚の裏側にね、本を閲覧する為の小さいスペースがあるの。入り口から離れてるせいか他の人には見つかりにくいし、案外声も聞き取りづらいわ」

 セリスが案内してくれた場所には小さなテーブルと二人がけのソファーだけがこぢんまりと備え付けられていて、確かに内緒話をするにはうってつけのような場所だった。

「ここなら二人も周りに気兼ねせず会えるでしょ?」

 もし二人でいるところを見つかったとしてもオススメの本を教えてもらっていたという言い訳も出来るし、とやけに具体的なアドバイスまでくれたセリスに対し、ティナはナルホド、と素直に感心してコクリと頷く。

「うん。ありがとう、セリス。ここなら二人で会うのにちょうど良さそうね」
「良いのよ。困った時はお互い様なんだから」

 これからきっと必要になる場所だから早めに教えておくわね、という少々意味ありげな言葉に少し違和感を覚えたものの、ティナはそれ以上特に深くは考えなかった。





『男女が密会をする時に良く使われる場所がある』 

 そんな下世話な噂話を仕入れてきたのは恋愛話コイバナが好きなプロンプトだった。

「この飛空艇の中に幾つかあるみたいなんだけどさー、具体的にそこが何処かは分からないんだって」

 どうやらその場所を利用する者同士で情報を制限しているらしく、場所の管理には神であるマーテリアも関与しているらしい。

「この飛空艇、絶対空間歪んでるもんねぇ。何があっても不思議じゃないよ」

 外から見た時の大きさと内部の広さが明らかに一致していないのは周知の事実だが、それにしても密会に使えるような場所なんてあっただろうかとイグニスは思案する。

(……その場所が自由に使えたら、もっと一緒に居られるんだが…)

 ティナに告白をしてから早五日が経つが、その間に二人きりで会えたのは深夜の書庫での一回のみだ。

 毎日食堂で顔を合わせてはいるが今更馴れ馴れしく話しかける事も出来ず、仄かな熱と憂いを帯びた視線をこっそり交わすだけの焦れったい日々が続いている。

 視線が合うようになっただけ以前よりマシだが、それで満足出来るかと聞かれれば答えはノーだ。
 彼女と話をする権利も触れる権利も持っているのに、それを行使する機会がないのはあまりにも寂しい。


 そんな事を悶々と考えながら夕食の給仕をしていると、すれ違いざまにセリスから小さく折り畳まれた紙片を渡されてイグニスは困惑する。

 周囲に気付かれぬようこっそりと紙片を開いて中を確認すると、そこには『今夜 0時 書庫で待つ』という文字だけが書いてあった。


《仲間達に交際がバレるまで、残り13日》
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